表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/253

第40話 蹂躙と急展開


 遂に盗賊駆除作戦が開始される。

 作戦内容はいたって単純。まず、人質救出組が洞窟内に潜入し、人質を救出する。その間に、救出組が行動しやすいよう盗賊の見張りを傷つけ、洞窟の外までおびき寄せる。盗賊掃討組が洞窟を包囲し、盗賊共の気を逸らす。

 

『マスター、村人達による人質の62%の保護を確認いたしました』


 ベリトからの念話による報告。ロキが、ベリトに密かに村人達の警護を命じたのだ。これは、直々にベリトに命じるのほど、ロキはこの盗賊共に危機感を覚えているということを意味する。

イレギュラー確定だ。この手の事態で何も起こらず終わったためしがない。


『62%というと、残りの38%は?』

『盗賊共に連れていかれたようです』

『了解だ。引き続き、半数の捜索をしな。どうも、嫌な予感がする。ヤバくなったら、作戦は中止し、俺を呼べ』


 悪いが、村人の気持ちの整理より、俺はベリトの方が遥かに大事だ。少しでも危惧があれば、俺自身が介入し、無理やりこの戦闘を終わらせる。ロキもそれを望んで、ベリトを村人の護衛につけたのだろうし。


『御意』


 ベリトとの通信が切れた丁度そのとき、洞窟の奥から団体さんが到着した。


「見ろよ。あれ」


 包囲する村人達を視界に入れると、さも可笑しそうに、噴き出す盗賊達。

 刃物など、肉切り包丁か、農具程度しか手にしたこともない村民達の完全武装がよほど滑稽だったのだろう。


「どこぞの貴族の冒険者でもバックについたかぁ?」


 普通なら、貴族の冒険者など逃げの一手だろうに、そう(うそぶ)く、盗賊の目には敗北など微塵も感じられない。この余裕、単なる馬鹿か、それとも……。


「後始末は、お(かしら)が何とかしてくれる。好きにやれ」


 身体中に傷のあるスキンヘッドのおっさんが、そう命じすると、盗賊達から歓声が上がる。

 既に勝った気か。随分と舐められたものだな。


「それって早い者勝ちってことですかい?」

「ああ、お頭の了承が出た。この戦闘での戦利品は全てそいつのものになる」

「あいつら、とんでもなく、いい女じゃねぇ?」


 盗賊共は村人達とは距離をとっていた俺のすぐ傍にいるクリス姉達に視線を向けると、達は下卑たる笑みを浮かべる。


「あの金髪女は俺が戴く」

「じゃ、俺はあの色黒女だな」

「お前、マジであの手の女、好きだねぇ。確かにいい女ではあるが」

「たりめぇよ、あの手のクソ生意気そうな女をひぃひぃ言わせるのが一番燃えるんだ」

「俺は女より、彼奴らの武具だな。女は譲るから俺が全部もらう」

「ざけんな、武具は山分けだ!」

「……」


 クリス姉達に向けられる盗賊共の視線と言葉、マジでイライラするな。俺ってこうも独占欲が強かったか?


「なんだよ?」

「別にぃ~♬」


 そんな俺を満足そうに見上げてくるクリス姉にそう尋ねるが、クスッと笑うだけで、上手くはぐらかされる。

 クリス姉だけではなく、明美、フィオーレ、美夜子達は、当初、不躾な盗賊共に不快そうに顔を顰めていたが、今はクリス姉同様、逆に機嫌が良くなっている。俺の情けない姿がそれほど面白いのだろうか。

それもこれも、あのクズ共のせいだ。早く、始末をつけたい。

 このアジトは大して広くはないし、レベル8の村民達なら、もう、救出してもよい頃だと思うのだが。


『立った今、村民の残りと、離反した盗賊の二人を保護いたしました』


 離反した盗賊の二人か……。この盗賊――血剣について事前に情報収取していたベリトがそう言うのだ。真実なのだろう。


『御苦労様。引き続き村民達の保護を頼む』

『御心のままに』


 これで、お膳立ては揃った。後はこの身の程知らず共の駆除で本作戦のほとんどが完遂する。


『たった今、人質の保護が完了した。直ちに、この馬鹿共の掃討を開始しろ』

『了解ですじゃ』


「皆の者。作戦第一段階は完了じゃ」


 村長の宣言に、村人達は朝の空に咆哮する。

 百を超える村民達の怒りの咆哮は、冷たい朝の森内を吹き抜けていく。


「もう我慢する必要はない。徹底的にぶちのめしてやれ!」

「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」


 村人達は前衛、中衛、後衛に分かれる。 

 そして、中衛が結界を張り、後衛から一斉に魔術とスキルの弾丸が飛び、盗賊達にとって最後の安息はこうしてあっさり終了する。


 

