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第2話 教室内での噂


 去り際に、ミラノを励まそうとするも、奴の運命と取り組むような真剣な顔つきを見て、俺は声をかけるのを止めた。既にミラノの戦いは始まっている。俺が余計な口を出すべきではないし、それでミラノが一時でも楽になることは、逆にミラノを苦しめる結果となる。俺が知るミラノはそういう奴だから。


 ギルドハウスの小雪の病室まで転移する。計画では、本日中には、小雪は俺の自宅まで引っ越すことになる。


「もう少しで、お家に戻れるぞ」


 右手を握り、そう呟く。無論、答えなど返ってこないが、それももう少し。この国の研究者達の総力を挙げて、小雪の治療法を探すのだ。きっと、近い将来、小雪はまた昔のように目を開けてくれる。


「じゃあ、次は俺達の家でな」


 数回、頭をそっと撫でると、俺は自宅へ転移した。

 キュウに、カリンの護衛を頼み、既に迎えに来ていた半蔵さんに、キュウとカリンが一緒に居られるよう取り計らうように頼む。仮にもカリンの命がかかっている。志摩家の力なら、学園にペットと一緒に登校することくらい、容易に成し遂げられることだろう。



 武帝高校に到着すると、学内は噂話で持ち切りだった。

 ――序列一位と二位の敗北。

 ――探索者協議会の解体の危機。

 ――四界なる世界の使者の来日。

 ――東京湾の上空に浮かぶ、四隻の船。

 まさに、横須賀に来航した黒船のごとく、世界中のお茶の間の全ての話題をかっさらい、良いのか悪いのか、『一三事件』の解決は、取るに足らないものとして隅に追いやられてしまう。

 少なくとも武帝高校の学生で、『一三事件』について、話しているものなど皆無だ。

 流石は、探索者の卵だけはあり、今後の探索者の展望についての話題が五割、二割が序列一位と二位の敗北、残りの三割が、四界についてだった。


「ユウキュン、おっはー、なあ、なあ、テレビ見たよな!?」


 教室に入るや否や、背後から肩に腕を回される。

 横目で確認すると、生気のない目をした茶髪の冴えない男――日暮寛太(ひぐれかんた)(元祖変態)が、いつになく興奮気味に俺に今学園で一番ホットな話題を振ってきた。


「嫌でもな」

「マジ、すごいよな?」

「まあな、船が空に浮いてるし」

「ノンノン、ユウキュン、嫌だなぁ~、もち、あの四界の使者の女のコに決まってるよな?」

「¨決まってるよな?¨じゃねぇよ。この状況で普通そこに反応するか?」


 無駄だと思うが一応反論だけはしておこうと思う。

 もっとも――。


「愚かなる相良よ! 寛太氏の発言こそが真理にして真実! おんにゃの子より、空飛ぶ船に興味があると? お前、さては、メカにしか性的興奮を覚えぬ変態だな!?」


 でっぷり太った腹に、まん丸の顔をした明石(あかし)(変態⓵)により、その反論は、あっさりと否定された。


「明石、メカを馬鹿にするなぜよ! メカとロリっ子女子のコラボレ~~ション! これぞ、至高にして、最上!」


 坊主頭の須藤(すとう)(変態⓶)が、恍惚の顔で、いかにも如何わしい妄想にふける。


「阿呆共がっ! 貴様ら、あの使者さんのよく実った果実と小麦色の肌を見たのか? しかも、ケモミミにモフモフの尻尾付き。健康美とケモミミが奏でるハ~~モニー! あれぞ、究極の――」

「やめんか!」


 両手を広げて天を仰ぐ、健康美をこの上なく愛する自称スポーツマンのマッチョ――松田(まつだ)(変態③)の後頭部に、カバンが直撃し、教室の最奥のロッカーに顔を突っ込む。


「おい、生駒(いこま)、いくら何でもやり過ぎじゃねぇか?」


松田(変態⓷)の奴、踏みつぶされたゴキブリ見たいにピクピクいってるし……。


「いいのよ。教室で卑猥な言葉を大声で喚くような野獣には丁度いい躾けになるわ」

「し、躾けっ! ぼきゅも詩織たんに踏まれた――」


 鼻息を荒くし、両手の指をワシャワシャさせつつ、明石(変態①)は生駒に近づくが――。


「死ねっ!」


 明石の顔面に、鞄がクリーンヒットし、数回転しながらも、松田の脇のロッカーに頭から突っ込んだ。

 真っ青な顔で、ロッカーを枕に痙攣している二人を眺め、必死で両手を振る須藤(変態②)

 こいつも必死だな。まあ、あれをみりゃ、無理もないが……。


「そ、それがしの好みは爆乳ロリっ子。詩織たんのような細やかなサイズの年増には微塵も興味ないぜよ」


あ~あ、言っちまったよ。年増はさておき、貧乳については、本人滅茶苦茶気にしてるっぽいぞ?


「殺す! 絶対にぶち殺す!!」


 生駒はブルンブルンと鞄を振り回し、


「お、お慈悲をぅ――」


 須藤も拘束で回転しつつも、教室の最奥のロッカーに、頭から突っ込む。


「さて、次は誰かしら?」


 怖いって、冗談じゃなく、かなりマジで! 話題を強制転換しよう。真面目な生駒にはそれが一番効果的だ。


「ところで、お前、今日のニュースどう思う?」

「そうよな。あの女の――」


 空気を微塵も読めない《元祖変態》の口を押えつけ、詩織の答えを待つ。


「良くも悪くも、序列一位と二位は協議会が誇る最大の抑止力であり、鉾だった。その彼らがいない今、協議会内はおそらく混乱の極致よ。四界の使者とやらにまともに対応すらできちゃいないわ。しかも、四界とやらのあの技術力……」


 生駒の顔に影が落ちる。確かに、あの空に浮かぶ船は、飛んでいるのではなく文字通り浮遊しているのだ。今の現代の魔道技能技術ではまず再現不可能だろう。もっとも、一度、あれを目にした俺達ならあっさり建造可能かもしれないが。

将来、あれを製造して、世界に売り出すのも面白いかもしれないな。


「まあ、なるようになるだろうさ。いずれにせよ、俺達のような力のない餓鬼が頭を悩ませても意味はないな」

「そうね」


深いため息を吐くと、生駒も席に戻っていく。


「ホームルームの時間だぞ。皆、席につけ!」


黒髪の幼女が教壇に立ち、背伸びをして、黒板に文字を書き始めた。



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