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第1話 飛空艇襲来


「相良君、大変だよっ!!」


 自室のベッドで微睡の中にある俺の意思を現実に引き戻したのは、いつにない徳之助の切迫した声。

 たった今、俺の自室の扉を勢いよく開けた徳之助をぼんやりと眺めつつも、ベッドの脇にある時計に視線を移す。

 ――現在、五時二五分。

 ギルドハウスへの侵入者なら、小雪の警護の任についているベリトか鳩魔王から連絡があるはずだし、この俺の家への侵入者なら怪物達からの報告が真っ先にあるはず。

 志摩家への襲撃は、カリンがここにいる以上、いずれの勢力も危険を冒すだけの価値はない。

 いずれにしても、ここまで徳之助が焦る理由がわからない。


「徳さん。どうしたんだ? まだ、五時だぞ? もう少し寝かせ――」

「いいから、着替えたらすぐにリビングへ来てくれ!」


 そう言うと、徳之助は、部屋から飛び出して行ってしまう。首を傾げながらも、武帝高校指定の制服に着替えて、リビングへ降りていく。



 まだ朝の五時半だというのに、リビングにはミラノを含めた、ギルドの主要メンバーが勢ぞろいして、テレビの画面を一心不乱に凝視していた。

 もっとも、学生や未成年のメンバーは呼ばれてはいないようだが……。

 

「おはよ」

「……」


 誰も返答どころか一言も口を開かず、魂を奪われたかのような呆然とした表情でテレビを見ている。

 不思議に感じつつも、テレビに視線を向けると――。


『首相官邸前からの中継です。ただ今、四界なる異世界の使者が、官邸前に到着いたしました』


 四界? 《天界》、《竜界》、《霊獣界》、《冥界》とかいう不思議世界のことか?

 おそらく、ウラノスの言葉――お主が望もうと望むまいと、本日、お主が目覚めた以上、遅くとも明日の午前零時までには、ゲームは開催される――からも、覇王同士のバトルロワイヤル――『七王天武祭』の開催の余波だろう。

 だが、四界なるものがコンタクトを持つなら、世界でも有数の戦力と経済を有し、探索者協議会の本部がある米国だと思っていた。なぜ日本なんだ?


『たった今、東京湾からの映像が入りました。海面の遥か上空に、四隻の船が出現しています』


 東京湾の上空に、赤、白銀、青、黒色の流線型の滑らかな四つの船のようなものが宙に浮いている光景が映し出される。

 所謂、江戸時代における黒船来航のようなものか。プロのアナウンサーの上ずった声は、現在、日本が非常事態に陥っていることを否応でも俺達に理解させた。


「あれは、《スキーズブラズニル》?」


 呆然とした表情で、ボソリと呟くセレーネに皆の視線が集まる。


「セレーネ様、あの非常識な船、知ってるんで?」


 ベムの問が聞こえているのかいないのか、ガチガチと爪を噛み始めるセレーネに眉をしかめる一同。


「セレーネ、あれはお前の世界の乗り物か?」

「……」

「セレーネッ!!」


 ビクッとテレビから視線を外し、俺を見ると、数回深呼吸する。


「そうじゃ。あの白銀の船が天界四大権力者――四聖天の一柱(ひとり)――ハイペリオン・ジャスティス専用の飛空艇じゃ」


 また、よくわからん固有名詞がゴロゴロでてきたものだ。

 あの白銀色の船が、《天界》の権力者であるハイペリオン・ジャスティスの乗り物。つまり、ハイペリオンはこの地球の日本に来ているということだろう。

 目的として考えられるのは、やっぱり、昨日のロキの言葉か。


「セレーネ、答えな。来日の目的が、リルム・ブルーイットである可能性は考えられるか?」


 いつものオサゲ、眼鏡に、メイド服を着た普段の恰好に戻ったミラノがビクッと身を竦ませる。その顔は死人のように血の気が失せていた。

 ミラノは今日の朝食の後、徳之助達と警視庁へ出頭する手はずとなっていた。ロキのいう横槍とやらが四界なら、この上なく面倒な事になる。


「あ、ああ、昨晩のあの御方が、本当にリルム様なら、天界は、真っ先に自己の陣営へと引き込まんと画策するじゃろうな」

「リルム・ブルーイットはお前ら天族にとってどんな存在なんだ?」

「リルム様は、古代神話の時代に、四界を統一した伝説の大帝陛下の御息女であり、いわば、四界全体のプリンセス。旧世代の怪物達が未だに忠誠を誓う御方であり、天界の首脳陣の信仰の対象ともなっておる」


 ミラノの驚愕に見開かれた瞳から察するに、彼女自身、初耳のようだ。


「お前、昨晩、リルム・ブルーイットを知っていたようだが、以前会った事があるのか?」

「そんなわけあるか! リルム様は、妾が生まれるずっと前――古代神話の時代の御方じゃぞ」

「なら、なぜ、お前は、あの赤髪の女をリルム・ブルーイットだと判断した?」

「古代神話の時代、最悪とも称された《傲慢》との大戦があったのじゃが、その直前、《傲慢》が手出しできないよう、大帝陛下の側近の一柱(ひとり)により、地球のいずこかに封印されたとされておる」

