第30話 修行と権能分析
11月11日(金曜日)
午前七時――カルディア教国――トート街城門前
あれから、二日経った。
まず、武帝高校の大会代表メンバーの修行の件は、金曜日の試験開けになされることになった。これは別に、試験のために延期するというよりは、金曜日の実習試験の結果によって、代表メンバーを新たに選出し直すためらしい。
碇爺ちゃんと理事長のロキが何やら画策しているらしいし、真面じゃないのは間違いあるまい。まさか、鳩魔王とか、使わねぇよな。あんな残念な容姿だが、あれでも一応魔王だしさ。
嫌な予感しかしないが、金曜本日の実習については、俺は他と別となるらしい。指定の時間に校長室に来るよう指示される。
そんなこんなで、昨日の木曜の午後は、バーミリオンのバイトも休みをもらっていたこともあり、大幅に暇となった。
そこで、《滅びの都》での修行に明け暮れることにしたのだ。
《滅びの都》での修行についてだ。ウォルトは、転移を使えるはずなのに、ギルドハウスに戻ってきていないところから察するに、旅行に興じる気満々のようだ。
ともあれ、本日は、久々に俺一人での冒険となる。
《万物創造》は、強力だ。いや、強力すぎて、修行にならない。ダンジョン内では封印しようと思っていたわけだが、《滅びの都》内で、《万物創造》の使用ができない事に気が付いた。
この理由はいくつか考えられるが、全て推測に過ぎない。どの道、《滅びの都》の修行では、封印しようと思っていたのだ。寧ろ都合がよいと考えることにした。
第三試練は、昼夜に難易度の差は存在しない。もしかしたら、第一試練と第二試練は、あくまで初心者用のエリアなのかもしれない。
ともあれ、冒険に慣れてきたこともあり、木曜日の冒険が終了する頃には、かなりの距離を進む事ができた。
具体的には、雪山、氷の森を抜けて、氷の草原へと歩を進める。
その際に、【エリアボス】として、雪山で、【イエティロード】、氷の森では【氷竜王】と【氷獅子王】を撃破し、魔物小屋に入屋した。
結果、氷の草原に至るまでに、俺のレベルは、66まで上昇する。ちなみに、《レベル70に至る条件》は、『過去に死んだことのある者を抱きしめる』だった。
運よく長門里香がいるから、今回はクリアできるが、これはもはや、難易度がどうとかいう問題じゃない。あまりにもふざけている。前回の『子弟教育』の難易度はやけに低かったし、この条件、存外、ランダムなのかもしれない。
ちなみに、事前に事情を委細説明したにもかかわらず、長門里香を抱きしめると、真っ赤になって硬直化してしまい、中々離れてくれなくなってしまう。そこをフィオーレにみられてしまい、若干、今、彼女の視線が痛い状況に陥っているわけだ。
兎も角、次が権能についてだ。
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『遊戯の真理』
〇権能:
■小進化(Lⅴ9)
■ロード(Lⅴ3)
■神眼鑑定(Lⅴ10)
■アイテムボックス(Lⅴ10)
■休息(Lⅴ10)
■万物創造(――)
■改良(Lⅴ7)
■魔物改良(Lⅴ8)
■覇王編成(Lⅴ8)
■転移(――)
■魔術・スキルの理(Lⅴ6)
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レベルが上がった権能は、小進化、改良、覇王編成、魔術・スキルの理だった。
このうち、小進化は、レベルは上昇したが文言に変化はなかった。今までの傾向からも、効果は享受しているのだろう。
改良は、《深淵級》まで作り出すことが可能となった。この事実を伝えると、ベリトが絶句していたことからして、《深淵級》とやらはかなりのものなのだろう。バンバン非常識な武具や魔道具を作ってもらいたいものである。
覇王編成は、《トライアル》を獲得する。これは眷属契約の仮契約のようなもので、期間を決めて契約し、その経過後に自動的に消滅するというものだ。無論、眷属の間は、覇王の意思により、選択的、限定的に《小進化》、《鑑定》、《休息》の権能を与える事ができる。武帝高校の弟子達の修行にもってこいの権能だ。
また、第一眷属に限り、覇王編成の《権能使用権》の個数の制限がカットされていた。これで、スキルや魔術の開発と、武具等の開発を両立することができるようになり、より使い易くなったといえよう。
こうも立て続けに俺にとって都合のよい権能を獲得できたのは、多分偶然ではあるまい。《万物創造》により、権能の進化の方向性が決定されているのだと俺は推測している。
次が、魔術・スキルの理。第一〇階梯まで作れるようになった。魔術やスキルは、戦闘の要だ。全メンバーに、魔術・スキルの開発を奨励することにする。
次が、エアについて。
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■追加機能:
〇効果再現弾:物理的魔術的効果を記憶、ストックし、弾丸として放つ事ができる。
※吸収弾を放ち、それに物理的魔術的効果を認識、ストックする。
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例えば、エアに炎を記憶させて、弾丸として放つ。こんなところだろう。詳しい効果は、実際に使用してみなければわからないがな。
夜間のカルディア教国首都への旅は、ピノアに最も近い北西の街――ランタンを出発し、村で一泊、さらに、カルディア教国の街――トートに到着した。
シドは、グスタフ達がいる事に、若干緊張しているのか、普段の憎たらしいほどの元気はなく、セシルや俺の後をコバンザメのようについて来て離れない。
特に、眠るときが顕著だ。必ず俺とセシルの間に眠り、気が付くと、両者のいずれかに抱きつて寝入っている。まっ、餓鬼などそんなものなのかもしれないが。
「改めて思いますけど、マスター達ってマジもんの夫婦みたいですね」
何気ないノックの感想に、セシルがボッと顔を発火させつつも両手で頬を抑える。ブツブツと呟くだけで帰ってこなくなったセシルを現実に帰還させるのに、かなりの労力を要したので、当分の間、この手の冗談は厳禁とした。
それにしても、シドは初見からセシルに懐いている勘があった。淡い恋心でも抱いているのかと思っていたが、実際はそう単純な話ではないのかもしれない。
いつものように、セシルとシドに馬車の手配を頼み、宿をとると、学校に向かう。




