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第34話 盗賊襲撃


城門前には、二十代前半の黒髪の青年が待っていた。


「あっしは、御者(ぎょしゃ)のチキンと申します」

「俺が当主のエアだ。よろしくな」


 チキンは、差し出された右手にポカーンと大口を開けていたが、グスタフの刺すような視線に射抜かれ、弾かれたように、ゴシゴシと右手を上着で拭くと、恐る恐る握り返してくる。


「ど、どうも、よ、よろしく……」


 それは、某映画の宇宙人と交信した主人公のようで、若干の気まずさが残った。

 それにしても、グスタフの奴、どんどん、ベリトやバフォメット化してきてねぇか。


「荷物も積んだし、それじゃあ、行くか」

「見たところ、騎士様は御一人だけですが、大丈夫なんですかい?」


 俺達の服装や装備品はこの世界に似せてはいるが、若干地球よりだ。即ち、この世界では一目で値打ちものだと見抜かれる。周辺に盗賊がでるなら、バカボン貴族など、恰好な鴨だ。もっともな意見だろう。


「心配いらん。そこの男は、さる王国の名の知れた騎士。盗賊など何人来ようと、屍の山を築くだけだ」

「そうだぜ、俺は強いからな。任せておけって」


 ノックが、ニッと真っ白な歯を剥いて、丸太のような右腕で力こぶを作って見せる。

 


「はあ……」


 案の定、全く納得していないようだが、流石はプロ。頷くと、荷台へ乗り、手綱を握る。


「俺達も行くぞ」

「はっ!」

「はい」

「あいさ」

「はい!」

「は~い」


 俺の掛け声に五人各人がそれぞれの返答をして、荷馬車に乗り込む。

 


 あれから、約一時間馬車で揺られている。

 本日は特別に、地球からの食糧や物の持ち込みを許可した。このアースガルドの文化に慣れるのは俺の目的であって、アースガルド人であるセシル達には元来無意味な事。このくらいのサービスはしてしかるべきだろう。

 馬車の天井に《万物創造》で作り出した電球を設置し、馬車内の空間を歪め、車内の振動をなくす。

 大層喜んだノックとベムは缶の生ビールを片手に、どんちゃん騒ぎを始めてしまった。そこに、仕方なくグスタフも加わっている。

 シドも普段と違う状況が大層気に入ったのか、ピョンピョン飛び跳ねていた。

 今は俺とセシルは、シドに強請(ねだ)られ、トランプの《大富豪》で苛烈なバトルを繰り広げている。

 チキンは煌々と光り輝く天井の電球に目を見張っていたが、『魔法とはすごいんでやんすね』と、妙な納得をしてしまう。


 『大富豪』により、シドの勝利が確定したとき――。


「だ、旦那っ!!」


 チキンの悲鳴に近い掠れ声が鼓膜を震わせる。

 

「どうした?」


 聞いた俺が若干間抜けに感じるほど、わかりやすい状況になっていた。


(団体さんのお出ましだ。完璧に取り囲まれてるな)


 馬車を取り囲んでいるのが、五名。遠くから弓を番えているのが五名。

 ――全員、雑魚(レベル1)

 ――特殊スキル、魔術なし(身の程知らず)

 さて、この世界の盗賊の処理の仕方はどうなるんだろうか。


「ノック、この国での盗賊の扱いは、どうなるんだ?」


 俺の背後に来たノックがギラギラとした目つきで、周囲の盗賊共を眺めていた。


「掴まえれば、全員縛り首」

「それ以外は?」

「即殺です」


 ああ、そういうことね。裁判制度も碌に発達していないこの世界らしい。郷に入っては郷に従えだ。別にこの世界まで人道主義を持ち出すつもりはない。それに、外道を殺すことに今の俺は躊躇いなどない。