「ここが地球で、封印の地だからってわけか?」

「そうじゃ、もしかしたらと思うての。まあ、流石にそんな訳あるはずもないんじゃが。本人も昨晩否定していたし」


 気まずそうに、指を忙しなく動かすミラノ。セレーネに嘘をついたことに罪悪感でも覚えているんだろうが、この残念銀髪ロリっ子には、むしろ真実を伝えない方がいいのだ。こいつ、変に常識人のふりするからな。


「だが、流石にそれだけでどうやって顔までわかったんだ?」

「言ったじゃろ? リルム様は、天界では信仰の対象ともなっておると。天界中の公的機関や、聖堂には決まって、リルム様の御姿の肖像画、銅像が飾られておるし、フォログラフによりはっきりとその御姿が記録されておる。寧ろ、天族で知らぬものなどおらぬよ」


 大体の事情は把握した。

 古代神話の時代に、大帝は傲慢により殺された。《傲慢》との大戦直前に、大帝の眷属により、リルムは地球に封印されてしまう。

 ようやく最近、リルムが封印から解かれる。暫く、リルムの封印を解いたこの地球の大帝の眷属か、もしくはその子孫達に世話になっていたが、大帝たる父に会いたくなり、父の復活のため、人間社会に溶け込みその方法を探す。数年前、《傲慢》にそそのかされ、『一三事件』を起こす。こんなところだろう。

 まったく、カリンの次はミラノか。どうして、俺の周りの奴は、こうも複雑な家庭環境を背負ってるんだ?


 ともあれ、ゲーム開始とともに、四界の使者が血相変えて、この日本に姿を現したのは、信仰の対象たるリルム・ブルーイットが、人間の法で裁かれるとの情報を得たから。そりゃあ、奴等にとっては受け入れがたいだろうさ。

 だが、ここで、ミラノを罰しないという選択肢は取れない。それは、無辜の犠牲者達への冒涜にあたるのはもちろん、罪が正当に裁かれなければ、遺族やミラノ達が真の意味で事件から解放されることはないからだ。


「徳さん。予定通り、ミラノを警視庁に連れて行ってくれ。カリンやクリス姉が起きる前までにだ」

「いいのかい?」

「ああ」

「相良君、君のミラノ嬢の心の負担を減らしたいという気持ちはわかる。しかし――」

「言わんでもわかってる。真犯人であるセトとメディアを近いうちに、法廷に突き出す。それでなんと収めてくれ」


 《ヘルズゲイト――悪夢の旅路(ナイトメアジャーニー)》にセトとメディアが取り込まれて、一〇時間は経過した。つまり、三兆六〇〇〇万年もの悪夢を見続けていることになる。

 この混乱が終息するまで、早くても一か月はかかる。『一三事件』の公判が開始されるのは、さらにそれより遅くなるはず。

 どの道、《八戒(トラセンダー)》であるセトとメディアには、不逮捕特権や裁判拒否権がある。《八戒(トラセンダー)》の地位を失うまでは、奴等を裁判の証拠として使うことはできないのだ。《八戒(トラセンダー)》の地位が剥奪されたら、セトとメディアを、門から出し、司法の場で全てをゲロッってもらう。


「ありがとう! 助かるよ!」

「それで、キメラ化された犠牲者はどうなってる?」

「既に、ベリトさんの《生体改造》により、少なくとも外見上は元の身体に戻っているよ。

《傲慢》がミラノ嬢を過度に追い詰めるため、彼女の知り合いに的を絞ったのが返って幸いしたね。キメラ化による死者は、フールによるお遊びによって死んだ少年だけさ」


 そうだろうな。セトやメディアの屑っぷりからすれば、友人がキメラ化したところをミラノに見せつけなければ、意味はない。殺すなどもっての他だろう。あのキメラ化は、死以上の悪逆だった。

 ともあれ、セトとメディアには、犯した罪を骨の髄まで償わせる。法廷が開廷されるまでずっと、《ヘルズゲイト――悪夢の旅路(ナイトメアジャーニー)》に入って悪夢を見続けてもらう。

 その後、ゲイトから出して、法廷で自白させる。法廷でまだ逆らうほど反骨精神旺盛なら、また別の手を考えるだけだし。


「四界の使者の件とやらは、秀忠と真八に丸投げしよう。俺達は、各々がやれることをやるだけだ」

「マスターの指示が出た。

《トライデント》のメンバーは適時、上の指示に従うこと。警視庁チームは当面、職務に戻ってもらって構わない。

 明日のギルド幹部会議まで、ギルドメンバーは、経営戦略チーム、ギルドハウス及び相良邸の改良チームに分かれて案をいくつか出しておいてくれ。その他は、迷宮に潜り鍛錬を継続だ」


 四童子八雲は、一旦、言葉を切ると――。


「それでは、決行!!」


 両手を打ち鳴らす。それを契機に、皆が腰を上げて、各々の役を担うべく動き出す。

 昨晩のロキの口ぶりからすれば、俺は当面、武帝高校に通うことが最善のようだ。ギルドハウスにいる小雪に会ってから、通学しようと思う。


      

二章の開幕です。二章は一章で生じたモヤモヤした謎の解決編となります。

結構、一章の格人物につき意外な展開を迎えることが多いと思いますが、よろしくお願いいたします。


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