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第60話 修行場の噂


 武帝高校の校門をくぐると、ある噂で持ち切りであることが判明する。

 即ち――《武帝の祠》に大幅な改良がなされたこと。

 別に俺も碇爺ちゃんも、【神々の遊戯場】について口留めなどしていない。どこぞの口の軽い代表メンバーが漏らしたのだろう。

 話題の半分が、【神々の遊戯場】の内容であり、もう半分が代表メンバーのみが恩恵を受けていることへの強烈な憤り。

 今頃、体育連、文化連、風紀委員、生徒会の現代表メンバーは元代表メンバーからの突き上げにあって、戦々恐々としていることだろう。まあ、自身で辞退したのだ。自業自得といえばそれまでなわけだが。


 教室に入ると人盛りができていた。

 一つ目は、生駒詩織(いこましおり)。まごうことなき正規の代表メンバーであり、昨日から【神々の遊戯場】についてしつこく尋ねられ、鬱陶しそうにあしらっている。

 次が、日暮寛太(ひぐれかんた)……と言いたいところだが、奴は爆睡しており、この数日寝息しか聞こえてこない。六花の教科書によるゴキブリ叩きでも起きないくらいだ。よほど疲れているんだろう。

 ちなみに、俺は代表メンバーであるが、【神々の遊戯場】での修練に参加していない事が、噂で広まり、鬱陶しい事態にはなっていない。

 ともあれ、あの二つ目の人盛りこそが、学校内に【神々の遊戯場】についての情報が漏れた元凶だ。


「ぼきゅら、昨日、四階層まで登ったんだ。三階層の階層主はホント強かったんだな」


 自称、¨ぽっちゃり(変態)紳士¨が、得意げに報告する。


「そうぜよ、空からドラゴンが降って来るんだもんなぁ。心臓が止まるかと思ったのだ」


 自称、¨おしゃれ坊主(変態坊主)¨の須藤(すとう)がすかさず同意する。


「ああ、あれには驚いた」


 自称、¨スポーツホソ(変態)マッチョ¨――松田(まつだ)も何度も頷く。

 認めたくはないが、こいつ等三馬鹿も、武帝高校の代表メンバー一人だ。まあ、あくまで補欠だが、【神々の遊戯場】の入場権に制限が付くわけではない。


「本当かよ? そんなふざけた施設聞いた事ねぇよ」


 クラスの男子が、不貞腐れたように呟く。信じられないというより、信じたくないのだろう。三馬鹿から伝わるのは修練でも何でもないただのゲーム。ゲームで遊んで強くなるなど、到底受け入れられることではないのだから。


「みてろぜよ」


 須藤が、懐から厨二病全開の黒色の皮の手袋を取り出して両手に嵌める。


「フライ!」


 須藤が不思議でかつ、珍妙なポーズをとると、須藤の体が浮き上がり、天井付近で停止した。そして、空を縦横無尽に動き始める。

 

「ふ、浮遊魔術?」

「あれって、かなりの難易度だよな?」

「ええ、この間、テレビでSSランクのサーチャーが得意としてるって……」


喧騒と驚愕が渦巻く教室。BやAクラスの奴等も見学に来ている。

一応、あのグローブ、鑑定をしてみる。


――――――――――――――――――


【エレメントグローブ】


〇説明:火、風、水、土の四属性を操作し得るグローブ。

・第四階梯までの四属性に関する黒魔術を即時にノーリスクで発動し得る。

・自在に空中を浮遊できる。

〇武具レベル:上級――クラス1

〇所持者:須藤素都

――――――――――――――――――


 ついに上級までの武具を手に入れたか。

 【神々の遊戯場】は現実と空想の境界が曖昧になる。三馬鹿は、単なる戦利品的な意味合いでしか見てないが、この地球では列記としたオーパーツ。殺意をもって振るえば、この学校ごと壊滅できる。そんな凶悪な武具だ。

 本人以外に使用できない以上、他者からすれば、ただのガラクタだ。売却など間違ってもできないし、したとしても世の中の混乱など皆無だろう。だが、確かに今の段階でこれ以上噂が広がるのは望むところではない。今後、秘密保持のため、若干の対策を講じるべきかもな。いや、俺が動く前に、学校側が動くか。混乱は奴等の望むところじゃないだろうし。

 

 好奇心を羨望の眼差しと勘違いした三馬鹿が得意げに自慢という名の報告を再開しようとするが――。


「貴方達も、探索者を目指すなら、少し黙ってなさい」


生駒詩織(いこましおり)が立ち上がり、射殺すような視線を三馬鹿に向ける。

 まさに蛇に睨まれた蛙。シュンとなり、三馬鹿はトボトボと各自の席へと戻っていく。

 女帝は本日、壮絶に機嫌が悪い。それを察知したクラスのお気楽連中も蜘蛛の子を散らすように散開していった。

 

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