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第11話 就任式

 一瞬、頭の中が真っ白になり、立ち止まり、昼間に会ったばかりのパーティードレスを着た女の美しい顔を眺めていた。

 

(陛下、お話は後になされた方がよろしいかと)


 耳打ちをしてくるベリトに、何とか頷き、歩き出す。

 頭の中は、今も溢れ出る答えの出ない疑問にグチャグッチャにシャッフルされ、滅茶苦茶気持ちが悪い。

 現在、司会者が、ウラノスの紹介をしている最中だ。

 今の内に得られた情報を整理しておくのが吉か。


 まず、美夜子がこのパーティー会場にいる理由だ。お見合いと聞いていたから、六壬真家(りくじんしんか)が頻繁に催している上流階級のパーティーかと思っていたのだ。まさか、《八戒(トラセンダー)》の就任式典だとは、夢にも思わなかった。

 とは言え、パッと見ただけでも、この場には各家の御曹司や協議会の幹部達のパレードだ。シーカーの一人や二人いても大して驚きはしないか。


「彼こそが――『最強(ジャガーノート)』――エア!」


 司会者の熱の籠った声に、現実に引きずり戻され、顔を上げると、会場中の視線が俺に集中していた。別に今更、大勢の人に緊張するような真面な精神状態を備えてはいないが、思考を中断され、多少はギョッとした。


「陛下は何も口を開かずとも構いません。ただ威を示していただきたく」


 要するに下手な挨拶など不用ということだろう。ベリトの思考の裏を読めば、むしろ、口は開くなということなのかもしれない。確かに、口を開くよりも、効果があることを俺は知っている。

 俺は、一歩前にでると、第九階梯のスキル《威風覇道》を手加減しつつも、発動する。

 この《威風覇道》は、控室で暇つぶしに《万物創造》により創造したスキルで、自己の魔力を威圧に変換し、放出するという単純明快な効果がある。一言で表せば、威圧に関する包括的スキルと言えばよいか。

 仮にも協議会の規定で禁技に属するスキル。威圧に関することなら、大抵何でもできる。効果範囲の各人に応じて、威圧、恐怖の効果を自由にコントロールすることも可能ってわけだ。


「おい、おい、おい、小僧っ!! ちょっと待て!!」


 ウラノスの悲鳴じみたい声が木霊し、威圧の効果が俺から同心円状に放出され、俺達以外の会場のほとんどが、俺に跪いていた。

 威圧をまともに受けても屈服していないのは、まずは、ロキやベリト等の恐怖という言葉が凡そ存在しないと思われる迷惑な生物達とウラノス達白スーツ連中。もっとも、白色スーツの半数程度が、真っ青な血の気の引いた顔で、膝を震わせていたわけだが。ウラノスは、呆れたかのように顔を右手の掌で覆うと、この惨状を眺めつつも大きな溜息を吐く。

 四界の使者と思しき四柱(よにん)も、黒翼の男以外、滝のような汗を流し、跪いており、顔を床に向けている。その唯一無事な黒翼の男も目を大きく見開き、俺を凝視していた。

効果範囲を外したアレクとバドラはこの惨状に頬を引き攣らせ、碇爺ちゃんは大声で子供のように笑い出す。

 そして、同様に効果範囲を外してあるのは、美夜子と隣の(まつり)、さらに、円香、明美とその友人と思しき二人。さらには、俺の知り合いの数人の大人達。

 美夜子達は、呆気にとられて、周囲をキョロキョロと眺めいていた。


「相変わらず、無茶苦茶する奴だな」

「そうか? 一応、各人に対する最大の恐怖が生じるようにコントロールしたつもりだぞ。

 ところで、以前のお前の部下の評価を酷評したが、訂正するよ。中々いい部下をもってるじゃないか」

「……お前に言われても素直に喜べんのだが」

 

 ウラノスは、いつもの整然とした態度を絶やさないベリトと、悪ガキのような笑顔を浮かべているロキを眺めながら、ひとりごちる。


「ゆう――いや、エア、お主、今何やった? 教えろ?」


 ようやく、笑うのを止めた碇爺ちゃんが、俺に詰め寄る。


「単なる威圧系のスキルだよ。さっき暇つぶしに開発した」

「ひ、暇……潰し」

 

 バドラが、今度こそ、異星人にでも遭遇した時のような視線を俺に向けてくる。


「威圧系のスキルか……どうりで、面白い、面白いぞっ!」


 明らかに危ないお花畑に旅立ってしまった碇爺ちゃん。危険なバトルジャンキー系には、関わらんのが一番だ。放っておこう。それが良い。


「いいんじゃない。彼らも十分、身の程がわかったろうし」


 ロキがニヤニヤしながら、ウラノスに視線を送り、パンッと両手を合わせる。

 白色の波動が会場内を見たし、恐怖により完全停止していた時は再度動き出す。

 よろめきながら、皆、立ち上がり、姿勢を正す。彼らの瞳の中にあったのは、例外なく俺という未知に対する絶対的な恐怖。

 調子に乗ってやり過ぎたか。まあ、今後、面倒な奴等に絡まれるのを防止したい思惑もあったし、別にいいか。


「そ、それでは、エア様、これを」


 司会者から、震える手で一枚の白銀色のカードを渡される。

 カードには、『最強(ジャガーノート)』――エアの名と、序列一位との記載があった。

 一応、控室でこのカードの存在につき説明を受けている。あらゆる公共機関の無料利用、情報のアクセス権、協議会の管理区域への立ち入り権、世界中のあらゆる税の免除等、様々な特権が享受できる。

 もっとも、名を知られたくはないために、こんな回りくどいことをアレクに要求したのだ。こんなカード使い道など皆無だ。アイテムボックスに放り込んでおくに限る。


「皆様方、これで、新たな《八戒(トラセンダー)》の就任式はこれで終了します。どうぞごゆるりと、お楽しみください」


 司会者が優雅に一礼し、会場はかつての活気を完全に取り戻した。


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