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第15話 再度の暗礁


 俺の自宅の地下には、主に《トライデント》の幹部が集まっていた。会議の議題は、先ほど徳之助が持ってきた到底信じられないような話。

 即ち、駿河湾に浮かぶ探索者協議会が誇る世界七大収容所の一つマメルティヌスがたった一時間で完全壊滅したという事実。

 マメルティヌスは主に上位のサーチャーや、シーカーの捕縛の治外法権施設。そもそも、警備も極めて厳重なものとなっている。現に、所長は探索者協議会の幹部の一人であり、上位一〇〇以内の強力なシーカーだったはず。

 それが鼠、ゴキブリ一匹さえいない文字通り死地と化してしまう。あるのは大量の血液だけ。

 問題はそれだけじゃない。ここには、俺が芽黒公園で殺したはずの《シークレット》の隊員達や、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の幹部達のほとんどが存在した。

悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の最高幹部のヒエロファント、ハーミット、トレンクスは、警視庁に事情聴取のため出頭しており、事なきを得ていたが、他は全て消滅している。


「ミラノは?」

「現在、ミラノ嬢、ヒエロファント、ハーミット、トレンクスの三者は、ここの北の管理棟に保護中さ。彼らは、全員、本事件の重要な容疑者だからね。今死なれるわけにはいかない」


 徳之助の奴、冷静に振舞ってはいるが、完璧に頭に血が昇ってしまっている。

報告では、運が悪く、調査一課長が、扇屋小弥太(おおぎやこやた)の尋問に訪れており、行方不明にあったらしい。きっと、現在、警察内部は、てんやわんやの状態だ。


「徳さん、少し落ち着け!」

「僕は、落ち着いているっ!」

「どこがだ? どこからどう見ても、冷静さを失ってんだろ? いいから、少し頭を冷やせよ。今のお前に、真面な判断が下せるとは思えない」

「っ……」


 下唇を噛みしめると、椅子に座り、腕を組む。

 

「やっぱ、《傲慢》か?」

「この絶妙のタイミングですし、ほぼ間違いはないかと」


 ベリトが優雅に紅茶を入れつつもそう断言する。


「少し、いいか?」

「陛下、何か気になる点でも?」


 ロキがベリトの入れた紅茶を優雅に飲みながら、微笑を浮かべつつ、問いかけてきた。

 

「一応な。一三事件についてだ」


俺の言葉に、徳之助が顔を上げる。


「ミラノ嬢とヒエロファント達の自白により、事件は解決に向かっているはずだけど?」

「どうもこの事件、違和感がある。全て最初から洗い直して欲しい。もちろん、ミラノ達の自白内容が正しいならそれでいい」

 

 徳之助は顎を右手で摘まむと再び考え込んでしまった。代わりに(ふくろう)が困惑気味に、口を開く。


「しかし、ミラノ嬢からは、精神汚染因子は検出されてないはずですが?」

「人間ごときの技術で検出できる精神汚染因子など、せいぜい、八階梯までのスキルや魔術による汚染だけだろう? それに時が経てば、消失する汚染因子だってある。検出されていないから、精神支配がされていないとは限らんわ!」


 バフォメットが不機嫌そうに梟に反論をぶつける。

 要するに、精神汚染因子が検出されれば、精神汚染されていたのはほぼ間違いないが、因子が検出されないからといって、精神支配されていないとは限らない。そういうわけか……。


「私達が突き止めたのは、ミラノさんの偽りの経歴のみ。真実の経歴を辿れたわけではない。彼女が精神汚染されていたのが事実なら、彼女達の自白は全くと言ってよいほど価値がなくなる。彼女達の出自を調べ直す必要があるというわけか……」


 堂島の言葉に、軽く頷くと、徳之助は極めて神妙な顔で俺の目を見つめて来る。


「相良君、君は今回のマメルティヌス収容所の壊滅と一三事件に関連性があると考えてるんだね?」

「まあな。このタイミングだし、狙いすませたように、シークレットや悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の奴等が消滅した。これで、関連性がないという方がどうかしている。まるで――」

「一三事件の証拠自体を消そうとしている」

「そうだ。今回の傲慢の目的がリルム・ブルーイットを貶めるためにあるなら、まだ何ら終わってはいないからな」

「わかったよ。どの道、ミラノ嬢に対する正当な裁判は、四界だけではなく、《八戒(トラセンダー)》全体の要望でもある。疑義が生じた以上、警察としても無視などできない」

「感謝するぜ」「感謝いたします」「感謝いたす」


 徳之助に対するウォルトとベリト、バフォメットの謝意が見事にハモった。


「堂島君、君は至急、捜査官を集めてくれ」

「はいっ!」


 敬礼をすると、部屋からでていく堂島。

一歩遅れて、徳之助も力強く立ち上がる。


「今は一分一秒が惜しい。僕は行くよ。相良君、皆、先ほどはすまなかった」


 そう告げ、一礼すると、徳之助も部屋を出て行く。


「僕も独自のルートで調べ直してみよう」


 ロキは紅茶を飲み干すと、席を立ち上がり、部屋を退出する。

 それを切っ掛けに、皆、次々に自身の役割を全うしようと動き出す


「兄者……」


 眼球だけ動かすと、ウォルトが今も退出していく仲間達をぼんやり眺めていた。


「ん?」

「こいつらマジでいい奴等だな」

「そうだな」


 相槌を打つと、俺も重い腰を上げて自室へ戻った。


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