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第83話 始まりの街建設

一一月一九日(日曜日)午前九時


「元生徒会長ねぇ」


 ああ、あのおかっぱ頭か。Dクラスでも特に出来が悪く、かつ悪目立ちしていた俺は、大層奴に、毛嫌いされていたな。


「なんとかならないものだろうか。今、彼らは極めて重要な時期にある。無駄なことで煩わせたくはない」


 電話越しの阿久津の声に含有される僅かな怒りからも、あのおかっぱ頭の言動に強い反感を覚えていることが伺われた。


「わかった。こちらで対処しよう」

「感謝する」

 

 電話を切り、ベッドに横になる。

 俺の弟子たちの修行は、すこぶる順調らしいが、【神々の遊戯場】に対する他の生徒達の不満が爆発寸前らしく、近々、【神々の遊戯場】の利用権を巡って、生徒総会が開かれる可能性があり、阿久津から対応を求められたのだ。

 今はトライアル中であり、他の生徒に【神々の遊戯場】を使わせるわけにはいかない。別に俺の生徒達に独占させたいとかそういう理由ではなく、下手に許可すれば、恩恵を受けているトライアル中の者達との間に強烈な軋轢を生む可能性が高いからだ。

 確かに、元々使用可能だった《武帝の祠》が俺達の修行のために使えなくなるのはスジが通らない。原則扉の開閉を自由にし、【神々の遊戯場】専用のカードを持つものが開けた場合だけ、【神々の遊戯場】へ入ることができるように設定を変更するべきかもしれない。これでトライアル期間中でも、代表選手以外も、《武帝の祠》を使用可能となるし。

 ここで、一つの問題が生じる。扉前に設置してあった交換所だ。あんなものを見られては、また不公平感が増し、似たような運動が起きる。


「いっそのこと、町を作ってしまおうか」


 そもそも、門の前に、交換機械を置く意義はたいして高くはない。【神々の遊戯場】の扉前にカード登録用の機械のみを置き、交換機能を町で実際に行う。これなら、よりRPGっぽくてよくないだろうか。

 早速、徳之助に電話をする。皮肉にも俺達のギルドの中では、今や奴が、一番常識がある。




「俺としては、【神々の遊戯場】の一階層の【始まりの地】付近に町を作ろうと思うんだが」


 丁度、ギルドハウスで朝食をとっているそうなので、俺も食堂に向かい、奴と相談(悪だくみ)を開始する。


「いいんじゃないかな。でも、相良君、ホント君どんどん、化け物じみてくるね」


 心底呆れ果てたように、そんな失礼な感想を吐き出す徳之助。


「化け物は余計だ。それだな、町の創造はすぐにでも完了できる。問題は住民だが、俺は当面、【怪物晩餐モンスターフィスティバル】の怪物達で、まかなおうと思っているのだが」

「いやいや、流石に、武帝高校の普通の生徒が、あんなレベル50以上の怪物が町を徘徊しているのをみたら、絶対足を踏み入れすらしないと思うよ」


【神々の遊戯場】では、俺の関係者やプレイヤー達以外の存在につき、その強度に応じて、ポイントを消費し、解析をすることが可能に設定してある。


「かもな」


 それもそうか。スキル発動者の俺だって、初めて目にしたときは、悲鳴を上げそうになったくらいだしな。


「でも、始まりの町を作るのはいい案だと思う。(れい)も、何の変哲もない《武帝の祠》とわかれば、一連の噂がデマだと判断するだろうしさ」


 (れい)ね。徳之助と、あのおかっぱ頭は既知の仲らしいな。


「なら、やっぱり、問題は住民の確保か。徳さん、補充人員はいるかな?」

「すまないが、僕らのギルドは、目下、壮絶な人員不足状態にある。回せる人員はいやしないよ」


「だよなぁ~」


 いい案だと思ったんだがな。仕方ない、魔道具で結界でも張って、そこに交換の機械を置くとするか。

 

 ――マスター、ミルフィーユから報告が上がっていたカルウイッチ村周辺の貧困にあえぐ村民達を住まわせてはどうでしょう。


「うぉっ!?」


 突然、頭に響く【睿智(ソピアー)】の声に思わず声を張り上げる。相変わらず、心臓に悪い、登場の仕方をする奴だ。


(具体的な案は?)


 ――シルフィーユを大使として、村長達にこの町に居住しないかと話を持ち掛けます。

 了承を得られ次第、【神々の遊戯場】の一階層の【始まりの地】付近に町を作り、移住させるのです。


(いきなり村民が消失すれば、カルディア教国が不信がらないか?)


 ――村民が夜逃げすることは、よくあることで、村民が失踪すれば、カルディア教国側は、同様の離反を防ぐため、追っ手を差し向けてくるでしょう。


(そうなると若干目立つな)


 ――そこで、いくつかの死体によく似せた模造品を村に設置し、山賊の強襲にみせかけ火を放ちます。その上で、周辺の町に噂を流せば――。


(カルディア教国の役人に視察させるってわけか?)


――その通りです。マスター。


 アースガルドの住人としての村民を殺すか。確かに死んだ人間ならば、カルディア教国も殊更、調べようとは思わないだろう。


(それで、計画はどこまで進んでいる?)


 ――既にシルフィーユには、村傍での待機を命じております。


やはりな。それにしても、【睿智(ソピアー)】の奴、どうやってメンバーと連絡とっているんだろう? やっぱ、念話の機能で流用しているのかな?