 だが、一応、話くらいは聞いておくことにする。


 俺が馬車を降りると、盗賊共が一瞬後退する。盗賊までビビらすか。俺の容姿って、よほど兇悪なんだろうな。


「私はエア。本日はどんな御用かな?」

「ああ? 見てわからねぇのか?」


 俺が話し会いを求めてきたと知り、ナイフを俺の喉元に突きつけ、ニヤケ顔でプラプラさせる角刈り盗賊A。


「荷物を差し出せかい?」

「おう、物分かりが早いじゃねぇか、貴族様ぁ~ん~」


 盗賊Aは、さらにナイフの先を俺の頬にペシペシと当ててくる。

 びっくりするくらいテンプレ的発言で、秀忠あたりに謀れてるんじゃなかろうかと、背後のグスタフ達を振りかえると、頭の痛い事態となっていた。

 据わり切った目で、盗賊共に今にも切りかかろうとしているグスタフと、必死の形相で止めにかかっているベムとノック。

 盗賊の命など心底どうでもいいが、ここにはセシルとシドがいる。この場で殺すのはまずい。それを知っているから、ベムとノックもグスタフを止めているのだろう。


「荷物を差し出せば、我らを見逃してくれるのか?」

「いんや、そのエルフの女もだ」


 は~い、死刑確定。しかし面倒な事になったな。この人数、村まで連行するのは酷だぞ。そうはいっても、セシルとシドの手前、この場で殺すわけにもいかねぇし。


「ねぇ、マスター、こいつらぶっ殺していい?」

「……」


 ベムとノックも、グスタフを止めるのを止めて、シドの殺害許諾に無言の同意を示してくる。

 俺の家族はぜこうも血の気が多いのだろうか。マジで頭が痛い。


「おい、聞いたかよ。この餓鬼、俺達を殺すだってよ」


 一斉に下品な笑い声が、澄んだ夜空に木霊する。

 どこまでも、ステレオタイプな奴ら。今更ながら、日本の義務教育の偉大さを知った。


「なぁ、あのエルフの女、どうせアジトに運んでも、お(かしら)に喰われるだけだしよぉ、黙ってねぇか?」

「おう、いいねぇ。こんないい女、抱けるなんて一生に一度あるかないかだしなぁ」

「おい、この馬車の見つけたのは俺だ。俺が先だぞ!」


 もういいだろう。これ以上、こいつ等の妄想談義に付き合うつもりはない。


「一つ宣言しておいてやる」

「ぎゃはっ! こいつ、この状況わかってんのか?」

「どうちまちたかぁ? ボクチン、頭、大丈夫でちゅかあ?」


 ピタピタと俺の頬を叩くナイフの剣先を左手で掴むと捻り潰す。


「へ?」

「お前らは救えない。自業自得って奴だ」


 キョトンとする盗賊Aの眉間をデコピンで弾くと、弾丸のような速度で一直線に森の中へ消えていく。極限まで手加減したし、一応殺してまではないと思う。

 大きく両眼を見開く盗賊Bの顔面を左手で鷲掴みにすると、肩に担いで、無造作に盗賊Cに投げつける。砲弾と化した盗賊Bと盗賊Cは激突し、樹木に叩きつけられピクピクと痙攣する。


「うわぁ……」


 悲鳴を上げようとした盗賊Dの傍に疾駆し、鳩尾に右拳を叩き込む。クの字に身体を浮かせて地面を盛大に転がっていく盗賊D。


「く、くるな!!!」


 後退りながらも、剣をブンブン振り回す盗賊Eにゆっくり近づくと、最大の手加減をしつつも、その剣ごと、盗賊Eの全身に散弾銃のごとき拳打をあびせる。


「う、うああぁぁぁぁっ!!!」


 肉の塊となった盗賊Eを視界にいれ、遂に精神の限界を突破し、恐慌状態となった盗賊共は、奇声を上げて、矢を放ってくる。

 俺は、飛んでくる弓を両手で全て掴み取り、盗賊Fに対し、急所をずらして投げつける。盗賊Fの全身に矢が突き刺さり、鮮血が地面に飛散る。

 泣きわめきながらも、地面をのたうち回る盗賊Fの醜態を眺め、俺は急速に戦闘意欲を失っていた。


「面倒だ」


 エアを顕現させ、奴等の右脚を次々に打ち抜いていく。ゼロコンマ一秒で、地面に転がり、盗賊共は苦悶の声を上げた。



 グスタフ達は、盗賊討伐の依頼を数度受けたことがあるらしく、手慣れた手つきで盗賊の身包みをはぎ取り、縛っていく。


(で、こいつらどうします?)


 それが一番の問題だ。

 この世界のルールにのっとりこの場で殺すことも選択肢の一つだが、セシルとシドがいるからそうもいかない。今更、セシル達を地球に戻しても、きっとセシルは、勘付くと思う。

 役人に引き渡すにも、こいつ等を近隣の街や村まで目立たず運ぶ手段がない。

 困ったな。八方ふさがりだ。


「書置きを残して、このまま放置しよう。次の村でこの盗賊共のことを伝えればいい」


 若干納得はいかないが、それが一番よさそうだ。正義の味方など柄じゃないし、セシルとシドの心に傷を残してまで、殺す意義も価値もない。


「了解いたしました」


 グスタフが、臣下の礼を取ると、盗賊達を道の脇に並べる。そして、アイテムボックスから用紙を取り出し、殴り書きでアースガルドの文字で書き込むと、それを立て札に張り付け、地面に突き刺し固定する。

 素っ裸で、寒空に放置される盗賊共。中々の羞恥プレイじゃないか。多少、気が晴れた。


「行くぞ」


 馬車に乗り込もうとすると、チキンが俺の前で土下座をしていた。


「どうかしたか?」

「貴方様にお頼みしたいことがございます。村についたら、村長に会っていただけないでしょうか?」


 きっと、厄介事だろうな。だが、これも、異なる文化に溶け込む試練かもしれない。


「わかった。会おう」

「ありがとうございます!!」


 歓喜の声を上げ、何度も額を地面に叩きつけるチキン。その額に滲む血は、俺にどうしょうもない胸騒ぎを起こさせていた。


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