第34話 スカウティング・フィスティバル セレーネ
アースガルド、ピノアの北区《華都》――《バベル》。
《バベル》は、華都最奥にある三階建てのどこにでもありそうな建物だ。
もっとも、普通なのは見かけだけ。凝り性な超常者達が、魔改造しており、別次元なものとなっている。
天族セレーネは、地下五〇階の大聖堂の最後尾の机に突っ伏し、周囲の声に耳を欹てていた。
聞こえてくる内容は、主に三つ。
一つが、《滅びの都》の攻略情報が一つ、二つ目が、自己の支配するギルドについて、最後の最も多い内容がもうじき始まるスカウティングの話題。
大聖堂内に充満する興奮した声から察するに、この度のスカウトは苛烈を極めるのは間違いない。
強力な素質を持つ人間種など滅多にいない。どのギルドも喉から手が出るほど欲しているはず。しかも、この度のスカウトティングを主催するのは、あのロキだ。
ロキは、性格、心根共に心底ねじ曲がっており、最低最悪の糞野郎だが、その主催するスカウティングに誤りはない。
ウォルト・アルウェッグのスカウティングをしたときもそうだった。スカウティング時からレベル3。そして、今やエルフや竜人のような長寿でもなく、二十代でレベル5に届く怪物。さらに、レベル6も間近に迫っていると噂されている。
この度、ウォルト並みの素質を持つものと契約を結べれば、《滅びの都》の攻略の足掛かりとなる。
そうだ。皆、焦っているんだ。
『七王天武祭』開催の神託が為され、《天界》、《竜界》、《霊獣界》、《冥界》の四界とこのアースガルドが繋がって早、九三年。皆がこぞって、《滅びの都》の攻略を開始した。
もちろん、《滅びの都》による宝物などが目標ではない。宝物は《滅びの都》攻略の手段であって、目的ではないのだ。まあ、宝物を得る事が目的となる超常者もいるのは否定しないが、一般的ではない。
《滅びの都》攻略の目的は、《覇種》の称号の獲得。
過去に《始まりのセカイ》が作りし、《滅びの都》の最終試練は可変、一度クリアするとその攻略者とその主人に《覇種》の称号を与え、攻略前の状態に戻し、次の攻略者を待つ。
要するに、《滅びの都》の攻略は早い者勝ちというわけだ。そして、残り時間的にも、クリアできるのは、一チームのみ。
制限時間付きなのは、簡単だ。それが、『七王天武祭』に参加する切符だから。
確かに、《滅びの都》を攻略し、《覇種》の称号を得れば、他の超常者とは隔絶した力を有する。
だが、その奇跡すらもただの通行証とするほどの価値が、『七王天武祭』にはある。
『七王天武祭』――一万年ごとに開かれる超常者達による大戦争。より正確には七柱の《覇王》の大激突。
覇種を得た超常者達は、各覇王と眷属契約を結び、その眷属として主である覇王を勝利に導くべく行動する。
『七王天武祭』の勝利は単純明快。他の《覇王》の滅殺。そして、たった一柱、生き残った《覇王》が次の《セカイ》になる。
《セカイ》は全能なる存在であり、世の全ての摂理と真理を掌握せしめるもの。一万年間世界を掌握し、《セカイ》はただの《覇王》へと戻る。
全能なる存在の眷属だ。《覇王》の眷属達も、神格を得て、いわゆる《神》として一段高い存在として君臨することになる。
そして、この『七王天武祭』は七柱の《覇王》が出現し、初めて開催されるところ、既に二年前、六柱目はゲームの開催地である地球に覚醒した状態で顕現したとの報告があった。
残りは、たった一柱のみ。最後の一柱が覇王として目覚めたとき、ゲーム地である地球と四界との間にゲートが開く。それがゲーム開始の合図。
だから、もう残された時間は僅かなんだ。なのに、《破滅の都》攻略は依然として進まない。その理由は、この《破滅の都》は、長時間の超常者達の侵入を拒むから。もちろん、一、二時間は行動も可能だが、それを過ぎると、超常者の身体は休眠状態に入ってしまう。それで、攻略などできるはずもない。だから、超常者達はこのアースガルドの現地の人間種と契約し、彼らを介して攻略を目指す。
もっとも、人間種の寿命は短く、肉体も弱い。第一試練の《魔の森》さえも、超えることができてはいないのだ。それ故、近年は人間種でも比較的長寿なエルフや竜人と契約する超常者達が続出している。
ともあれ、セレーネはこのスカウトティングの主役ではない。なぜなら――。
「あ~ら、セレーネ、貴方もいたの?」
嫌な奴にあった。
