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第52話 休日の過ごし方


11月13日(日)


 土曜日の晩から、日曜日の朝方にかけては、ひたすら、馬車を走らせた。道中、数度、山賊や盗賊共に襲われたが、もちろん、白馬モドキがそんな賊共など気に掛けるはずもない。踏みつぶし、吹き飛ばし、止まることなく先を進む。

午前九時となり、宿場町へ到着し、宿にチェックインして、夕食まで自由行動とする。



 午後一二時まで、ウォルトと《滅びの都》での修行をした後、カリンのプレゼントを創造すると、オズと共に、バーミリオンのバイトへ行く。

 バーミリオンも飲食店であり、オズとキュウは厨房やフロアには出られない。そこで、店長に許可をもらい、スタッフルームでくつろぐよう指示したわけなんだが……。


「か、可愛すぎっ!!」

「は~ふ、は~ふ」

「マジ、この毛並み最高っ!!」

「あ~ん、いつまでもモフってたい……」


 黄色い声がスタッフルーム中に反響する。まさか、女性スタッフが揃いも揃って、クリス姉化するとは思いもしなかった。女って生物は、皆こうなんだろうか?

 キュウとオズをモフろうと、休憩が明けてもスタッフルームを動こうとしないスタッフ達に、遂に店長の雷が落ち、ようやく、二匹はモフモフお化けどもから、解放される。

後日談ではあるが、互いに危機を乗り切ったキュウとオズの間に、妙な友情が芽生えたそうな。



午後のバイトが終了し、朝比奈先輩達、女性陣と軽い食事を済ませ、今は芽黒駅から二人と二匹で志摩家へ向かっているところだ。


「ねぇ、ユウマ……」

「ん?」

「ミラノは、いつ帰ってくるの?」


 やっぱりな。いつかは聞かれると思っていた。カリンにとって、ミラノはクリス姉とはベクトルが違う姉に等しい。一週間近くもミラノと離れたのは、出会ってからという条件付きではあるが、初めての経験だろうし。


「すぐに戻るさ」

「うん。わかった」


 こんな根拠のない言葉など、カリンなら当然に看破しているだろうに、あっさり引き下がった。

 この重苦しい雰囲気は、この冬の寒空に殊の外応える。何か景気のよい話題を口にしようとするが――。


「時宗おじさん、きっと……」


 カリンの前の口から出た言葉は、俺が予想さえもしなかったものだった。

 なぜこのタイミングで、カリンの口から、時宗の名が出て来るんだ?


「時宗がどうしたんだ?」


 時宗には良いイメージは微塵もないが、奴は根本的には、俺達に近い。そう。目的のためなら手段を択ばないところなど。

 説明不能な焦燥を覚えて尋ねるも――。


「ううん。なんでもない」


 首を左右にふり、口を閉じるカリン。

 カリンは頑固だ。こうなっては、何を聞いても、機嫌を損ねるだけで逆効果。少なくても、今晩は無理だろう。後日、また日を改めて聞く事にしよう。

 

 志摩家の門に到着し、懐からネックレスを渡す。これは、今日俺が作ったとっておき。

 効果は単純。そのカリンが危機に陥ると、その位置情報をリンクしている指輪を持つ俺に知らせ、強制転移させる。さらにその間の絶対防御の効果。仮にも深淵系の魔道具だ。仮に禁技、禁術であっても、その防御結界には、ヒビ一つつかないことだろう。


「わぁっ!! ありがとう。ユウマ!」


 歓声を上げて、俺の首にしがみつくと、暫し、俺の胸に顔を埋めたまま動かなくなってしまう。


「カリン?」


 尋ねると、ようやく首を上げる。俺を見上げるカリンの顔一面には、激烈な寂しさが溢れていた。


「ユウマ、じゃあ、また来週!」


 すぐに、屈託のない笑顔を向けて来ると、俺に手をブンブン振って、志摩家内にかけていく。


(オズ、頼む。彼奴は、俺の大切な奴なんだ。守ってやってくれ)

(了解なの!)


 小虎は、俺の腕から飛び降りると、カリンにかけていき、その頭にチョコンと乗る。

 しばらく、俺はカリンが建物に消えるまでその後姿を見つめていた。


               ◆

               ◆

               ◆


 キュウ、ウォルトと共に、本日の《滅びの都》の修行に繰り出す。

 レベルは、本日の冒険でレベル72となった。

 着実でも進んでいればそれでいい。

 ちなみに、レベル80に至る条件は、『回帰真実の解明』だった。今回は、マジで意味不明であり、とっかかりさえも掴めない。気のせいだろうか。次第に、この条件難解になっているような気がするんだが。

 結局、あの弟子の要件も、俺の行動を縛るという一点では消して楽なものではなかったわけだし。

 権能もエアも新たな変化はなく、俺は苦行という名の夕食をウォルト達と食べてから、聖都へ向けて今夜も出発する。



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