第50話 敗北の足音 蝮
短いのですので、後一話投稿したいです。(出来なかったらごめんなさい)
蛙頭の化け物には目もくれず、《蝮》と《梟》は地面を縦横無尽に駆け回り、《フール》に攻撃を加え、退避するという行為を繰り返す。
――《蝮》の渾身の右正拳も。
――《梟》の刀による頸部を横凪にする斬撃も。
――《蝮》の飛燕の右回し蹴りも。
――《梟》の背部からの兜割のごとき一撃も。
二人の命懸けのヒットアンドアウェイは、全ていなされ、防がれる。
(俺達は――レベル6だぞ!)
レベル6の二人がかりで、手も足も出ないんだ。奴は、十中八九、レベル7以上。そうでもなければ、ここまで易々と、《蝮》達があしらわれるものか。
もはや、通常の方法では、勝ち目は万が一にもない。
《梟》に眼球だけ動かすと、肩で息をしながらも、頷く。
そのとき、《フール》から気色悪い笑みが消え、空を仰ぎ見る。
「面倒な方々が参戦してきたようですねぇ。私、あなた達、雑魚と遊んであげる暇はなくなってしまいました」
(面倒な方々? 《狂虎》の姉さんのことか? 餓鬼共の護衛じゃなかったのか? それに複数系なのも気になるが……)
いずれにせよ、奴はこの場で始末する。生け捕りの命だが、こいつは危険だ。野放しにしておけば、きっと、信じられん数の人間が死ぬ。だから――殺す!
第三階梯、戦術系上位スキル――【蛇王化】を発動させる。このスキルの発動中は、《蝮》の身体能力は飛躍的に上昇する。しかも、《蝮》の全攻撃に猛毒と溶解の特殊効果もつく。
奴のスキルは確かに恐ろしいが、あのクラスの奇跡の実現にはいくつかの条件を満たす必要があるはず。少なくとも、【蛇王化】した《蝮》には使えまい。
そして、それは《梟》も同じ。
刀を鞘に納めると、重心を落とし、左手で鞘を持ち、右手を柄に触れる。《梟》の全身が金色に発光していく。
第三階梯【梟柳】――《梟》最強の一撃であり、数段階上の次元の威力と速さを実現する対人戦闘としては無類の強さを誇るスキル。
「おお、素晴らしい! 力が跳ね上がりましたよ。怖いですねぇ。怖い、怖い。それなら私も殺されてしまぅ~」
緊張感のない声を上げると、身体をくねらせる《フール》。一々癇に障る奴だ。
「でもぉ~、止めて起きなさぁい。これは私からの親切な忠告」
《フール》は顔の前で数回、人差し指を左右に振る。
「クソ野郎!」
言葉を吐き捨て、身を屈めると、右腕に力を入れる。全身の血液が暴れまわり、右腕に集中していく。右腕は、二倍、三倍と膨れ上がっていく。
一撃に全てをかける。
「だぁっ!!」
思い切り右脚を地面に叩きつける。赤土色の地面が破裂し、上空へ舞い上がった。
《フール》へ一足飛びに距離を喰らいつくし、右拳を穿つ。
右拳が《フール》の脳天に届く数ミリ手前で、《蝮》の右拳は黒色の何かに、吸い込まれ、刹那バラバラになるほどの衝撃が全身へ走る。
襤褸雑巾のように地面に転がり、指先一つピクリとも動かすことができない。
(これ……毒か……)
独特の全身の神経が侵される感覚に、グラグラと揺れ動く視界。
「だ~からいったのにぃ~、お馬鹿さん」
《フール》は狂喜に満ちた声を上げながら、《蝮》に近づいてくる。
「あなた達、足止めくらいには使えそうですねぇ~」
《蝮》も、《A-3》同様、化け物化するつもりか。
死ぬのはいい。だが、あんな人間でもない、ただの肉人形に成り下がるのは御免だ。
せめて――。
「殺……せ」
《蝮》の魂からの言葉に、さもおかしそうに《フール》はケタケタと笑う。
「知ってますぅ~? 弱いゴミ虫は死に方すら選べないんですよぉ~?」
(くそ、くそ、くそぉ!!)
言いようもない悔しさに唇を噛みしめる。
奴はゆっくり、ゆっくり、まるで《蝮》の最後に残された尊厳をあえて傷つけるかのように、接近すると、首筋に手を伸ばし持ち上げる。
「それでは~、良い苗床になってくださいねぇ~」
《フール》の左手の先が紅に染まり、『府道公園』における《蝮》の戦いは終わりを告げる。
プチバトルでした。レベル6が雑魚扱い。お膳立てがようやくそろい、もうすぐガチバトルです。
次回から数話は個人的には結構書いてて楽しかった箇所ですので、お楽しみいただければ幸いです。




