第37話 セシルの病室
セシルの病室に足を踏み入れると、金髪ロン毛のイケメンエルフと赤髪を後ろでお団子型にした眉目秀麗な女エルフがベッドに寝ているセシルを庇うかのように移動した。
女エルフは上半身が豪華な銀の鎧に、美しい刺繍がなされた皮のスカート。イケメンエルフの方も、絢爛な白と青の法衣を着用している。
この二人、服装、立ち振る舞い、どの角度からみても、一般人ではないのは明らかだ。セシル、いいところの坊ちゃんだったんだろうか。
「あっ!」
俺に気付き、子犬のようにパッと顔を輝かせるセシル君。セシルと相反するように、二人のエルフは顔一面を嫌悪で染める。
セシルが人間にあれだけのことをされたんだ。当然と言えば当然か。
「人間、ここはセシル様の寝室だぞ」
寝室というか、病室なんだがな。
二人のエルフの険悪な態度に、壮絶に慌てまくるセシル。
「知ってる。見舞いにきたんだ」
「薄汚い人間の平民風情が、セシル様を見舞うなど、なんと烏滸がましい」
イケメンエルフが、わざとらしく右手の掌を顔に当てて、上を向く。
「そういわれても、友達だしな」
正確には、ほっとけない年の離れた弟かもしれんが。
「人間の友などセシル様には相応しくない」
強い口調で赤髪女エルフは俺に言葉を叩きつけてくる。
「まあ、そう言うなって。少しだけセシルと話したい。時間はとらせねぇよ」
「そんなの認められるはずが――」
イケメンエルフが、即座に拒絶の言葉を紡ごうとするが――。
「フーエル、レティ、ユウマさんは僕の大切な友人だ。無礼な口は許さない」
「も、申し訳ありません」
しゅんと項垂れる赤髪エルフの女――レティと――。
「しかしですね、セシル様――」
セシルの拒絶の態度にもめげずに、反論の言葉を紡ぐイケメンエルフの青年――フーエル。
「いいから、少し席を外して」
いつになく強いセシルの言葉に、レティは無言で頷く。しかし、フーエルの方はさらに、食い下がった。
「いけません。人間の男は例外なく獣と聞きます。同じ部屋に二人っきりなど、絶対に許容できません」
それ、滅茶苦茶な偏見だと思うぞ。てか、変な想像すんじゃねぇよ。気色悪いわ。
レティは、少しの間、俺とセシルを相互に眺めていたが、すごい剣幕で捲し立てているフーエルの後ろ襟首を掴むと、引きずるように部屋を退出していく。
「ユウマさん、武器屋に案内できなくて、御免なさい」
二人が退出すると同時に、頭を深く下げてくるセシル。
「構わんよ。それより、まだ痛ぇのか?」
ベッド前まで近づくと下げた頭をグリグリと撫でる。
「いえ、怪我自体は、レティに治してもらいましたら。もう痛みはないです」
「レティに治してもらった?」
骨がポッキリ折れてたんだぞ。HP回復薬などでは修復不可能な全治数か月の怪我のはずだ。
ただ、確かにセシルの頬には今朝とは別人のように赤みが差しており、調子はいいようだ。
「レティは僕らの国でも随一の回復系魔法師なんです」
魔法か。魔術のことだろうが、骨折まで修復する程の力は地球ですらも貴重だ。
「そうか。でも大怪我だったのには違いないし、安静にしてろよ」
「はい」
俺が長居しては、身体を休められまい。とっとと用を済ませよう。
「やっぱり、冒険者を続けられねぇのか?」
「はい……」
セシルの薄っすらと浮かんでいた笑顔が歪み、悲痛に顔を曇らせる。
「なんでだ?」
個人の事情に首を突っ込むべきではない事くらい重々承知している。でもセシルが命の危険を冒しても冒険者になろうとしたのにもそれなりの訳があるはずだ。セシルには借りがある。できる限り、力にはなってやりたい。
「明日の朝、また来ていただきませんか?」
「今じゃ、駄目なのか?」
「ええ、明日、ユウマさんにお伝えしたいことがあります」
「わかった。傷が治ったといっても、まだ本調子じゃねんだ。当分、激しい運動は厳禁だぞ。ゆっくり寝て、体調整えな」
部屋を出ると、扉付近で中を覗き込んでいた二人のエルフと視線がぶつかった。
レティに関しては俺に対する敵意は嘘のように消失しており、軽く会釈すらして来た。
一方で、フーエルは、親の仇でも見るかのような視線を向けてくる。
普通、反応が逆だと思うんだが。
シャーリーに軽く挨拶を済ませると、『ルミリス』の自室へ戻り、【覇者の扉】から《滅びの都》――《魔の森深域》へと行く。
短くてごめんなさい。この方がキリがいいものでして……。次回は、かなり長いので、どうか、ご容赦を!




