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第10話 ヒーロとの再会


 午後八時になり、《八戒(トラセンダー)》序列第三位――【聖哲(せいてつ)】――アレク・ハギが、部屋の最奥、貴賓席前に姿を見せる。

 探索者協議会議長の直々の登場だ。このセレモニーの趣旨には皆検討が付いているのか、期待の視線が注がれる。


「皆様も既に、耳にしておいででしょうが、昨晩、《序列闘争(ランクコンフリクト)》により、序列一位――セツと二位――メィデーが敗れ、彼らは《八戒(トラセンダー)》の地位を消失いたしました。

 同時に、彼らに重大な協議会規則違反の事実が発覚いたしましたので、セツとメィデーの捕縛が我らにより(・・・・・)、なされております」


 会場は、虫が鳴いているような騒々しさに支配される。

 序列一位と二位の敗北の事実はこの会場のそこら中で噂になっていた。案の定、驚きや驚愕の声はほとんどなく、協議会への判断への奇妙な納得の空気があった。

 喧騒の中、近くの白色の軍服を着た集団の会話が鼓膜を震わせる。


「序列一位と二位、生きていた……のか?」

「らしいな。あ奴らを喰らった扉は身柄拘束用の魔道具か何か……」

「でしょうね。協議会は、あの戦争(・・)をただの、《序列闘争(ランクコンフリクト)》として片付けるつもりのようだしさ」

「あんな血も凍るような虐殺映像見せつけて、今更、《序列闘争(ランクコンフリクト)》もないだろうに……」

「同感だけど、仕方ないんじゃん? 序列一位と二位には不逮捕特権を始めとする諸権利があるし、《序列闘争(ランクコンフリクト)》でもなければ、排除できないっしょ?」

「だな、奴等は自身達が人間のキメラ化を扇動してきたって無様に独白していた。あの情報が真実なら四界のお姫様に殺人までさせていたらしい。¨《八戒(トラセンダー)》だから、後日、釈放します¨では、四界は納得すまい」

「だとすると、これは――」


 誰もが、同様の結論に到達し、落ち着きのない騒々しさは一気に終息していき、アレクの発言を待つ。


「よって、探索者協議会規則8条、9条に基づき、セツとメィデーを打破した者と協議会が推薦する者の《八戒(トラセンダー)》序列一位と二位の就任式をただ今から開催いたします」


 一瞬の静寂。直後、会場から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。

 テレビやネット等では、序列一位と二位は、繰り上がり、アレクと碇正成(いかりまさなり)が、序列一位と二位になるとのもっぱらの噂だったのだ。まさか、《八戒(トラセンダー)》のツートップを新たな、メンバーに挿げ替えるとは誰も想像もつかなかったのではなかろうか。

 アレクがパチンと指を鳴らすと、司会者らしき白色のスーツにハットを被った男性が、前に出て一礼する。


「《八戒(主役)》の入場です。新たな《八戒(トラセンダー)》に拍手を!」


 鼓膜が破けんばかりの拍手の嵐の中、扉がゆっくりと開かれる。

 人々はその姿を一目見ようと、扉前まで殺到し、忽ち、彼らの姿は人の壁により阻まれる。


「新たな序列一位と二位だってさ。うちらも見に行こう!」


 いつになく興奮に顔を火照らした(まつり)により、引きずられるように、人の波にその身を滑り込まされる。


「おい、割り込むなよ!」

「すまない。おじさん!」


 悪気が皆無の声色で、そう元気よく答え、さらに最前列まで突き進む(まつり)と彼女に引っ張られる美夜子。

 おじさんに、頭を下げて謝りつつも、人の波の中を進むと、ようやく最前列へ出た。

 最前列には真っ赤な二本の紐が張られており、群衆により作られる道のようになっている。

 (まつり)が、紐から身を乗り出し、目を輝かせて眺め見る。

 彼女のこのアグレッシブな性格は、この時ばかりは羨ましいと心の底から思う。

 

 美夜子達、武帝高校の現校長であり、探索者の王たる碇正成(いかりまさなり)が和服姿で悠然と歩いてきた。

 美夜子達と一瞬視線が合うと、悪質な笑みを浮かべて右手に握る扇子の先を背後に向ける。

 扇子の先には、蒼色の目の金髪の美青年が、微笑を浮かべていた。彼は、女性の探索者なら誰でも知るほど有名な人物。序列八位――《光王子》――バドラ・メスト。世界イケメンランキングでも常に上位にランクされる世界中の女性の憧れの的である人物。

 彼の背後にいるのは、白色の髭に白髪、白スーツという白一色の巨体のお爺さんとそれを守護するかのように控える白色スーツの複数の男女達。

 あの白服のお爺さんが、新たな《八戒(トラセンダー)》の一人であるのは間違いない。

 美夜子の婚約予定の相手は、まだ若いはず。彼ではない。だとすると、彼の後ろの人か。


「み、み、美夜子、あれ……」


 隣の(まつり)が、目をカッと見開き、震える右手の人差し指を一点に向ける。


(嘘……)


 二メートルを超える白色スーツのお爺さんの背後の人物と視線がぶつかり、美夜子の思考は完全停止し、真っ白に染め上げられる。


「ゆ、悠真君っ!!!」

「美夜子!?」


 こうして、美夜子は、今一番逢いたい英雄(ヒーロー)と会った。


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