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第48話 カルウイッチ村盗賊騒動の事後処理


 【起源回帰】の負荷により、約二時間気絶し、【バーミリオン】のバイトに遅れしまう。

 明美が店長に、俺が遅れる旨を伝えておいてくれたせいで、何とかことなきを得たが、あまりそう何度も遅刻しては他のスタッフに迷惑だ。今後はもっと、計画的に行動したいものだ。

 

「相良君、おはようなんだよ!」

「おはよう、先輩」


 やけにテンションが高い朝比奈先輩の頭をぐりぐり撫でて、宥めようとする。


「無事でよかったんだよ」


 朝比奈先輩には、メールで一三事件の犯人は捕縛した旨のみ伝えている。今回の件で、先輩の無鉄砲ぶりは十分に熟知した。必要最低限のこと以外、言わぬが花だ。


「サンキュウな。先輩」

「う……ん」


 モジモジと両手を絡ませながらも、顔を真っ赤にして俯く小動物。確かに、こんな姿は猛烈に保護欲を刺激される。無妙庵の連中が過保護になるのもわかる気がする。


「それで、いつにする?」


 確か、先輩とは遊びに行く約束をしていたはずだった。


「え? いつって?」


 あれ、俺の勘違いだったか?


「いや、この事件が終わったら、一緒に遊びに行くって言ってなかったか?」

「そうだよ。そうだったよっ!!」


 満面の笑みで見え上げる小動物に苦笑をしつつも、その小さな頭を撫で続けた。


               ◆

               ◆

               ◆


「それでね、キュウと一緒にマラソンしてるんですの! ね、キュウ!」

「キュウっ!」


 キュウが小さな右手を上げ、小さな声を上げる。


「むふふ♪」


 そんなキュウに抱きついて頬ずりをするカリンの頬を、キュウはぺろぺろと舐める。

 すっかり、親友同然となっている。そういえば、最近、キュウの奴、ホームシックにかかっていないな。ただ、得意げにカリンの日々の活動報告をしてくるだけ。


「で、少しは早くなったのか?」

「ユウマ、マラソンは走りきるのが重要なんですわ」


(そこは多分胸を張るところじゃないと思うぞ……)


 得意なカリンを眺めながら、肉汁たっぷりのハンバーグを口の中に放り込む。

 現在、【バーミリオン】のバイトが終了し、動物の同伴が可能な洋食店で少し早い夕飯をとっているところだ。

 ちなみに、朝比奈先輩とは、一一月二三日(水曜日)の勤労感謝の日に遊びに行くことと相成った。どこに行くかは俺に任せるとのことだ。女が喜びそうな場所など俺が知るわけないんだが、まあ、何とかなるだろう。

 明美は最近、クリス姉達との迷宮探索のため、バイトを休みがち(仮病)だったらしく、当然のごとく、店長にこってり油を絞られる。当面、朝から晩までバイト三昧となり、俺達と一緒に帰宅することは事実上できなくなった。


「ユウマ」

「ん?」


 急に神妙な顔で見つめて来るカリン。こいつがこんな顔するときは、決まって他人の身を案じているときだ。


「危険なこと、まだしてるの?」

「だから、しちゃいねぇよ」


 ごまかすように、頭をぐりぐりと撫でる。

 ¨今日は、ごまかされないんだから¨、とかいいつも、すぐに猫のように目を細めてくる。

 相変わらず、単純な奴。



 夕食後、志摩家までカリンを送っていく。

 名残惜しそうに俺の右腕から離れるカリンの頭を撫でつつも――。


「明日、お前にプレゼントをやるぞ」

「ほんと!?」


 両手を組んで瞳をキラキラと輝かすカリンは、とても俺と同じ年齢とは思えない。


「ああ」

「ユウマ、大好きっ!」


 俺にしがみつき、そう言い放つと、キュウを頭の上に載せながらも、鼻歌を口遊みながら、

屋敷に入っていってしまった。

 まさか、あんなに喜ぶとはな。単に、キュウの護衛の交代要員として、オズを紹介しようと思っていただけなんだが。

 オズの奴、キュウと同様、小虎に変化(へんげ)可能なのだ。というより、小虎バージョンのオズは子猫にしか見えない。現に、あの可愛いものお化け(クリス姉達)にもみくちゃにされてたっけ。あの物騒な言動も小虎なら問題ないし、基本オズは俺の命には忠実だ。喜んで任務についてくれることだろう。

