第81話 火葬
「これは、これは、《強欲》様じゃないっスか? 何の真似ですぅ?」
四暮九佐加は一定の距離をとると、児玉根楽の首を切断した赤髪の青年に、油断なく身構える。
「それは俺の台詞だ。人の所有物に、お前、なにしてくれてんだ?」
そう静かに問う赤髪の男の声には、濃厚な怒りが纏わりついていた。
「君の所有物? ああ、この身体のこと? ようやくなじんだんだけどさ。もうお別れだね」
四暮九佐加は自分の全身をぺたぺたと触れる。
「俺の所有物の口で、それ以上、語るな」
赤髪の男の姿が消失すると、四暮九佐加の全身が細かなブロック状まで分解する。
テーブルの上に立つ赤髪の男の右手には四暮九佐加の頭部が握られていた。
『あ~あ、また死んじゃった。まっ、仕方ないよね。相手は覇王様だもん♬』
ドロリッと赤髪の男の頭部が解けると、床にしみこんしまう。
『でもさぁ、あんまりな仕打ちなんじゃない~? 僕、君達『超常現象対策庁』の都合のよいように動いたつもりだけどぉ?』
「ほざいていろ。テメエは、俺の所有物を喰らった。それだけで万死に値する」
『いいけどねぇ、どうせ無理だし』
「ちっ……」
赤髪の男は、舌打ちをすると――。
「下僕共、賊が逃げた。殺せ」
そう命じる。
二つの承諾の言葉が、赤髪の男の鼓膜を震わせる。
赤髪の男は、児玉根楽の頭部を持つと、胴体とつなぎ合わせる。そして、四暮九佐加の胴体を児玉の脇に置く。
「喜べ。俺様が送ってやる」
四暮九佐加にそう一言述べると、今度は、児玉根楽に向き直る。
「御苦労だったな。お前、良い駒だったよ」
根楽にそう呟くと赤髪の男から生じた炎は瞬きをする間すらなく、部屋から全てを燃やし尽くす。
――部屋のテーブル、椅子、内装も。
――児玉根楽の胴体と頭部も。
――児玉根楽の書き途中の文書も。
――四暮九佐加の全身も。
すべて蒸発し、気化してしまう。
その灼熱の中、赤髪の男の姿は消失する。




