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第152話 完全勝利 


怪物晩餐モンスターフィスティバル】は、パワーバランスを完全無視した、超絶チートスキルだった。

 公園は、レベル66の魔物へ創り変えられ、己の腹の中にいる愚か者共を喰らい始める。

 今や、残った敵は赤装束が十数名に、セトとメディアのみ。


『創造主様、レベル72と75の羽虫二匹が五百メートル内まで侵入したよ』


 服を着た小便小僧の像が、器用にも跪き、そう進言してくる。


「ご苦労さん。助かった」


 無論、《封神絶界》によるサーチは万全だ。指摘がなくても、セトとメディアが何やら企んでいることは、把握していたわけだが、せっかくやる気を出している部下への労いは重要だろう。


『愚か者! 創造主様はお前ごときに小僧に指摘されんでも、気付いておられるでござる!』


袴姿のゲジ眉、丁髷、自動販売機が、髭を摩りながらも、怒鳴りつける。


『そうよぅ。褒めてもらいたいからって、抜け駆けはいけないわん』


 パッチリした目に、真っ赤な口紅を塗られた唇を持つ公園の案内図板がゲジ眉自動販売機に同意する。


『う、五月蠅いな』

『ほらな、図星であろう?』

『何、勝ち誇ってんのよん。あなたこそ、あの虫二匹の背後に配下の販売機を忍ばせているのはどういうことん?』

『ふん、それはお主も、同じであろう?』

『お、お前ら、抜け駆けしたのか!?』


 おいおい、とうとう、小便小僧と自動販売機が口論始めたぞ。そこに、オカマ公園案内図板まで加わって、混乱の極致だ。てーか、マジで頭おかしくなりそうな光景だよな。これ……。

 しかも――。


「お前らのレベル、84でいいのか?」

『はっ! 僕ら、三者は創造主様が創りし、最強の三体。レベルは皆、84です』


 眩暈がする。こいつ等だけで、下手すりゃ、世界征服も可能なんじゃねぇの?

 レベル84がいるんだ。順当にいけば、レベル七○台もいるよな。まあ、今更かもしれないが。


「今から、奴等をおびき寄せる。お前らは身を隠せ」


 奴等に与えるのはとびっきりの絶望。すんなり、蹂躙しても、一時の恐怖で終わる。奴らに相応しいのはこの世の地獄だけ。元より自重は皆無だ。


『『御意!!!』』』


 小便小僧達が姿を消したのを確認し、【万物創造】――視界誤認を発動する。

 これで、哀れな生贄(ひつじ)共には、俺がボーと馬鹿みたいに公園のど真ん中で突っ立っている風に見えるはず。無論、俺は公園の隅で、精悍しているわけだが。

 もし、【万物創造】による認識誤認の効果を見破るほど、奴等が用心深く、戦士というに相応しいなら、俺の手で、直々に引導を渡してやる。


「「共鳴魔術――【世界の終わりエンド・オブ・ザ・ワールド】」」


 幻影である俺の頭上に生じた、幾多もの漆黒の剣。それらが、超光速で幻影たる俺の脳天に、四肢に、体躯に、高速で落下していく。

 奴等の願望通り、剣は、幻影である(・・・・・)俺の身体に突き刺さり、粉々に砕いていく。第九階梯の魔術だ。禁術だし、何の対策もせずに真面に受ければ、この幻影のように、なっていたことだろう。

 やっぱり、単なる間抜けだったようだ。少なくとも、いきなり奥の手を晒すような馬鹿に、俺が直々に手を下す価値などない。


「きゃはははっ!! ざまあないわねぇ~、餓鬼が粋がるからよぉ~」


 メディアが薄汚い声を上げつつも、幻影のいた地面をさかんに蹴っていた。セトも、メディアの隣に姿を現す。

 幻影か否かの確認もせずに、いきなり全力をブチかまし、挙句の果てに、碌にその生死を確かめもせずに、勝ち誇るか。想像以上に、不快でかつ、醜悪だ。


「あの御姫様の教育は、お姉さんに任せてねぇ。男を楽しませることしか能のない立派な娼婦に育ててあげるからぁ~。ねぇ~、セト?」


 口ぶりから言って、メディアとかいう女、よほどミラノの容姿に対しコンプレックスがあるようだな。俺には、眼鏡にオサゲの地味系女にしか見えんわけだが。加えて、あの気の強さだ。お世辞にも需要があるとは思えん。


「それより吾輩は、実験に使いたいのである。あの大帝の娘、さぞかし、上質な素体であろうし」


 実験ねぇ、ホント、こいつ等の考えることってどこか陳腐なんだよな。三流脚本家の書いたシナリオに出て来るキャラクターが吐きそうな言葉って言えばいいか。マジでヒネリがなく、薄っぺらい。