 この際だ。防御結界の効果を有するアクセサリーでも造って、贈ればいいか。



 自宅へ戻り、カルウイッチ村盗賊騒動の事後処理に付き数人の幹部を交え会議を行う。

 第一が、村民の移住について。

 まずは、保護した村民を含めた五四四名は、心に重大な傷を負ったもの以外、基本カルウイッチの村で生活することになる。

 無論、近くに《血盟団》を実験動物にした腐れ外道がいる危険性があるということで、全域警戒区域に指定し、当分の間、ギルドでも上位のメンバーが警護につくことになる。

 盗賊《血剣》共のほとんどは、戦闘でへばっているベリトに代わり、ロキが請け負ったのだが、全員すぐにトート村の衛兵詰所に自首することを選択した。盗賊は即縛り首。それを踏まえてだとすれば、よほどの地獄をみたのだろう。

 生き残った《血盟団》の数名は、当初から自首を希望していたが、盗賊の捕虜となっていた女子供達の全員が、これに猛烈に反発。本人が死罪を望み、最も被害を受けていた者全員が、無罪放免を望むという異例の事態となった。

 解放すれば自首してしまいそうだ。自首すれば、盗賊は全員死罪。しかも、《血盟団》はカルディア教国からのお尋ね者。待つのは確実なる死だけだ。

 故に、当分の間、サブ達《血盟団》の生き残りである数名は、俺達のギルドで身柄を保護することになった。少なくとも、この世界に未練を失っているサブ達が、生きる糧を見つけられるようになるまで。

 俺はまだ、サブ達にザムトの最後の言葉を伝えてない。これはザムトから俺に託された宿題のようなものだ。やり遂げて見せるさ。


 第二が、村落の範囲について。

 カルウイッチ村は狭く、所持する土地に栄養分がないことから、畑や牧場は少ない。その代わり、村の北にある赤茶けた土と岩石しかない荒野は、村の所有であり、結構な面積になるらしい。

 住宅を建てるには一定以上の平面が必要。荒野の至るところで、巨大な岩石が存在しており、住宅街にすることもできず、かといって、畑にできるほど栄養素に富んでいない。使い道などなかったわけだ。

 もっとも、俺達なら余すところなくこの荒野を有効活用できる。

どの道、カルウイッチ村はカルディア教国から離反した。裏ギルドを介しての取引が上手くいかず、カルディア教国が不服として攻め込んできても丁重に御帰り願うだけだ。


 第三が、村民の食糧と村の開発について

 五四四名の食糧は、とりあえず、ピノアの商業ギルドとの取引で、確保できる見通しとなった。少なくとも、三年分は仕入れられそうだから、その間に食料確保の方法は考えればいい。

 最悪、村自身で自給自足をしなくても、工業製品や加工食品を販売し、金銭を得れば事足りる。まあ、じっくりやるさ。

 村の開発は、とてもじゃないが、人手不足だ。加えて、荒野もいれれば、開発範囲は結構な面積となる。そこで、【怪物晩餐モンスターフィスティバル】を使用することにした。

 人員確保に加え、村の警護にギルドの人員を割く必要もなくなるし、一石二鳥だろう。

 あの怪物たちにかかれば、比較的短時間で、地球の住宅街並みの設備を有する住宅を建築できると思われる。


 第四、村民の行動だ。

 俺達は冒険者ギルド。一定の強さは必須だ。さらに、俺達の家族として見合った相応しい役目を負ってもらう。だから、教育もまた必要。そこで村民達には、《滅びの都》での戦闘と職業訓練実習に入ってもらうことになった。

