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第161話 事件の一時終幕

 現在、一一時五五分を回っている。無論、シスターは餓鬼共とセシル、アイラを連れて、ギルドハウスへと帰って行った。

 今、リビングには俺と俺の肩を枕替わりに熟睡しているカリン。そして、対面のソファーで、珈琲を優雅に飲んでいる半蔵さん。


「半蔵さん、約束を守ってくれてありがとう」

「とんでもございません。微力でもお力になれたなら幸いです」

 

 外の怪物共をチラリと見ながらも、そう答えた。


「そんな事ありませんよ。マジで助かりました」


 これは紛れもない俺の本心だ。カリンは弱い。銃火器であっさり死亡する。俺達のギルドから護衛を付ければ、《傲慢》に警戒される危険性があった。あのアシュパルの馬鹿王子からも狙われていた以上、俺がいない間の半蔵さんの協力は必須と言ってよかったのだ。


「以前の件につき、お話をお聞かせ願えないでしょうか?」


 例の件とは、ウラノスとのやり取りのことだろう。もう隠し立てする意味もない。半蔵さんほど機知に富む人なら、俺の与えた情報で、上手く立ち回るはずだ。


「もうじき、この地球で戦争が起きます」


 半蔵さんは、珈琲を一飲みすると、コトリとカップをテーブルの上に置く。


「覇王ですか?」

「ええ、あのウラノスとかいう爺さんレベルの怪物が七体によるバトルロワイヤル。そうお考え下さい」

「ユウマ様は勝算がおありなので?」

「やるからには、負けるつもりはありませんよ」


 俺の敗北は、小雪、カリン、クリス姉等のギルドのメンバーの命が失われる事と同義だ。敗北など夢にも考えちゃいない。例え、刺し違えても、敵をその組織ごとぐしゃぐしゃに潰し、粉々に破壊してやる。

 

「愚問でしたか。悠真様、内心を恥ずかしげもなく晒せば、私は貴方が恐ろしい。

 この外にいる数万にも及ぶ怪物達がその気になれば、私ごときでは抗うことがなく殺される。

 そして、その怪物以上に貴方と、そのお仲間は強い。少なくとも、炉貴(ロキ)様、ベリト様、ウォルト様、ミッドガルド様は間違いなく」


 それを理解できるだけ、貴方は大したものだ。セトとメディアは最後の瞬間になってようやくそれを理解し得たに過ぎないのだから。


「俺は、志摩家の敵にはなりませんよ。」

「貴方が力を得たのは、カリンお嬢様を助けるがため。それは重々了知しておりますし、貴方が敵になるとは夢にも考えてはおりません。

それでも、このような奇跡をまるで、息を吸うかの如く成し遂げる貴方にただの人間にすぎない私は畏怖を感じざるを得ないのです」

「……それも、もう少しですよ。安心してください。もうじき全てが終わり、元の鞘におさまります」


 俺のこの言葉に、初めて半蔵さんに動揺が走った。


「悠真様、まさか、貴方……」

「嫌だな、考えすぎですよ。俺には自殺願望などありません。何せ、小雪がいますから」


 半蔵さんは俺を凝視していたが、憂わしげに表情を曇らせる。


「そうですね。しかし――いえ、やめて置きます。ただ、お約束下さい。ご自身を大切になされると」

「それはもちろんです。繰り返しになりますが、俺には破滅願望などありませんから」


 ようやく、いつもの半蔵さんに戻った時、一二時のベルが鳴り響き、カリンがビクッと飛び起きる。


「ユウ……マ」


 ようやく、俺のこの悪夢は振り出しに戻った。少なくとも、今襲撃で死亡してもまだロードでやり直しが効く。


「起こして悪い。今晩は家に泊ってけ。半蔵さんもどうです?」

「ありがたき申し出ですが、約束の一一月七日午前零時は、過ぎてしまいました。私は主人の護衛に戻らねばなりません。

 カリンお嬢様とクリスお嬢様は、明日の早朝、迎えに上がります」

「了解しました」


 一礼すると、半蔵さんはリビングを出ていく。


「ユウマ……」


 眠そうに目をこするカリンの前で背中を向けて、座り込むと、俺の首に両腕を回し、抱きついてくる。

 羽のように軽いカリンを背負い二階の客室のベッドに寝かせ、立ち上がろうとするが、抱きつかれてしまう。


「カリン?」

「……」


 尋ねるが、返答はない。眠ってしまったのかとも思ったが、その身体が小刻みに震えているのに気が付いた。


「どうした?」

「ユウマ、どこにも行かない?」


 此奴、また狸寝入りしていたな。さっきの半蔵さんとの話を全部聞いていたか……。カリンの理解力なら、俺の置かれている現状も朧げには把握済だろう。誤魔化しても、逆に不安がらせるだけか。

 だから――。


「心配すんな。俺はどこにもいかねぇよ。ずっと、お前達の傍にいる」


 そんな嘘をついたんだ。


「約束ですわ」


 離れる気配のないカリンの背中をそっと叩いているとようやく、力が抜ける。

 ようやく眠ったようだ。


(御免な、カリン)


 俺は小声で呟くと、その頭を数回撫でた。。




 これで一章は終了です。結構長かったですし、書くのに苦労もしましたが、皆さんがご愛読していただいた御蔭でここまで書くことができました。私のつたない物語を御愛頂いただき、本当に感謝感激です。ありがとうございます。

 もう少し完結まで、物語は続きます。それでは二章でもお会いできれば幸いです。


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