 それは阿鼻叫喚という言葉まさに相応しかろう。

 ――稲妻が轟音を上げつつも、大地に突き刺さり、深く抉る――落雷により、身体の一部を黒焦げになり、のた打ち回る盗賊共。

 ――半径一〇メートルの大地と植物が一瞬で凍結する――腰まで凍結する盗賊共

 ――炎の柱が空から超高速で落下し、巨大な大穴をあける――両手両足が一瞬に炭化し、泣きわめく盗賊共。

 ――竜巻が周囲を荒れ狂う――上空に巻き上げられた上、地面に叩きつけられ血反吐を吐く盗賊共。

 

 チキンが地面を縦横無尽に疾駆し、盗賊に鳩尾を拳打し、一撃のもと沈めていく。


「陛下は、彼らに殺すなとの条件を付加したのかい?」


 いつの間にか、背後に現れたロキが興味深そうに俺に尋ねてきた。


「いんや」


 この度、俺は子供による不殺以外、特に何も指示などしていない。家族を奪われた痛みは本人にしかわからない。今更殺害が悪いなど、都合のいい常套句を宣うつもりなどこれっぽっちもないのだ。

 カルウイッチの村の者達は、家族を奪われ、それでも、憎しみだけに支配されず、不殺の誓いをした。これは、俺にはどうやっても真似できぬことだ。


「な、何なんだ!!? 貴様らはっ!!?」


 盗賊の隊の長らしき身体中に傷のあるスキンヘッドのおっさんが、地面にドサリッと膝を付く。

 僅かに残った盗賊共も武器を捨てて、据わり込んでしまった。


「知っての通り、カルウイッチ村の村民じゃ」

「出鱈目をいうなっ!! 貴様らは力ない家畜だったはずだ!!」

「ある御方に力を賜ったのじゃよ」

「ある御方……」


 スキンヘッドのおっさんは首だけ動かし、そして今度こそ凍りつく。


「なんだ、お前ら来てたのか?」

「陛下、我らオズ隊、ただ今推参いたしました」


 気が付くと、バフォメットとその部下達が、俺の周囲に顕現していた。そして俺の直ぐ前で得意げに腰に手を当てている頭から虎縞の耳を生やしたツインテール、赤髪の少女。歳は鳩魔王達と同じくらいの小生意気な餓鬼だ。


(まさか、本当にこんなものが出来ちまうとはな……)


――――――――――――――――――


『魔王オズ』

〇説明:七十二の魔王種第一〇席であり、覇種の称号を有する闘争と狂気を司る【狂王】の異名を有する虎の王。

配下の眷属の狂気を著しく向上させ、闘争能力を爆発的に上昇させる。

〇Lⅴ:70

〇種族:七十二魔王種

――――――――――――――――――


 事は俺がボスクラスの魔物が四体手に入り、『魔物融合』を行うべきか迷っている旨を不用意に発言してしまい起きた。

 いつになく必死の形相のバフォメットに懇願され、バフォメットの(あるじ)の所持品の縫いぐるみを核として、《阿修羅雪姫》、《イエティロード》、《氷竜王》、《氷獅子王》を、『魔物融合』したらできたのだ。

 だって、仕方ねぇだろう。土下座して、俺の前から動こうとしねぇんだもん。

 ベリト曰く、第一席から第八席の八大魔王と、他の魔王との間には隔絶した力の差があるらしいのだが、このオズはどうやら例外らしく、こと戦闘だけならベリトとためを張るレベルらしい。