 まずは言語や計算など。

 どうやら、俺がそうであるように眷属達も地球とアースガルドの言語を自動翻訳されてしまうようだが、それではいつまでたっても、文字は書けないし、今後の商業活動に影響を及ぼす。警察からの出向組には、インテリも多く、日常からアースガルドの言語や文化を研究している変わり者のメンバーもいる。そこで、そのメンバーに、言語や基礎学力の教師の役を担ってもらうことになった。

 もっとも、レベルの上昇により、処理能力が大幅に上がっている。そう時間がかからずに、言語は取得できると思われる。

 接客テクニック等の儀礼事については執事魔王ベリトに一任することになった。やけに優雅な奴だし、適任であろう。

 最後の問題は――。


「トートの街を収める高位貴族――オクトパス伯爵が元凶か。それで、今回の件はどう処理される?」

「徴税課課長の更迭で幕引きだろうね」


 今はそれでいいさ。どの道、カルウイッチ村の膿は、カルディア教国全体に蔓延、散在している病巣に起因する。もし、全てを治療したければ、カルディア教国そのものの大手術が必要となろう。俺は、そんな慈善事業をする気などさらさらない。今は、カルウイッチ村への一切の不干渉さえ認めさせればそれでいい。


「裏ギルドからの連絡は?」

「僕の構築した情報伝達の魔道具を用いた情報網により、裏ギルドには昨晩のうち要件を伝えている。現在交渉中だろうから、数日中に結果は出ると思うよ」


 ロキの奴、そんな便利なものあるなら、教えて欲しいものだ。

 ともあれ、交渉の結果など聞かずともわかる。魔国との戦争が佳境を迎えているカルディア教国には、今伝説級の武具を取引材料にされて、商談を断るという選択肢はない。特に、その対価が、生産力もなく、旅の中継点程度の戦略的意義に乏しい辺境の村一つならなおさらだ。特に、今回の盗賊の件で、下手にカルディア教国が俺達の申し出を断れば、少なからずカルウイッチ村へ物資を援助しなければならなくなる。そうしなければ、周辺の村の危機感を刺激し、離反しかねないからだ。カルウイッチ村は、現在、足手纏い以外の何物でもない。

 何より、現在の戦争で魔国を落とせば、肥沃な領土はたんまり入るだろうし、そんな些細なことにかまけている余裕はカルディア教国にはない。


「了解だ。それまでは、カルディア教国側は誰だろうと村に入れるな。来ても適当な理由を付けて追い返せ。丁重にな」

「御命令受託いたしました」


 警視庁からの出頭組――《()》隊隊長――棟方歴(むなかたれき)が立ち上がり、姿勢を正すと、敬礼をしてくる。

 棟方も、この度正式に我ら《三日月の夜(クレッセントナイト)》の幹部となった。

 具体的には、改めてセレーネと契約させただけ。魔術やスキルの契約は、重ね掛けすると、より効果の高い契約に縛られる。覇王編成も同じ。棟方は、俺の直属の眷属の一人となり、蝮と梟から隊員達の主人の地位を引き継いだのだ。

 

「それでは、俺は今から人員を確保しに行く。各自、十分な休息をとるように」

「「「「「はっ!!」」」」」


 一斉に椅子から立ち上がり敬礼する幹部達。そして、次々に部屋を退出していく。


「あいつ、大丈夫か?」


 心底疲れ切った様子の真八が部屋を退出していくのを視界に収め、思わず、そんな感想を呟いた。人出が足りないという理由で、真八達トライデント防衛省のメンバーに協力要請したのはまずかったか。奴等は、日中、防衛省の職務がある。昨晩徹夜で村人達の修練の手伝いをしていたらしいし、働かせすぎかもしれない。

 特に秀忠が姿を見せぬ分、真八の仕事量が増しているのだろうし、真八には幕僚長という職務がある。これ以上負担をかけるのは明らかに酷だ。

 近々、強制的に休暇を取るよう指示するか。そんなことを考えながらも、俺も会議室からカルウイッチ村へ転移した。



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