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第46話 作戦会議 堂島美咲


一一月六日(日) 一四時 警視庁第一五資料室。


 ドーナツ形の机と備え付けられた椅子。正面には巨大なスクリーン。

スキルや魔術が一般的となった現代社会において、日々、事件は変化し、凶悪化している。そんな事件に迅速、臨機応変に対応すべく、警視庁内には、七つの会議室が設けられている。これが、警視庁が一般に公表している事実。

 しかし、建前と内実は乖離するのが世の常だ。国家的犯罪や、公安案件など捜査のため、第八の会議室が警視庁地下区画には存在する。

 もちろん、秘密裏の施設に、『――会議室』などというわかりやすい名前が付けられるはずもなく、『警視庁第一五資料室』と呼ばれている。

 

続々と会議室へ入って来るエージェント達の面子に、内心、美咲は絶句していた。

 八神管理官は、志摩家と対立関係にある幹部達にのみ、事情を説明し本作戦の決済を貰っている。その幹部達の命令がこの現象。つまり、警視庁は本気ということだ。

 A 、Bランクの警視庁でも名だたるサーチャー達に、探索者協議会から出向している二人のサーチャー。

ドーナツ型のテーブルに足を賭け、踏ん反り返っている手足の長い骸骨のような男が滝沢蛇勝(たきざわだかつ)、《(まむし)》の異名を持つ。ランクはS。

壁に寄りかかる黒色のマスクの長髪の青年が、鳥居伏木(とりいふぎ)。Sランクであり、通称、《(ふくろう)》と呼ばれる。

 警視庁に出向しているサーチャーについては、八神警視正の命で、この『一三事件』の捜査につく際に、資料で一通りは読んでいる。その中でも、両者ともに純粋な戦闘専門職として、実力はずば抜けていた。

出向組の中でも一二を争う実力者を、二人とも今回の任務に採用したのは、『一三事件』はもはや国際問題に発展しかねない勢いを見せているからだろう。

特に一昨日のフィオーレ・メストの殺害については、イタリア最高の魔術組織――『朱の夜明け』の長――ガルディア・メストが大激怒しており、今後日本に一切の魔術的協力はしないとまで言い放っている。

それに呼応するかのように、各国の他の被害者の遺族たちも日本政府に対し、批判の声を上げ始めた。

ここで日本の六壬真家(りくじんしんか)の志摩家娘まで殺されれば、警察の信用は地に落ちる。我々警察にあとはないのだ。

管理官の八神警視正が部屋に入って来ると、百戦錬磨のサーチャー達が葦の葉のように騒立つ。

当然のごとく八神警視正が入って来たから驚いているわけではない。警視正の背後にいる人物がどうしょうもなく、探索者の中では有名な人物だったから。

この軍服と軍帽を見事に着こなす、頬に深い傷跡を持つ背の高い美女は、美川虎珀(みかわこはく)

元陸上自衛隊超人部隊――【マッサークルフォース】出身。過去、東京都庁を狙ったテロリストの殲滅戦での命令無視により、大量の死者を出し、懲戒解雇となるも、探索者協議会がサーチャーとして受け入れた。探索者協議会の中でも異端であったが、次々に死地を潜り抜け、SSランクまで上り詰めた生粋の戦闘屋。その凄惨な戦い方から、《狂虎(きょうこ)》と称されている第一級のエージェント。

まさか、《狂虎》まで本作戦に加えるとは思わなかったが、これで作戦遂行は盤石となった。


「本作戦の概要を説明するよ」


 八神警視正の言葉に、ザワついていた会議室は瞬く間に静まり返る。

 雲の上の存在のSランクに、SSランクの《狂虎》まで実戦投入されるのだ。本来ミッションの難易度としては、最高クラスのものとなるはずだ。そうなれば、Bランクに過ぎないサーチャー達のかなりの数が命を落とす。彼らの間に漂っている強烈な焦燥はそのせいだろう。


「俺達が参加する必要がある戦争なのか?」


 《(ふくろう)》の言葉に、会議室中に息苦しいほどの緊張が走る。


「ないよ。君達は、もしもの際の保険さ」


 八神警視正のこの言葉に、美咲の隣のBランクのサーチャーが肩の荷が下りたように吐息を漏らす。


「保険? 何のだ?」


 《(まむし)》が、足裏で忙しなく床を叩きながらも声を荒らげる。


「『一三事件』の解決は警察の面子もあるから、できれば、お抱えのサーチャー達の手により終わらせたい。

 だが、失敗だけは警察の威信にかけても万が一にも許されない。だから保険として出向組のオレ達が後に控え、AやB共で手に負えないと判断したら、即座に選手交代する。そんなところだろ?」


《狂虎》の言葉に、八神警視正がニィと歪みきった笑みを浮かべる。


「あ~、ばれちゃった? 上層部からメンドイ圧力があるのよ。これも中間管理職の辛いところかな」

「無駄口はいい。早く作戦を言いな」

「おっと、そうだね。時間も押してる。じゃあ、作戦内容だよ。

 その資料にある写真の二人の子供達の保護が最も優先すべき事項。美川、君は、二人の護衛についてもらいたい」


「護衛ねぇ-」


《狂虎》は興味もなさそうに、資料をパラパラとめくっていたが、八神管理官に向き直る。


「わかった。それと、今更人間扱いされたいとも思わん。オレ達は協議会のつけたネームでいい」


八神管理官は、頷くと説明を続ける。


「写真の子供達は《府道駅前公園》のベンチで一八時から二〇時まで談話している。

 僕の予想では、一九時を過ぎた頃、襲撃を受ける。

Aランクのサーチャー一五名により、襲撃者を包囲。その隙に、子供達は公園出入口まで避難する手はずなっている。そこを《狂虎》が保護」

「一応、確認しておくが、本当にオレは戦闘に参加しなくていいのか?」

「構わない。というより、子供達の命が僕らの今回の任務の生命線ともいえる。彼らが無事なら何とでも挽回が利く。だから、《狂虎》、君は、僕らに何があっても、子供達を保護して欲しい」

「了解した」


 暗い笑みを浮かべると、《狂虎》は足を組み直す。


「Bランクのエージェントは、周囲の民間人の保護。Aランクは敵を殲滅する」


「俺達はどうすればいい?」


「《(まむし)》と《(ふくろう)》は、Aランクの後ろで待機し、少しでも苦戦する様なら、それを口実に介入してもらいたい」


「いいのか? それでは警察の面子は保てないぞ?」


 《狂虎》の疑問の言葉に、八神管理官は肩を竦めると、初めて気色悪い笑みを消す。


「上層部の指示は、Aランクに戦端を開かせること。戦線をAランクにより維持しろとまでは指示されていない」

「それは、こじつけではないのか?」

「そうさ。こじつけだよ。でもね、具体的な命令書を作成しなかったのは彼らのミス。

 所詮、彼らは安全な場所からピーチク(さえず)郭公(かっこう)に過ぎない。他人の目を介してしか、命令一つできやしないんだ。ならば――」

「その目を狂わせてやればいい。そういうことか」


八神管理官が頷き、資料を手に取り、席から立ち上がる。


「それでは、作戦の概略につき納得してもらったところで、詳細を説明する。

資料の四ページ目を開いてくれ」


 八神管理官の口が開かれ、『一三事件殲滅作戦』は静かに進行する。




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