女性にしては比較的長身ではあるが、すらりと伸びた肢体に、純白のドレスの上から押し上げる豊かな双丘。そして、非の打ち所がないほど整った美しい顔に銀色の髪。
天族――エオス。セレーネの姉であり、会いたくない超常者の一柱。
「ごきげんよう。エオスお姉様」
立ち上がり、スカートの裾を持ち、お辞儀をする。
「えぇ、ごきげんよう。聞いたわぁ、今度、お見合いするんでしょう?」
セレーネの両親が、幾度となく見合いの話を持ってくるが、セレーネは全て突っぱねている。そんな事、エオスの情報網なら自明だろうに、相変わらずの嫌味節だ。
「いえ、妾は《滅びの都》の攻略という使命がありますれば――」
「貴方が、攻略ぅ? 無理、無理、無~理。どんな才能ない人間種でも、貴方と契約するのだけは御免だと思うわよぉ~」
「そうでしょうね」
悔しいが、真実だ。契約が完了すると、超常者と眷属達の間には《恩恵》という不可思議な力が生じる。その最も基本的な恩恵が、眷属の成長速度の亢進だ。通常数倍から強力な超常者なら十数倍にすら達することすらある。
その基本的な契約の恩恵がどういうわけか、セレーネにはない。代わりにあるただ一つの恩恵は、契約した主人と眷属を含むコロニー内で一つのネットワークを作るというよくわからないもの。
恩恵判別用の用紙でも、そのネットワークが何なのかが判然としない。
仮にネットワークがスキルや魔術の共有なら凄まじい恩恵だ。しかし、眷属契約は、同格の存在同士では結べない。つまり、超常者同士では不可能なわけだ。そして、セレーネに碌なスキルや魔術がない以上、冒険者達に与えられるものは何もない。故に、誰も契約などしてもらえない。
「分ってるんじゃない~、これ以上、私達の顔に泥を塗らないでねぇ~」
右手をヒラヒラさせると、前方の席へと歩んでいく。
外聞をやたら気にするお父様達は、無能なセレーネが『七王天武祭』の参加を目指すこと自体が許せない。身内の恥を世間に晒すに等しいから。
「は~い。それではスカウトティングを初めま~す」
眼帯に黒髪をオールバックにした男が壇上で、マイクを握り間の抜けた声を張り上げている。
ロキが来た。そろそろ、開始されるようだ。
巨大なスクリーンが下がり、映像が映し出される。
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映像の終了後、会場は未だ嘗てないほどの異様な熱気に包まれていた。
――獲得の決意を高らかと宣言する者。
――そそくさと、スカウトの行動に移すべく部屋を出て行くもの。
――流された戦闘の映像を分析する者。
そして――。
(あれは無理じゃな……)
――セレーネ同様、スカウトを諦める者。
『鋼の盾』との小競り合いのうちは、まだ他の超常者達も、ここまでの執着はなかった。現に、このときまで、聖堂内に話し声がチラホラ、セレーネの耳にも聞こえてきていた。
それも、怪物と黒髪の少年との戦闘になると、普段、騒がしい超常者達の口は閉じ、ただ目を皿のようにして眼前のスクリーンを凝視するのみ。
それもその筈だ。あの怪物は異常だった。口から青色の塊を吐くし、動きも巨体とは思えぬ俊敏さ。しかも、超回復のおまけつき。ロキが画像を分析した結果、あの怪物はレベル4、所持スキル合わせればレベル5に相当するそうだ。
その怪物を黒髪の少年は終始圧倒した。怪物の攻撃は空を切り、少年の攻撃は、怪物の体を肉の人形へと変える。そして、不死に近かった怪物を呆気なく撃破してしまう。しかも、あの武器、あれは地球での武器――銃。おそらく、《滅びの都》の出土品だろう。
ともあれ、あの怪物は本来上位ギルドがチームを組んで挑むべきもの。要するに、あの少年を獲得することは、中小ギルドが上級ギルドに至るに等しい。上位ギルドクラスの力を得れば、冒険者組合からの優秀な冒険者達の斡旋の頻度が増す。一気に、《破滅の都》の攻略が近づく。
おそらく中位以上のギルドは目の色を変えてスカウトを開始するはず。そんな状況で、下位ギルド、まして、セレーネのようなギルドすらも持たない超常者になど契約などしてもらえまい。
重い腰を上げると、未だに繰り返し放映されるスクリーン内の少年が目に留まる。
いずれにせよ、今日この時を境にこのアースガルドは変貌する。ぼんやりと、そんな予感がしていた。
いかがだったでしょうか。ここにきて、悠真の称号の桁外れのチートの理由が漠然とではありますが、明らかになったと思います。
そして、すでに悠真は一度覇王の一柱には出逢っています。