「陛下、あちちが、皆殺しにしてやるの」

「児童が物騒な言葉を使うもんじゃありません」


 大きな溜息をつきつつも、オズの小さな頭をグリグリとやや乱暴に撫でると――。


「うにゅ」


 小動物のような甘えた声を上げて目を細める。それを見て、目尻に涙を浮かべ、ハンカチで拭くバフォメット。

 それにしても、またしても幼女か。あのやけにファンシーな縫いぐるみで嫌な予感は猛烈にしていたわけなんだが……これ絶対、呪いレベルだよな。


「バ、バケモノ……」


 オズ達に視線を固定して、カタカタ小刻みに全身を震わせるスキンヘッドのおっさん。

 どうでもいいが、こいつ、幼女にビビりすぎじゃないか。

 怪訝に思って、オズの背後を見ると――。


「ああ、なるほど」


 巨大な虎が鎌首を擡げ、スキンヘッドのおっさん達、盗賊共を睥睨していた。


「今回、儂らは貴様らを殺さん。貴様らをトート街の役人に引き渡し、それをもって祖国たるカルディア教国への最後の義務を果たすことにする」


 なるほどな。祖国へのケジメってやつか。確かに、カルウイッチ村の村民達からすれば、カルディア教国は腐っても祖国。いくら裏切られ続けても、供に歩いてきた国なのだ。心の切り替えは必要だろうさ。


「最後の義務……だと?」

「そうじゃ。儂らはカルディア教国とは今後、一切の縁を切る。仮に貴様らが無事解放され、再度儂らを襲うならば、今度は一切の容赦はせん」


 村長の老婆の右手の掌から炎が灯り、光速でスキンヘッドのおっさんの右頬を切り裂き、背後の崖に激突に大爆発を起こす。


「……」


 顎を引き力なく項垂れるスキンヘッドに、村長はグルリッと村民を見渡し、右拳を固く握り――。


「儂らの勝利じゃ!!」


 一斉に、村民達から歓声が上がる。そして、踏みしめられた地面が地響きを上げ、空に『マスター』、『《三日月の夜(クレッセントナイト)》』のコールが起きる。


 コールが大瀑布のごとく降り注ぐ中、洞窟の奥から、一人の精悍な顔つきをした黒髪の青年が姿を見せる。


「お、お頭ぁ……」


 此奴が盗賊のボスか。もっと、ゴツイマッチョかと思っていた。まさか、こんな細身の優男だったとは。

 もっとも、戦闘はただ筋肉があればいいってもんじゃない。むしろ、余分な体躯はかえって戦闘の邪魔になる。

 この点、この男、軽装ではあるが、その鍛え抜かれた肉体は、歴戦の兵であることうかがわせる。

 村人達が距離を取り、一斉に身構える中、悠然とお頭と呼ばれた青年はスキンヘッドのおっさんに近づくとその首を跳ね、頭部を右手で握る。

 そして――。


「ひっ!」


 それは盗賊達か、それともカルウイッチの村民達からか。小さな悲鳴が漏れた。

 それもそのはず。黒髪の青年は、スキンヘッドのおっさんの頭部に齧り付くと、食べ始めたのだ。肉を咀嚼する生理的嫌悪をかきたてる音が、この戦場に木霊する。


「陛下」


 背後からロキが耳打ちしてくる。


「わかってる。もうあれは人間じゃない」


 肉を咀嚼する顎の力に、真っ赤に染まった青年の髪と瞳。加えて、この感覚、グスタフの時と同じ。どうやら、また胸糞の悪い展開になりそうだ。


『陛下、申し訳ありません。後手に回りました。ただ今、未知(アンノウン)と戦闘状態へと突入します。力の解放の許可を頂きたく』


 ベリトが本気モードにならねばならない程の敵。ロキの危惧はこれか。だとすると、あのお頭って奴もまともじゃないんだろう。


『許可する。お前は好きに暴れろ。村民達の保護は直ちに、変わりの者を向かわせる』

『御慈悲、魂より感謝いたします』  


 俺は腹に力を入れると――。


「オズ隊は、あのクズ共を踏んじばったら、ベリトの村民保護の引継ぎをしろ。

 俺とロキ以外のこの場の全ての奴は、ギルドハウスへ撤退!」


 空に向けて大声を張り上げる。


「ユ、ユウちゃん……」


 クリス姉が俺の袖を不安そうに掴んできた。フィオーレ、明美、美夜子も同様で、強烈な焦燥が読み取れた。


「心配すんな」


 俺はクリス姉の頭に手を置き、皆を見渡し、そう力強く答える。

 急転直下、事態は新たな局面を迎えようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