第27話 武帝高校校長の提案 八神吹雪
物語を補完する(より理解する)話にすぎませんので、時間のない方は読み飛ばしてください。話は問題なく通じます。
一一月九日水曜日 午前一二時三〇分
八神吹雪が、校長室の扉を開けると、既に先客がいた。
――烏丸烈、長馴染というより、腐れ縁の方が適切だろうか。
校長室の正面の机には、長い顎髭を蓄えた和服姿の翁が座していた。
この人こそ、武帝高校の校長にして、探索者の頂点の《八戒》序列第四位――――【超人】――碇正成。
「よく来たのぉ。そこに座れ」
碇学校長のいつになく柔らかい笑顔に、面食らいながらも、校長の対面のソファーに腰を降ろす。
基本、碇学校長は、寡黙の代名詞であり、このような気軽な挨拶など間違ってもするような人間ではない。勿論笑みを浮かべているところなど、生まれて初めて目にした。碇学校長にとってよほどのことがあったのだろう。
「校長、何か良いことでもありましたか?」
どうしても、その笑顔の理由が知りたくなり、遂、疑問を口にしてしまう。
「そうじゃな。これは、良い事なのかもしれん。いや、良い事というより、愉快というが相応しいか……」
髭を摩りながら、碇学校長は天井を見上げて唸りだしてしまう。
碇学校長とは思えぬ姿に暫し、呆気にとられていると、隣の烈が肘で吹雪の脇腹を付いてくる。話を進めろ、といったところか。まったく、人任せにするところは、こいつの悪い癖だ。
「それで、校長、本日はどんな御用ですか?」
正直、このタイミング、嫌な予感しかしない。
「お主達、儂の弟子になりたいといっておったな?」
「弟子にしていただけるので!?」
烈が歓喜を漲らせながらも、身を乗り出す。
碇正成の弟子になる。それは、吹雪と烈にとって、夢にも見た最上の渇望。烈のこの反応は何ら間違っちゃいない。
しかし――。
「条件は何ですか?」
今まで、全く相手にすらされなかったのだ。無条件に弟子にするほど、このご老人は甘くはあるまい。どんな無理難題を吹っかけられるか。
「ほう……」
軽く嘆息し、ニィと口端を上げる碇学校長。この感情豊かな表情。かつての碇学校長とは、全くの別人だ。まさか、これがこの人の素なのだろうか。
「次の大会絡みですか?」
このタイミングだ。十中八九、それしかあるまい。
吹雪の言葉の意味を理解したのか、烈がゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえる。
「ほぼ正解と言っておこうか」
やはりか。しかし、妙だな。理事会は兎も角、碇学校長は基本、武帝高校の威信など微塵も興味などないはず。特に、お遊びに等しい子供の大会など今まで観戦すらしたことがなかったのではないだろうか。
とすれば――。
「今大会、イレギュラーがあるのですね?」
「そこに気が付くか。お主、中々見どころがあるぞ」
「それはどうも……」
これだけ、情報を与えられれば、馬鹿でも気付く。そんな心にもない世辞、大して嬉しくもない。
「そう深読みするな。別に世辞など言うとらんわ」
「学校長。お話を!」
吹雪のいつになく強い言葉に、笑みを一層深める碇学校長。
「ところで、お主ら、『レベル』についてどこまで知った?」
「粗方は……」
今から半年前、保健医である朝霧若菜を通して、『レベル』という概念が、吹雪達、体育連、文化連、風紀委員、生徒会の武帝高校四大勢力に知らされた。
もっとも、単に『レベル』とう言葉を知らされただけで、あとは自身で調べろという超絶放置プレイだったわけだが。
兄を始めとする家族や、親戚、さらには、学校の教師達に尋ねるも、いずれも、『探索者になればわかる』、そう繰り返すだけで、取り付く島もなかった。
結局、それが分かったのは、生徒会の鏑木銀二が手に入れてきた一枚の資料だった。
それは、探索者の資格獲得者向けのパンフレット。
そこには、『レベル』について詳しく記載されていた。
