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第31話 スカウト


一一月四日(金)

 

 起きると直ぐに自身の身体の異変に気付く。身体の気怠さはもちろん、身体中にあった裂傷が消失し、捻じれ骨が露出していた左腕すらも傷一つなかった。

 寝る前の俺の身体中の傷は、小傷程度ではなく大傷だろう。金級のHP回復薬(ポーション)を飲もうが修復などしようもないのだ。

 この非常識な現象には見当がつく。

左端は、『鑑定Lv3』になっており、その隣の矢印の点滅を触れると、『アイテムボックスLⅴ2』と『休息Lv1』があった。


――――――――――――――――――


『休息lv1』


〇説明:睡眠をとることで、小傷から大傷までの傷をその睡眠の時間に応じて修復する。ただし、完全修復には三時間以上の睡眠が必要である。


――――――――――――――――――


 また、出鱈目な能力が発現しやがった。今は朝の六時ジャスト。完全回復しているということは、三時間以上は眠ったということだろう。

 だが、これで《滅びの都》での戦闘に自重をしなくてよくなった。三時間ほど眠れば、回復するわけだしな。

『アイテムボックスLⅴ2』は、収納可能容量が一〇立方メートルへ、劣化速度は外界の十分の一まで能力が向上していた。

『鑑定Lv3』は《魔物図鑑(限定的解除)》の項目が増えている。


――――――――――――――――――


『魔物図鑑(限定的解除)』

〇魔物を鑑定する。

■Lv・種族鑑定:Lv・種族を鑑定する。ただし、自身と同Lv以下の存在に限る。


――――――――――――――――――


 自身より以下が限定だが、魔物のLvと種族の鑑定が可能となった。『次のレベルに至る条件』を満たすためにも、これは大きな一歩。

 『鑑定Lv3』は、新規の変化はこれだけのようだ。

 ステータスも確認するが、やはり、レベル4となっており、次レベルへ至る条件は、『レベル4以上の魚系の魔物を新たに200匹討伐』だった。レベルが上昇したせいか、条件が別次元で難解になっている。

 また、【エア】については新たな、常時機能が追加されていた。


――――――――――――――――――

■常時機能:

〇特殊機能簡易切り替え:【エア】の特殊機能を音声で切り替えが可能。

――――――――――――――――――


 この機能は大きい。正直、戦闘中に《銃弾創造》から《時限弾》に切り替える暇がなく、困っていたんだ。まあ、《時限弾》は《銃弾創造》と比較し魔力を爆食いする。使用する機会は考えるべきだろうが。

 


 今日は【覇者の扉】がある。八時一〇分に向かえば十分間に合う。

 

 その間に――。


 シャワーを浴びて、少し早い朝食を食べると、セシルに会うべく冒険者組合別館へと向かう。昨日、シャーリーから六の時前のセシルとの面会を許可されていたのだ。

 職員用の扉から冒険者組合別館に入ると、ロビーは騒然としていた。まだ、組合別館は空いてない。にもかかわらず、この人の量。どうやら、一足遅かったようだ。シャーリーが血相を変えて俺の元まで小走りでやってくる。


「セシルが、いなくなったんだな?」

「はい。どこ探してもいないんです!」


 涙ぐみそうになり、唇を噛みしめているシャーリー。セシルが大けがをして次の日の失踪だ。無理もない。


「セシルの行きそうな場所で、心当たりは?」

「ユウマさんのところくらいしか……」


 確かに、昨日、事実上セシルがすっぽかした事になっていた。

 しかし、早朝、俺が会いに行くからちゃんと寝ていろとの旨の手紙をシャーリーに書いてもらっていたはず。セシルが、早朝この組合別館を出る理由に乏しい。

 大方、あのモヒカン頭におびき出されたんだろう。だとすると、どこに連れて行かれた? 闇雲に探していたのでは、時間がかかり過ぎる。下手をすれば、セシルの命にすら係わるかもしれない。


「どうかしたのかい?」


 黒髪をオールバックにした男が別館の二階から階段を悠然と降りて来る。男は、黒色のズボンに純白のシャツ、その上から黒のジャケットを羽織っている。さらに、右目には黒色の眼帯。

 服装や佇まいを見ても、このアースガルズの住人というよりは、地球人と言った方がしっくりくる。


「ロキ様、お騒がせして申し訳ありません」


 左腕を後ろに、右手を胸当てて、優雅に一礼するシャーリー。気が付くと、ロビーにいる全員が、同様の仕草をしている。

 この眼帯の男は組合幹部か何かなんだろうが、今はセシルの行き先の方が遥かに重要だ。貴族ごっこは後で好きなだけやってもらおう。


「シャーリー、俺は一度、『ルミリス』へ戻る。あんたは、引き続きこの周辺の捜索を頼む」

「は、はい!」


 ロキの手前からか、姿勢はそのままで顔だけ俺に向けて答えるシャーリー。相変わらず、律儀な奴。

ともあれ、今は一分一秒、時間が惜しい。外へ出ようと別館の出口へ体の向きを変え、足を踏み出すと、背後から声がかかる。


「待ちなよ」

「なんだ? 見ての通り、目下取り込み中だ。世間話なら後にしてもらおう」


 俺の拒絶の言葉にも、黒髪眼帯の男――ロキは顔色一つ変えない。むしろ、シャーリーを初めとする組合職員が凄絶に慌て始めた。

 

