第38話 血剣掃討作戦開始
「おい、マスター、あれは反則だぜ」
真八がいつになく神妙な顔でそうぼやく。
「まずかったか?」
俺が見たところ、気味が悪いほどやる気を出していたように見えたんだが。
「逆だ。あの演説を聞いてた俺の部下までスイッチ、入っちまった」
そういや、真八の奴、俺もあった事のない《トライデント》の数人も連れてきてたな。
「マスター、俺は――!」
グスタフが涙ぐみ――。
「マスターって洗脳の才能もあったんだな」
蝮がそんな、人聞きの悪い感想を呟く。
「ユウちゃん、昔から口は得意だったもんね」
クリス姉がそんな呑気な感想を述べる。クリス姉の奴また、部屋を抜け出してきたな。転移が使えるからって、やりたい放題だ。
「あのな、クリス姉、それって、俺が口先だけの男に聞こえるぞ?」
「さあ、どうかしらね」
半眼で俺を見るクリス姉。たくっ、言いたい事があるならはっきり言えよ。
「そうそう、女の口説き方だけは、やたら達者のようだしぃ~」
明美が、両腕を頭の後ろで組みつつも、そう嘯く。
人聞きの悪い奴だ。生まれて一六年、俺は女を口説いた事などない。
兎も角、これ以上、この話題をひっぱっても、俺に百害あって一利なしか。
「それで、作戦はどうなってる?」
俺の脇で、無表情で顎に手を当て考え込んでいるロキに尋ねる。
「……」
「おい、ロキ?」
「ああ、ごめん、ごめん、今から村民の幹部達がセレーネと契約。さらに、幹部達が村民一人、一人と眷属契約を結び次第、《滅びの都》でレベルを上げてもらうことになるよ」
さっきからロキの様子が少し変だ。心がここにあらずと言えばよいか。
「作戦の概要は?」
「地球時間の午前八時に、村民チーム半数で、盗賊のアジトを襲撃する。
アジト襲撃チームの半数は盗賊の駆除。もう半数は捕虜の保護」
盗賊共の駆除は基本村民に任せるが、駆除チームのメンバーは一八歳以上とさせてもらった。勿論救出チームに限り、殺害はご法度とした。
一応、盗賊の首領はレベル4であり、その幹部も数人のレベル3とレベル2がいる。この世界では、トップクラスの実力を誇っているといってよい。
それに、ロキの態度が何処か変だ。ベリトが収集した資料を読んでから、このように、物思いにふけっている。もしかしたら、イレギュラーって奴なのかもしれない。気を引き締めるべきか。
まぁ、村民達のレベルも上昇するし、超越級の武具で完全装備していれば、最悪の事態にはならないだろう。いざとなったら、俺達が介入すればいいだけだし。
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――午前七時五五分。
アースガルド――カルディア教国、カルウイッチ村の北部の森――盗賊血剣のアジト前。
小進化のレベルが上昇したせいか、それとも村民達の必死さのせいか、村民のレベルは平均8へと上昇していた。
しかも手分けして手取り足取り享受したギルドメンバーの御蔭で、第七階梯の魔術やスキルを獲得しているものもちらほら目にした。
レベルだけでも、SSランクのサーチャークラスだ。しかも、超越級の武具での完全装備。もはや、相手にすらなるまい。予想されるのは、一方的な蹂躙劇。
そう。イレギュラーさえ起きなければ。
「マスター、やっぱ、マジ、パネェすわ」
ノックが俺にそんな意味不明な感嘆の台詞を述べる。
「だな、俺達だけだったら、盗賊から村人を単に救って終わりだ。でもそれは――」
「この村の真なる救済を意味しない」
ベムの言葉に、グスタフが付け加える。
歓喜に震えるグスタフと対照的に、ベムとノックの表情はどこか沈んでいた。
「陛下、そろそろお時間です」
『村長、そろそろ、作戦開始だ』
ベリトに促され、村長に念話を送る。
彼らが、自身の進むべき道を選び取った以上、今更俺がでしゃばる余地などない。それにこれは我がギルドへの加入試験も兼ねている。今回の作戦は、村長が指揮をとるべきなのだ。
『承知いたしましたですじゃ』
村長は大きく頷くと、村民をグルリと眺め見る。
「主ら、わかっとるの? 我らの家族の救出が最優先じゃぞ」
「ババ様、了知しとるって」
赤髪の青年――レースが相槌を打つ。
「皆の衆、仲間を救うぞ!」
村民達の瞳に決意の色が灯る。
「皆の衆、村の仇敵を倒すぞ!」
村民達の瞳に怒りの炎が燃え上がる。
「決行っ!!」
こうして、血剣掃討作戦はその幕を上げる。




