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第61話 政変と面倒ごと

 午後、職員室で阿久津の元を訪れ、それとなく生徒達に口外しないように念を押すように伝えると、やはり既に了知していたようで、対策済みだった。

 阿久津に生徒よりも弱い教師も示しが付かぬということで、教師の【神々の遊戯場】の許可を求められる。石櫃(いしびつ)の件もあり、俺はそこまで教師共を信頼してはいない。

だから、俺の担任の六花と昔から知る若菜、根っからの教師である阿久津、桐田、聖の五名名のみの許諾をした。あとどうしても許可して欲しいなら、碇爺ちゃんに直訴してもらう。


 自宅の自室へ帰り、ウォルトに本日の試練の攻略につき相談しようとするが、真八から『文字伝達』により、メッセージが来ているのに気づく。

 メッセージを開くと――。


『マスター、今から少し時間を作って欲しい』


 本日の予定は、第三の試練の攻略のみ。時間くらいは作れる。そう。作れるが、真八は本来こんな強引な奴じゃない。少なくとも、俺に対してはそうだった。また、イレギュラー的事態だろうな。



 真八に指示された一時間後に、俺の自宅前に行くと、黒塗りの乗用車が駐車していた。車の前には、真八と自衛隊からの出向組の自衛官二人が佇んでいる。

 ロキが同伴ではないことからも、《トラインデント》関連だと思われる。まあ、ついていってみればわかるか。



 車に乗り込む。車の中は、以前のロキに乗せられたふざけた車ではなく、何の変哲もないただの乗用車だった。


「済まないな、マスター」 


真八らしかならぬ謝罪の言葉に、若干の不気味さを感じる。


「《トラインデント》関連か?」

「半分正解だ」

 

 半分か……これ以上の面倒ごとは御免なんだが。まあ、この頃は、若干俺の自業自得ともいえなくはない。


「わかんだろ? 俺も忙しい。要件は端的に言ってくれ」


 もっとも、もったいぶっているというよりは、その苦虫を噛み潰したようなからして、単に言い出しにくいだけかもしれない。


「計画に狂いが生じた」


 話の流れから察するに、計画とは《トライデント》のことだろう。


「だから、それじゃ意味不明だって」

「すまんな。俺も急展開しすぎて、頭の整理がつかんのだ」

「……」


 真八ですらか……十中八九、最近姿を見かけない奴が原因だろうな。


「秀忠か?」

「……」


 大きく息を吐き出す真八の姿は、俺の予感が的中したことを否応でも実感させた。


「何があった?」

「秀忠が、警察官を辞めた」


 真八は、そんな到底予想すらつかぬことを宣いやがった。


「警察庁を辞めたね……」


 ¨そこまでするか?¨、これが今の俺の偽りのない本心だ。警察庁を辞めた原因は、まず間違いなく俺だろうから。

秀忠とて、この地位に登り詰めるのに、奴なりの苦労をしてきたはずだ。それをあっさり捨てる? 相変わらず壮絶に頭の螺子が飛んでやがる。


「マスターに、一一月一〇日の国家公務員試験を受験してもらい、それをもって、晴れて正式に《トライデント》のトップに立ってもらう。それにより、《トライデント》への米国の介入を最小限にとどめる。その手はずだった。それが……」


 真八が頬を歪めながらも、下唇を噛みしめる。こんな真八を見たのは初めてかもしれない。


「秀忠が警察庁から消えて、組織内の制御がきかなくなったか?」

「あらかた正解だ」

「だから、この期に及んでもったいつけんなよ」


真八は、¨そうだったな¨と苦笑しながらも、肩をすくめると――。


「警察が、他の勢力からの圧力に耐えられなくなったのさ」


 顔から笑みを消し、そう告げる。


「警察が分裂したってとところか?」


良くも悪くも、秀忠の影響力は絶大だ。誓ってもいいが、実質的にあれの上に立てると本気で考えている警察官など、警察内部には一人たりともいやしなかっただろう。そんな怪物がいなくなった後の混沌など、子供でも想像がつく。


「ああ、マスターとの関係につき、今や警察庁長官派と警視総監派が真っ向から対立している」

「もっと、具体的にプリーズ!」

「秀忠という枷がなくなった警察庁長官は、各官庁の官僚や政治屋共と手を組み、マスターの国家公務員の資格取得を指示。

 対して、警視総監は逆に、現場第一主義者であるとともに、元武帝高校出身の実力至上主義者。マスターの国家公務員の資格取得に激烈に反対している。

 それ故に、一一月一〇日の受験は、一先ずは延期となったのだ」


 大体掴めてきたな。この騒動。最近起こった政変とも無関係ではあるまい。野党の大勝。そして、俺が公僕になることを警察庁長官派が支持しているという事実。この二つを踏まえれば、奴等の意図など透けて見える。

 

「奴ら、俺を飼い慣らすつもりか?」


 湧き上がるはらわたの煮え返るような怒りに、知らず知らずのうちに、声に怒気が含まれていたのだろう。真八の部下の女性の自衛官――華倶音(かぐね)二等陸尉がゴクッと喉を鳴らす音が聞こえる。


「すぐにわかるさ」

 

 真八の様子からも、防衛省もこの警察組織と同様の様相を示しているんだろう。


「そうか」


 それだけ答えると、俺は両腕を組むと、瞼を固く閉じる。

 ようやく、真八が俺を連れていく先に見当がついた。あとは、なるようになるだけだ。


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