「ああ、それもいいわねぇ~、昼間はセトの実験動物。夜は男の奴隷。最高じゃない?」

「バーカ、あんな、気の強い女、実験動物としても娼婦としても需要なんてねぇよ」


どうしてだろう。口から出た言葉とは裏腹に、そのあり得ない光景を想像しただけで、どうしょうもなく、俺から自制を奪っていく。確かに、ミラノはカリン達と同様、幼馴染ではある。だが、過去の俺は、気の強いミラノを寧ろ、苦手に感じていたはずなんだが……。


「そんな事ないわよぉ~、あの無駄に整った顔とエロい身体な……ら……?」


 まるでブリキ人形のように首だけを俺に向けてくるセトとメディア。

 ようやく気付いたか。ただのレベルが高い雑魚共。お痛をしてくれたつけは、高くつくぞ。俺の授業料は高いからな。


「あんな男女でも、俺にとっては、幼い頃からの馴染みでな。だからさ、例えお前らの妄想の中だけでも汚されるのは御免被るんだわ」


 セト達の顔から、急速に血の気が引いていく。


「じょ、冗談よぉ~、そんな事するわけ――」


 心底救えない奴。今更俺におべっかつかってどうするよ。俺が、その程度で見逃すお人好しにでも見えるってのか? 攻撃の一つでもすればよいものを……。


「お前、もう喋るな」

「ぐむっ!!?」


 面倒になり、《万物創造》により、奴の口を縫い合わせる。


「むがっ!!」


 俺を見るメディアの瞳には、凄まじい恐怖が色濃く宿っていた。

 俺が一歩踏み出すと、奇声をあげながら、一目散で逃げ出そうとする。よりによって、敵の俺に背を向けるとは、こいつとことんまで愚者だ。


「ぐもっ!!?」

『創造主様に対する数々の不敬、万死に値するで、ござる!』


 当然のごとく、販売機たちに囲まれてしまう。


「レベル……84?」


 ようやく気付いたか。そして、このゲジ眉販売機のレベルは84。今もメディアを取り囲んでいるその配下の販売機はレベル77。

しかも――。

 周囲をサーチで確認すると、森の中では、レベル77の怪物達が広場から愚者共を逃がすまいと油断なく身構えていた。


「もがっ!!」

 

 販売機の巨体の隙間へ向けて地を蹴るメディア。

しかし――。


『愚か者がぁ!!』


 ゲジ眉販売機の口から高速射出された缶により、メディアの下半身が溶かされ、襤褸雑巾のように床を転がる。


「ひぃやっ!!」

『馬鹿だな、逃げられるわけないじゃんか』


 追い詰められた獣のような悲鳴を上げつつも、顔の表情を化石のように青く強ばらせ、逃亡を図るセトに、小便小僧が懐に潜り込み、その顔面に鉄拳を喰らわせる。


「ぐごっ!!」


 ボールのように転がり、セトは広場の対面の端でようやく止まり、うつ伏せになる。


「いひっ!!」


 傍まで移動した小便小僧を恐る恐る見上げ、セトが今度こそ、悲鳴を上げて、立ち上がろうとするが――。


『だ~め、にがさないわん』


 公園の案内がセトの背後から圧し掛かり、抑えつける。


『屑がっ!!』


 小便小僧がセトの頭を踏みつけ、その顔面が地面に陥没する。あと少し、力を入れれば、セトの頭部は真っ赤なザクロのように弾け飛ぶ。それは、セトに救いを与えるに等しく、到底認められない。

  

「やめな」

『『『はっ!』』』


 俺の意思を読み取った小便小僧達は、セトなど目もくれず、一斉に俺に片膝をついてくる。

 

「そいつは俺がやる。一切、奴に手を出すな」

『『『創造主様の御心のままに』』』

「ゆ、ゆ、許して……」


 こいつ、この期に及んで何を言っているんだ? お前らは、ミラノを騙し、人として最も弱いところに付け込んだ。

 俺にも小雪がいるからよくわかる。俺だって、小雪が死に、生き返らせる方法があるなら、それを求めるかもしれない。例え、他者の命を奪うというクソッタレな方法だったとしてもだ。

 幾度となく葛藤しただろうし、悩みもしたことだろう。だが、父に会いたい。その気持ちだけで、ミラノは自らの手を血に染め、突き進んできた。心に決して癒えることのない傷を負いながらも。

