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第30話 憤激 グスタフ



「あの、クソ餓鬼がぁ!!」


 グスタフ・ヒッポは、部屋の石の壁に拳を叩きつける。破裂音と主に、石壁は拳状に陥没する。


(許せねぇ! 許せるわけがねぇ!! 一〇年だぞ。俺の今までの苦労が、あんなど素人の糞餓鬼に!!)


 冒険者となって、一〇年、雑務依頼から始まり、運搬人(キャリア)を経て、一人前の冒険者となり、何度も死ぬ目に遭いながらも、ひたすら経験を積んできたのだ。

 そして、血のにじむような冒険の末、もうじき、ランクはCとなる。あと、一ランク、Bになれば、冒険者組合から契約をする機会を得る。

 契約――冒険者組合に所属する冒険者と超常者(イモータル)とが結ぶ誓約。

『超常者』達は、契約した冒険者に《滅びの都》の完全攻略を求め、その見返りとして、ある恩恵を与えることができる。奴等の恩恵は千差万別だが、その中でも、共通して与えられるのが、通常人の数倍から数十倍にも及ぶ成長速度だ。

 《魔の森》の中域以上は、冒険者とっての宝物庫。中域以上の魔物の魔石は高額で取引されているし、もし、宝物など発見できれば、それこそ一生遊んで暮らせる。まさに、レベル2への到達は、成功への分水嶺。

 ただ、このレベル2、通常数十年にも及ぶ修練と、特殊な条件を満たさなければならない。自力で到達するのも理論上可能ではあるが、帝王アンドリューや、大英雄ユキムラのような突然変異体でもなければ、若くしての到達は到底できまい。

 この点、クラスBとなれば、冒険者組合から超常者(イモータル)達との仲介を依頼できる。組合を介せば、数ある超常者(イモータル)の一人と契約してもらえることだろう。契約者となれば、レベル2への到達など、比較的簡単に成し得る事ができる。そうなれば、グスタフに富と名誉が転がり込む。そんな手はずだったのだ。

 しかし、あのエルフの雑魚餓鬼と黒髪の餓鬼のせいで、冒険者ランクとギルドランクは2ランク下げられる。冒険者ランクの上昇を審査するのは冒険者組合であり、一度不祥事等で下げられれば、もう一度上げるのは至難の業であり、以前の数倍の労力が必要となるだろう。


「で、グスタフ、どうすんだ?」


 サブマスターのベムが当然の事を尋ねてくる。


「エルフと黒髪の餓鬼は、ぶち殺す!」

「どうやって? 既に、俺達は冒険者組合に目をつけられている。エルフの子供は組合に匿われている。下手に手を出して、組合から追われるなど俺は御免だぜ」

「なら、俺達を嵌めた黒髪の餓鬼だ!」

「阿呆、聞いた限りじゃ、黒髪の少年は契約者だろうさ。俺達など束になっても返り討ちにあうだけだ!」

「……」


 ベムの『契約者』の言葉に、頭に上った血が急速に下がり、代わるように、不安が煽られて炎のように広がっていく。

 『契約者』は、人間種であって人間種ではない。『契約者』でないものは、『契約者』である者に決して勝てない。これは真理であり、確固たる事実だ。


「冒険者ランクなどまた上げればいい。そんな薄っぺらな事より、もっと俺達は考えねばならぬことがある」

「薄っぺらだと!? 俺達がBランクになれば、契約者になれる機会が与えられる。契約者になれば、全てが手に入る。莫大な財も、名声も、お目にかかったこともねぇ女も!」


 ベムは心底呆れたように深いため息を吐く。心許した戦友のこの態度がどうにも、気に入らない。


「あのな……俺達は、子供を囮に逃げた卑怯者だ。そんな俺達と契約してくれる物好きな超常者(イモータル)などいやしねぇよ」

「くそがぁ! そもそも、お前がムートにあのエルフの餓鬼のキャンセル料を組合に求めるよう指示していなければこんなことにはならなかった!」

「それは悪かったな」


 大して悪びれた様子もなく、肩をすくめるベム。


「謝って済む問題じゃねぇ! テメエのせいで俺達は――」

「どうなったんだろうな? 新米の子供一人見捨てた先にある栄光など実に滑稽だろうよ」

「ベム、お前、まだ、あのときの俺の判断に難癖をつけるのか?」

「俺は冒険者だ。だから、命を賭けるのは当然だと思っている」

「そうか、ならば――」


 そうだ。あの時の判断が間違っているはずがない。あのエルフの餓鬼を囮にでもしなければ、グスタフ達は下手をすれば全滅していたかもしれないのだから。


「囮も殿(しんがり)の一種、仲間の命を守る最も重要な役目だ。だが、彼奴はまだ冒険者として半人前。その、栄光を与える資格は、まだ彼奴にはなかった」

「仲間だぁ!? あんな臨時の運搬人(キャリア)がか?」

「やっぱ、最近お前変わったな。少し前のお前なら、そんな言葉、口が裂けても言いやしなかっただろうよ。悪いが、俺は今のお前について行けねぇよ」


 ベムは、部屋の『鋼の盾』にいるメンバーを一瞥すらせずに、無言で部屋を出て行く。

 綺麗ごとを言ってはいるが、要するにベムも『鋼の盾』に旨味がなくなった。だから離れて行くにすぎない。財と力さえ手に入れれば、あっさり戻って来るはず。


「あのエルフの餓鬼が組合別館から出て来るのを待って攫う! いいな!?」

「し、しかし、あのセシルとかいう餓鬼、職員からやけに可愛がられてますし、当分出てこないかと……」


「心配するな。俺に考えがある」


 どうやったかは不明だが、本当に警備の厳重な冒険者組合別館の中に忍び込んで、このナイフを持ってきてしまった。やはり、あの御方の力は本物だ。とすると、自身が超常者(イモータル)であるというあの方の言葉は真実。

 ベムの言通り、もはや、グスタフ達、『鋼の盾』は、まともな超常者(イモータル)に契約をしてもらえることはない。

 あの御方は、今回の一件でグスタフがケジメをつければ、契約することを約束してくれた。あくまで、冒険者のBランク以上は、冒険者組合に超常者(イモータル)と仲介してもらえる権利を有するに過ぎない。超常者(イモータル)にその意思がある限り、ギルドランクなど関係ない。つまり、この事件を上手く処理すれば、グスタフもはれて契約者だ。

 手筈では、あの御方の手により、既に手紙はあのエルフの餓鬼に渡されているはず。のこのこ組合別館から出て来たところを攫って、エルフの餓鬼をなぶり殺しにする。

 あくまで、あの御方が契約の対価として要求したのは、事件のケジメであり、二人の殺害ではない。エルフの餓鬼を殺せば、黒髪の餓鬼に対する見せしめとしては十分。

 黒髪の餓鬼が難癖をつけてくる可能性は存在するが、証拠もなくグスタフ達に手を出せば、冒険者組合全体を敵に回す。破滅するのは奴の方だ。そして、エルフの餓鬼をあの場所に埋めれば、証拠は完璧に隠滅できる。

 これなら、万事うまくいく。そう。グスタフは、まだ全く負けちゃいないんだ。

 


超常者の登場です。

それにしても、グスタフ達は壮絶に書きにくい。もっと、簡単なキャラ設定にしとけばよかった……。

何にせよ、ここから物語の本筋へと突入していきます。主人公が出鱈目な理由が明らかになります。

では、また明日。

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