「探しものかい? 捜索というくらいだ。生き物、人探しかな?」


 まるで俺の焦燥を楽しむように言葉を紡ぐロキ。俺は昔から、この手の他人の不幸すらも娯楽の材料にする奴は性に合わない。


「ああ」


 とっとと、セシルの探索に向かおう。これ以上の足止めはマジで危険だ。


「僕なら、君の探しもの、特定できるよ」

「はあ? あんた、俺が何を探しているのか知ってんのか?」

「知らない」


 一々腹立つ奴だ。人の神経を逆撫でして来る。


「話にならんな」


 ロキに背を向けようするが、シャーリーに押しのけられる。

 

「ロキ様、セシル・フォレスターという名のエルフです!」

「それだけじゃあ、わからないなぁ、そのエルフの持ち物とかある?」

「少し、お待ちください」


 シャーリーは二階のセシルの寝ていた救護室へ駆けていく。雪の結晶のような装飾がなされたピンを片手に、階段を駆け下りてくると、ロキに渡す。


「これ、あの子のヘアピンです」


 ヘヤピン? 益々、女子だな。装飾も完璧に女性用だし、セシルの奴、まさか女装の趣味でもあるのだろうか。滅茶苦茶似合いそうで怖いんだが……。今度、それとなく、やめるようアドバイスでもしよう。


「その前に、一つだけ条件があるよ」

「私ならどんなことでもします!」


 身を乗り出すシャーリーを一瞥すらせずに、俺に薄気味悪い笑みを向けるロキ。


「悪いが、僕は君に興味がない」


 このロキの悪戯っ子のような表情。まともなものではあるまい。本来なら、是非とも拒否したいところではあるが……。


「時間もない。早く条件とやらを言え!」

「この事件の一部始終、映像としてスカウトに回したい」


 スカウトね……どうしてこうも新規の単語が次々と出て来やがるんだ? 大体中世時代の異世界でスカウトもねぇだろう? 


「スカウト!? ユウマさん、それなら、貴方にメリットになりこそすれ、デメリットはない。

 貴方はレベル2、グスタフ達、『鋼の盾』のレベルは全員1。場所さえ解れば貴方の敵ではありません」


 シャーリーの俺のレベルが2の発言により、場は騒然となる。

 それにしても、そう驚くことか? レベル2など、二〇匹の浅域に生息する雑魚魔物クラスを倒して至ったんだ。俺の異常な成長速度を踏まえても、レベル2などゴロゴロいるはずだろうに。


「俺は条件を飲む。早くやってくれ!」


 スカウトとやらが意味不明だが、子供の命と天秤にかける価値などない。スカウトという言葉からも、強制的に宗教団体のような組織に入団させられることではないだろうし、好きにすればいいさ。


「ときに、シャーリー嬢、彼のレベル2はいつ確認したんだい?」


 シャーリーは心底済まなそうに、俺にチラリと目線を向けてくる。

 俺がレベル2だったことは、この異世界アースガルズでも極めて重要な個人情報のはずだ。それを人前で暴露してしまった事は、重大な職務規定違反なのは間違いない。彼女も一杯一杯というところか。


「シャーリー、俺は構わねぇ。セシルが心配だ」

「ユウマさんが冒険者として登録したのは、二日前。その際に私が確認しました」

「二日前……」


 恐ろしく厳粛した顔で人差し指で自身の蟀谷を叩いていたが、口角を上げる。


「これは契約だ。僕らは契約を命の次に重んじる。だから、セシル・フォレスターの居る場所を必ず見つけるし、スカウター達に君の戦いっぷりを見せる。いいね?」

「二度言わん。早くしろ!」


 俺の言葉に真っ青になる冒険者組合職員に、再度気色悪い笑みを浮かべるロキ。

 ロキはスタスタと、組合別館の外へ出ると、大通りの中心まで移動し、ポケットから懐中時計のようなものを取り出し、蓋を開く。

 懐中時計の真上に薄青色の円盤が出現する。そこにセシルのヘアピンを置くと、上空一杯に光景が浮かび上がる。


「セシル!」


 シャーリーの悲鳴染みた声に、女性職員達の怒りに満ちた声。

 無理もない。そこに映しだされているのは、今もモヒカン頭の岩のような拳で殴られているセシルの姿だった。


(あの殴られ方はヤバい。遅れればマジで命を落とす)


 シャーリーを横目で見るが、真っ青な顔で首を振る。


「どこだ、ここは!?」


 ロキは、先刻、セシル・フォレスターの場所を必ず見つけると言い切った。奴ならわかるはずだから。


「悪いが、僕ができるのはここまでだ」

「ざけんな。こんなんじゃ、全くわからねぇ!」

「僕は、万能ではないよ。それに、セシル・フォレスターは見つけた。あとは君次第さ」


 こいつ、遊んでやがる。餓鬼が殴られることも、こいつにとって、おそらくゲームの一貫。俺はこいつと似たような奴を知っている。だから、間違いはない。


「てめえ……」


 俺がロキの胸倉に手をかけるが――。


「俺がその場所を知っている」


 背後から聞こえる声により、急転直下、事態は動き出す。




お読みいただきありがとうございます。

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