 お前らは、自らの手を血に染めることもなく、一番卑劣で、悪辣な方法により、ミラノの破滅という目的を完遂した。

 褒めてやるよ。そして、喜べ。俺以上の(・・・・)悪逆だとお前らを認めてやる。


「最初に言ったはずだ。お前らに、死さえも生ぬるい絶望を与えると」


 お前らを許すことなど端から存在しない。今言うべき言葉は、むしろ、¨楽に殺してください¨だろうに。まっ、懇願されても聞き届けやしないわけだが。


「こ、これ以上、何をする気であるか!?」

「これ以上? おいおい、まだ、始まってすらいねぇだろ?」


 これ以上ってまさか殴られたことか? 馬鹿馬鹿しい。そんなの蚊に刺された程度のことだろう。

いいさ。こいつ等には身をもって自覚してもらおう。

 俺は、《万物創造》――《ヘルズゲイト――悪夢の旅路(ナイトメアジャーニー)》を発動する。

《万物創造》が最適化されたことにより、ある副産物が俺にもたらされている。

 即ち――戦闘に関する様々な知識。これは、《万物創造》を上手く使いこなすためのコントローラーのような機能だ。

 この機能により、《ヘルズゲイト》のにはランクがあることが判明した。

 馬鹿王子(ビルフェズ)に使用した《ヘルズゲイト――コキュートス》は、文字通りの単なる拷問所。考えられる限りの拷問を駆使する場所ではあるが、言い換えれば、その程度に過ぎないし、ランクも最も低い。

 この《ヘルズゲイト――悪夢の旅路(ナイトメアジャーニー)》は世界四大最悪の一つ。

 魂はゲートに永遠に束縛され、その人物が最も嫌い、憎み、恐怖する体験を未来永劫繰返す。

 しかも、一度の悪夢の体験が終了すると、肉体はもちろん、精神の摩耗も完璧に治癒されることから、扉に喰われたら最後、消滅という救いすら存在しない。そんなまさに絶望への扉。

 この扉の発動条件は、かなり厳しいが、幸いな事にこの度、この下種共はその条件をすべて満たしてくれている。


「ひっ!!」


 《ヘルズゲイト》の扉を一目見ただけで、セトは顔を絶望一緒に染め、這いつくばったままで後ずさりを始める。


「ゲート、コネクト――セト、メディア。

 契約内容――二人が、一分以内に己のした罪を心の底から悔いること。ただし、スキル、魔術等による強制的、一時的な懺悔は除く」


 別に慈悲を与えたわけではない。寧ろ逆だ。希望は、絶望への最大のスパイス。要するに、総仕上げって奴だ。


「こ、これは?」


 教えてやるさ。精々、この世界での最後の恐怖を味わうがいい。


「永久の悪夢と絶望への片道列車」

「永久の……悪夢と絶望?」

「ああ、これは俺の最後の慈悲だ。後一分以内で、お前らのやった所業につき、心の底から懺悔しな。そうすれば、お前らは自由だ」

「そ、そんな無理に決まって――」

「無駄口叩いている暇があるのか? あと五○秒だぞ?」

「い、嫌だぁッ!!!」


 セトがよろめきつつも立ち上がり、涙と鼻水で顔をグシャグシャに歪め、最後のあがきを敢行してくる。

 だが、奴の槍は俺に届くには至らず、全てその突きから繰り出される衝撃は異空間に逃げていき、反響した衝撃波だけが、広場内を吹き抜けていく。

 そして、時間は経過し……。


『ピロピロリーン!』


 爽快な音が俺の頭の中に反響する。そろそろ、終幕らしい。


「時間だ」


 漆黒の扉がゆっくりと開いていき、三つ又の槍を持った右腕、右肩が現れる。右腕が持つ三つ又の槍は、メディアの胸部に深々と突き刺ささる。


「むぎっ!!」


断末魔の声を最後に、メディアは扉の中へ引きずり込まれていく。


「うあ……」


 遂に腰を抜かしてしまったセトは、動く両腕で門から離れようとするが、その首に鎖が巻き付き、扉の中に引きずり込まれてしまった。


「終わったか……」


 これで、この『一三事件』、一応の解決を見た。もっとも、俺と小雪を絶望のどん底におとした二年前の『上乃駅前事件』も、今回のカリン襲撃さえも、全て、七大覇王の一柱(ひとり)――『傲慢』の掌の上での出来事だった。

 フィオーレとカリンの心臓が、『傲慢』、完全復活の鍵である以上、二人は依然として狙われているということになる。

 要するに事件は全く終わっちゃいないというわけだ。

 もっとも、やはり、ケジメは必要だろう。

 俺は右拳を握り――。


「俺達の完全勝利だ」


 そう宣言し、怪物達の歓喜を含んだ咆哮が公園中に木霊した。



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