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第69話 作戦会議


「全てが出鱈目か……」


 記載された内容は、ミラノ達が自白している内容とは似ても似つかぬものだった。

――古森(こうもり)街――この街で、ミラノとヒエロファント達は暮らしていた。

 神凪美莱(かんなぎみらい)、それが、ミラノの本当の名。

 ――長男であるヒエロファントの神凪右京(かんなぎうきょう)が、古森(こうもり)高校の歴史教師。

 ――次男であるトレンクス――神凪重虎(かんなぎしげとら)は建設業の主任。

 ――三男のハーミット――神凪閏(かんなぎうるう)は、古森(こうもり)中学の生徒。

 ――長女のラヴァーズ――神凪小蝶(かんなぎこちょう)が、化粧品会社のOL。

 奴等は約一〇年前まで、家族として暮らしていた。調査では、これは単なる形式ではなく、文字通りの意味。

 その後、ミラノはなぜか、東京で半年のメイド育成学校に通い、志摩家へメイドとして就職する。

 ヒエロファント達は、その後もこの街で生活していたが、一年半前に突如姿を消し、犯行に及んでいる。

 この際、何者かにより、一切の公的資料の消失、改ざんが行われるが、ヒエロファント達が自己の罪を認め、自白していることもあり、捜査本部は碌な証拠も得ないまま、誰も疑いもせず、その事実を信じてしまう。

 気づいたのは俺と、警視庁捜査一課長。彼は違和感を覚え、ミラノのみ、参考人として事情を聴取していたが、マメルティヌス収容所を訪問中、襲撃を受け、死亡してしまう。

 俺も、二周目と三周目の不自然さで初めて奴等の言動に違和感を覚えたのだ。別に、警察の職務怠慢というわけではあるまい。寧ろ、その事実に薄々感づいていたらしい捜査一課長が異常なだけだ。


「くそっ!!!  私は、きゃつらの書いた筋書きのまま、まんまと踊らされたというわけかっ!!」


資料を読み終えたバフォメットは、憎悪に満ちた顔でテーブルに拳をたたきつける。

テーブルは、特殊な魔道具でできているのか、バフォメットの怒りに任せた打撃にも、衝波一つ立たない。


「お客の前さ。落ち着きなよ。バフォメット」


 ロキがカードを手で遊ばせながら、そう告げる。


「しかし、ロキ様――」

「いいから、少し落ち着け」

「……」


 普段の穏やかな口調とは思えぬロキの強い言葉に、バフォメットは、一瞬目を見張るが、悔しそうに押し黙る。


「民優革新党。どこまでも、コケにされたものだな」


 徳之助達の調査では、秀忠が辞表を提出する前から、既に事態は動きだしていたらしい。

 野党――民優革新党は、《トライデント》の成立が公表されてから、警察庁の上層部の一部と接触し、《トライデント》の事実上の考案者である秀忠の失脚を模索する。ここまでは確定事項であり、裏も取れている。

 あとは、全て、状況証拠にすぎない。だが、あまりに条件がそろい過ぎている。

 第一、四界が出現してから、あまりに迅速な大政変。

 第二、マメルティヌス収容所内の容疑者との面会には、収容所管理局局長の許可が必要なところ、この日、局長は偶々出張中であり、本来なら、入ることはできなかった。なのに、なぜか、出張場所から、局長が許諾の書類を一課長へ発布する。しかも、ご丁寧に時間も指定して。

 第三、徳之助が古森(こうもり)街へ到達した途端、神姫未来乃(かみひめみらの)の逮捕状の請求の強制。

 どう控えめに見ても、《傲慢》と民優革新党、マメルティヌス収容所管理局局長は繋がっている。いや、《傲慢》があの程度の奴等に信頼を寄せるはずもないか。奴らは、《傲慢》の玩具(手足)に過ぎないと考えるべきだろう。


「今回の警察庁の改革とやらを最後に、俺は警察、いや、この国の全勢力から手を引く」

「原因は、民優革新党かい?」


苦々しく、下唇を噛みしめつつも、俺にそう告げてくる。


「いんや、単に思い出したのさ。俺は、そもそも、この国の権力というものを微塵も信用しちゃいけなかったんだ」

「そうか……」


 徳之助は、大きく息を吐き出すと、苦笑する。


「悪いな」

「いや、むしろ、今回の大掃除、手を貸してくれてありがとう」

「俺もミラノの保護で協力を仰いでいるんだ。ギブアンドテイクだろうさ」

「そうだね」


 まいったな。徳之助や堂島とも道を違えるのか……わかっちゃいたが実際にはかなり、応えるものだ。


「本題に入ろう。今回の作戦の概要は?」

「東条官房長が考えた策の柱は二つ。一つ目は、神姫未来乃(かみひめみらの)、いや、神凪美莱(かんなぎみらい)の無実を白日の元に晒し、一三事件を真の意味で解決に導く事。二つ目――」

「ちょっと待て、リルム様の罪が冤罪だと、この場の誰もが認めたではなかったのか!?」

「いや、そういう意味じゃありませんよ、バフォメットさん」


 金髪の男――十朱朱門(とあけしゅもん)が、血相を変えて主張するバフォメットの言葉を遮った。


「どういうことだ?」


 足の裏で、床を叩きながらも、苛立ちながらもそう尋ねるバフォメット。バフォメットがこうもイラつくのは、ミラノ達の洗脳に気づかず、一時的に加担したことにつき、責任でも感じてのことだろう。


「確かに、俺の見立てでも、神凪美莱(かんなぎみらい)は99%無罪。でも残念ながら、現時点では、100%無罪とまでは言い難い」

「まだ、ピースが足りないってことか」


 無言を守ってきたウォルトが初めて口を開く。


「その通り。あくまで我らが彼女を無罪としたのは、全て状況証拠。確定的なものが欲しい。 そして、それは志摩家にある」


 志摩家……確かに、二周目の矛盾多き襲撃は志摩家への報告から始まった。三周目に実にあっさり、辰巳叔父さんを殺したミラノ。志摩家内にこの矛盾の原因がある。それは、おそらく真実だ。


「わかった。策の二つ目は?」

「警察庁に潜む敵勢力の燻り出しだよ」

「具体的には?」

「それがね、僕にも、¨すぐに事態は動く¨としか知らされていないんだ」


 今更、徳之助が俺に偽りを述べる理由がない。真実なのだろう。

 まあ、秀忠の策は、もとよりこんな感じ。漠然としており、終わった後でもその意図が不鮮明なものがほとんどだ。天才、いや、鬼才を持つ者の思考などもとより、そんなものなのかもしれないが……。


「二の策については、取り敢えず、後回し。時宗が先決だな」

「そうだね。志摩家には僕の方から幹部全員の急遽招集を打診しておいた。一三事件の真実がわかるといったら、一族皆快く参加を受諾してくれたし」

「手が速いな」

「まあね。今から丁度、一時間後に志摩邸で、この事件の最後の謎解きを行う」


 志摩家は、皆大企業の社長や、探索者協議会の重鎮だ。そう簡単に予定を開けられるはずもない。それにもかかわらず、幹部全員の出席。流石は、ロキ……と言いたいところだが、実際は徳之助が求めても結果は同じだっただろう。

 それだけ、身内の志摩菊治を不幸のどん底に落としたあの事件は、志摩家にとってショッキングな事件だったのかもしれない。


「では、行動を開始してくれ」


 俺の言葉を契機に、皆席を立ちあがり、一礼してくる。

今の俺達には当たり前になった光景を、十朱朱門(とあけしゅもん)は興味深そうに眺めていた。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、できる限り早く投稿します。


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