レベル――人の身体能力の強度の絶対的指標。
GからEランクのサーチャーが、レベル2。
DからBランクのサーチャーが、レベル3
Aランクのサーチャーが、レベル4。
レベル5以上はSランク以上のサーチャー。
雲の上の存在であるSランクのサーチャーに、レベル5で至れてしまうのだ。レベルが一違うだけで、天と地ほどの差が存在してしまうことは疑いない。さらに、レベルを上げるのは基本的に難解であり、文字通り命懸けの修行が必要となってくる。特に、レベル上昇に必要な『次のレベルに至る条件』という厄介な障害は、各個人により異なることから、対策を立てることもできないらしい。
「よろしい、よろしい」
満足そうに何度か頷くと、顔から笑みを消す。途端、深海に潜水したかのような独特な息苦しさが室内を支配する。
「っ……」
口から出る苦悶の声を無理やり飲み込み、必死で碇学校長を凝視しようとする。
「この度の大会、優勝して見せよ。されば、弟子にでもなんでもしてやるわい」
「それだけですか?」
《世界探索者選手権国内予選》は、今年最大の祭典であり、武帝高校では、最大の関心事となっている。だが、碇学校長が、その程度のことに興味があるとは到底思えなかった。
「随分余裕じゃのう。しかし、そう上手くいくかのう」
「どういう意味ですか?」
「直にわかる」
「はあ……」
碇学校長の意味深な発言に、相槌を打つ。
「今大会につき、お主達の修練の教官を手配しておいた」
「ほ、本当ですかっ!!」
烈が驚喜に近い表情を顔面に漲らし、身を乗り出す。
「嘘なんぞついてどうする。喜べ。性格に若干の難があるが、儂が考え付く限り、至上の教官じゃ」
「至上の教官……」
碇学校長は、滅多に他人を褒めない。というより、他者を称賛しているところなどこの武帝高校に入学して以来、初めて見た。
要するにそれほどの傑物ということ。そして、そんな人物に教えを受けられれば、卒業後にある探索者の資格試験に有利に働くのはまず間違いない。
「学校長の同僚の方と解してよろしいので?」
「そうじゃ」
烈の期待の籠った疑問の言葉に、軽く頷く碇学校長。
やはりそうか。
吹雪には、将来探索者として日本最強のギルド――『夢妙庵』に入るという夢がある。『夢妙庵』のギルドマスターが、碇学校長であることは親兄弟に探索者協議会の幹部がいれば、ある意味周知の事実だ。
おららく、碇学校長がここまで称賛するのだ。『夢妙庵』の関係者、幹部クラスなのは間違いあるまい。大会のため、トップレベルのサーチャーに教授を受ける。そんな学生など世界中探しても数えるくらいしかいやしまい。
何より、『夢妙庵』に入るに辺り、その幹部の一人とコネクションをもらえるのは大きい。
「いつお会いできるのでっ!?」
冷静に振舞っているつもりでも、声が裏返っているのは自覚している。だが、それも仕方ないだろう? あの幼い日、吹雪は、『夢妙庵』というギルドに憧れてしまったのだから。
「そう焦るな。一時間後、その教官との顔合わせの場を設けておる」
一時間後は、大会予選の第一回オリエンテーション。大会に向けて学園側が選定した教官達が揃い踏みするはず。なるほど、新任の教官の紹介にはうってつけかもしれない。
「よし、よし、よ~しっ!」
烈が上気した顔で、ガッツポーズをとり、立ち上がる。
吹雪も烈に続き、席から腰を上げ――。
「碇学校長、御配慮、心から感謝いたします」
深く頭を下げて、部屋を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
近々、登場人物の更新とこれまでてきてた権能・スキル・魔術についての説明を追加します。
早く投稿しなければと思ってはいたのですが、日々のリアルが馬鹿みたいに忙しく、休日しか時間がとれないこともあり、遅くなってしまっています。本当に申し訳ございません。(遂、暇があると本編書いちゃうんだよな……)
それではまた明日。