(わかった。実行に移してくれ)



 それから、【神々の遊戯場】前へ行き、万物創造で【始まりの地】に町を創造し、設定を変更する。そして、交換の装置を回収し、遊戯場内へと入る。

 【始まりの町】は、村民達が住みやすいように、アースガルドの街並みに合わせた。もっとも、あくまで風景だけで、建物内部は、冷暖房、水道、電気フル装備の近代住宅としている。

 ここに来年訪れるのは、武帝高校の生徒。ならば、冷暖房や水道、電気、トイレ等は必須。村民達には、慣れてもらうしかない。


(ここはアースガルドか?)


 ――YESです。マスター。


 俺の予想通りか。この【神々の遊戯場】、空も大地も、水も、食料さえある。以前、少し気になって、調べてみたが、このダンジョンに実る果実や木の実は、アースガルドのものと似通っていた。そして、それは沼や池に生息する生き物も同じ。

 つまり、この世界の大地や空や湖や沼は、俺が作り出したものではなく、元々あったもの。具体的には、アースガルドに存在する未開の地を、俺の万物創造の権能により、ゲームによく似た世界に改造し、作り直した。そう考えるのが妥当だ。

 要するに、【神々の遊戯場】は異世界――アースガルドへの門というわけ。確かに、一から世界を作り出すなどまさに神様の所業であり、少なくとも今の俺にはできまい。それに、あれから数度魔石の追加補給がシステムから求めてられ、数千単位で【神々の遊戯場】に使用していることとも合致する。つまりだ。魔石が魔物魂を結晶化したものである以上、この【神々の遊戯場】には、数千単位の魔物の魂が存在することになる。生徒達に倒された魔物は、再度魂となって、ゲームシステムにより、その肉体を再構成されているのだろう。

 いわば、ここは小規模な《滅びの都》なのかもしれない。



 ギルドハウスの俺の自室へ戻ると、シルフィーユから、至急中央議事堂地下一〇〇階にある応接室へと来るよう連絡がくる。


 応接室には、村長らしき小柄な禿頭の老人と数人のボロボロの服を着た男女がいた。

 皆、頬が焦げ、あばらが浮き上がっており、一目で不健康でることが伺われる。


「俺が、このギルドの長、ユウマ・サガラだ。ユウマでいい」

「ユウマ様、その御慈悲に感謝いたしますじゃ」


 突如、老人を始めとする、数人の男女は、床に両手をつくと額を擦りつける。


「お前らは今ら俺の家族だ。そんな他人行儀な行為は必要ない」

「しかし……」

「よく頑張ったな」


 俺が肩を軽く叩くと、泣き出す老人たち。号泣する老人達が泣き止むまで、落ち着けるべく傍でその背を軽く叩き続けた。


 

 ようやく、泣きやんだ老人達から簡単な話を聞く。

 どうやら、村は盗賊に襲われていた最中であり、シルフィーユ達により無事撃退されたらしい。助け出された村民達の全員に、シルフィーユが俺達のギルドの加入を提案すると、彼らは例外なく、俺達のギルドの加入を希望した。

 意思も確認できた。後は、実行に移すだけ。隣の部屋で待機していた村人全員を、回復薬(ポーション)で全開させた後、【神々の遊戯場】の始まりの地にある始まりの町へと一斉転移する。


「この地を私達に下さるので?」

「ああ、衣食住と一定の給与は保証しよう。この付近なら、好きに開発してもらっても構わない。ただし、条件はある」

「そ、その条件とは?」


 恐る恐る尋ねてくる村長と俺の返答を固唾をのんで待つ村民達。


「そう身構えるな。お前達が俺の家族になった以上、一定の役割を担ってもらいたいというだけだ」


 俺はそう告げると、本日の【怪物晩餐モンスターフィスティバル】を発動する。

 奇跡の宴が始まり――。

 ――衣服店前にオブジェとして置かれていた犬の縫いぐるみの服装が警官の制服へと変わり、徘徊する。

 ――川の中を悠然と泳いでいた魚たちに手足が増え、陸に上がると板前の服装や、魚屋の服装へと変貌する。

 ――金物屋からコック姿のフライパンや、しゃもじ、フォークやスプーンが飛び出してくる。


「……」


 言葉もなく村長達は、一斉に両膝を地面へと付き、俺に手を合わせ始めた。


「当面はこいつらの指導で、仕事を覚えてもらう。本格的な商売は再来月の頭からだから、各自焦らず行うように」


 ここの始まりの町は、一種の総合デパートのような場所として機能させるのがベストだろう。

 即ち、ポイントで交換できるものは、今まで通り、武具、魔道具、創生書等の冒険に必要なもののみ。

この度、新たに追加した料理や衣服やアクセサリー等の日用品及び魔道具は、ポイントでは交換できないものとして、日本円での支払いとすれば、ギルドの収入源ともなり一石二鳥だ。

 武帝高校の総生徒数は3000人のマンモス高。しかも基本は金持ちばかり。年明けには、より良い収入源となることだろう。

 肝心の彼らの待遇だが、まずは衣食住を完全補償し、日用消耗品を無料で配布。その上、固定の給与を支払う。

 確かに、彼らは当面アースガルドや地球の街へは行くことができないが、近日中に建設が想定されている巨大ショッピングと娯楽の町で消費してもらうことにすればいい。


 まだ、拝みを止めない村民達をシルフィーユに任せると、俺はギルドハウスへ転移した。



お読みいただきありがとうございます。

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