第146話 権能最適化
そこは黒一色の神殿のような部屋。
ここは俺の創り出した心象風景であり、いわば、俺が創り出した心の景色。この場所は今日生まれたのだ。俺はこの場所を訪れたのは初めてのはず。なのに、どういう訳か、俺はここに生々しくも強烈な既視感を覚えていた。
『ようこそ。相良悠真』
部屋の中心には、黒色の布に雁字搦めになった男が座している。
心象世界とは、心を具現化させた世界であり、俺の内心の模写のようなものだ。つまり、この不審人物にしか見えない痛い男は、嘘偽りを取っ払った俺そのものということになる。
マジで、頭痛いことこの上ないが……。
「お前、俺だな?」
『ようやく……』
「あ?」
『あれだけ愛した娘を不幸のどん底に陥るまで放置し、ようやくたどり着いたか』
男の声には僅かな怒りと、そして耐えようのない憂愁があった。
「娘? お前、何言ってやがる?」
『直にわかるさ。自身の間抜けさも、不甲斐なさも、嫌っというほどな』
悪いが、此奴の言っている意味が全く理解できない。
まあいいさ。直にわかるんだろう? ならば、今は先に進むべきだ。
「そうかよ。それでできるのか?」
『できるさ。権能の最適化のための贄は揃っている』
やはりな。初めて覚えた違和感は、《改良》が《万物創造》へと進化した時だ。
この【万物を創造する】との言葉に偽りがないなら、スキルや魔術、現象さえも創造し得るはず。なのに、俺には、《魔術・スキルの理》などという無駄な権能がある。
これは俺の勘だが、この《魔術・スキルの理》、いや、おそらく、《ロード》以外の全ての権能が、元々は《万物創造》という怪物権能から抜け落ちたピースにすぎないのだろう。
つまり、俺は多彩な権能を持つ覇王ではなく、《ロード》と《万物創造》という二つの権能を有する覇王。
唯一の危惧は――。
「他の権能を贄に使った結果、眷属達の権能が失われるのか?」
『お前は、《万物創造》という権能を甘く見ている。【万物の創造】とは文字通り、『万有』の『創生』。その言葉に偽りはない。つまり――』
「眷属用の権能も維持可能ってわけか?」
『その通りだ』
ならば問題は何もないな。
「やってくれ」
『俺に纏わりついているこの布を取れ。されば、お前の望みは叶う』
俺は、男に纏わりついている黒色の布を両手で鷲掴みにしてゆっくりとほどいていく。
ほどける度に、濃密な闇色の霧は濁流のごとく漏れ出し、俺を包み込み、その魂を《万物創造》の主に相応しい姿へと変革していく。
『お前は、俺を認識した。もうじきお前の長い、長い、旅路も終わりを迎える。お前がどんな選択をするのか、ずっと見ているよ』
薄れる意識の中――。
『願わくば。俺にとって悔いのない道を選びとらんことを』
そんな哀愁を含んだ声が聞こえた気がした。




