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第142話 一つの事件の結末


「単刀直入に言うぞ。ビルフェズと志摩菊治は、カリンの殺害を企て、実行に移した」

「貴様ぁ!! 出鱈目を――」


 志摩刹那が鬱陶しそうに右手を挙げると、半蔵さんは、馬鹿王子の背後に跳躍し、テーブルに置かれたフォークを握ると、その首筋に突きつける。


「儂も炉貴(ろき)さんと同じ、何度も繰り返すのはすかん。だから、相良の小倅が話すまで黙っちょれ! おまんの弁解はそのあとでじっくりと聞いちゃるち」


 ビルフェズは、ゴクリと喉を鳴らす。志摩刹那の有無を言わせぬ態度と、菊治の真っ青な顔により、何の比喩もなく逆らえば、痛いどころじゃすまない事態になることを痛感したんだろう。


「貴様ら……こんなことをして国際問題になるぞ?」

「そうなる事を心から、願っちょるよ」


別に、この志摩刹那の台詞は皮肉でも強がりでもあるまい。

志摩菊治は、刹那にとっては、実の息子。俺達の言が全て偽りなら、確かに、志摩刹那は、何らかのペナルティを受ける。

しかし、それでも、菊治の疑いは晴れる。

俺の言が正しければ、菊治は、他国の王族の殺人未遂の幇助。少なくとも数年は臭い飯を食う羽目になる。志摩家の経営陣に返り咲くのはまず不可能だろう。

刹那とすれば、自身が罰を受ける方が何万倍もましな事態なのかもしれない。人の親になったこともない俺には理解できないはずなのに、なぜか、このとき、俺はそう思ったんだ。


「数時間前、東京の『ネズミーランド』で、カリンが襲われた」

「その証拠は?」

「ビルフェズの子飼いの《砂蟲》は、隊長の《(さそり)》を始め、全て捕縛した。《(さそり)》は、ビルフェズに命じられてカリンを襲ったと自供している」


 実際には、俺の前で、ビルフェズについて何でも話すと明言している。嘘は言っていない。


「それだけか?」

「俺達を襲った現場は、『超常現象対策庁』も目にしている。偶然、奴等のエージェントが二人、居合わせたからな。あとで問い合わせてみな」


 なるほどな。『超常現象対策庁』の朱里と銀二がいた理由はこういうわけか。改めて考えれば、俺の知り合いの朱里達がエージェントとして派遣されるなど、あまりに出来過ぎている。秀忠と超常現象対策庁の長官――朝霧将蔵(あさぎりしょうぞう)との間で、密約でもかわされたんだろう。


「補足しますと、《砂蟲》は、先王アドルファス・アシュパルの毒殺にも関わっていたらしいですね」

「やはり、アドルファス陛下の死は他殺だったか……」


 ベリトのショッキングな言葉にも、アナスタシアは、顔を苦渋に染めるだけで、狼狽や驚愕等の感情は微塵も感じられなかった。


「《(さそり)》の特殊スキルにより作り出した毒で、ジワジワと、生命力を奪われていったらしいですな。あの者、その手の姑息な能力にだけは、長けていたようですので」

「関わっていたというと、《(さそり)》の単独犯ではないと?」

「ええ、そこの愚かな王子派の貴族が、平民を脅してその毒を日々の料理に仕込ませたらしいですね。無論、先王が崩御次第、その平民は殺され、全ては闇の中。後程、貴方には、尋問の供述内容の資料を提供しますよ」


 今まで状況についていけず、困惑気味であったアシュパルの重鎮達は、恨みのこもった陰惨な表情で馬鹿王子に射殺すような視線を向け始める。


「ふん、そんなもの全て、供述と状況証拠に基づくものばかりではないか! 大体、《(さそり)》は今朝、解雇している。そうだな?」

「も、もちろんです。今朝方、本国の司法局の方に、《(さそり)》を始めとする《砂蟲》全員の解雇通知は提出され、受理されております」


 馬鹿王子のおつきの若い女性の文官が立ち上がり、即座に反論を口にする。

 そうきたか。用心深い奴だ。《(さそり)》が失敗したときの対策も万全ってわけだ。

 確かに、《(さそり)》は傭兵。馬鹿王子に対する忠誠心など欠片もあるまい。今後、王位に就いた後、奴の素行から足を引っ張られかねない。今回の任務で、奴らに一生使いはたせぬ報酬を与え、お役御免にして、次のシーカーを雇う。そんなところか。

 解雇された後の行為だ。馬鹿王子には、直接の責任はない。裁判になれば、解雇された腹いせに馬鹿王子にその責任をなすりつける供述をしたとでも主張することだろう。


「あんたは、カリンの襲撃を《(さそり)》に命じていないと?」

「当たり前だ。そんな平民との下賤な餓鬼など、私の眼中にすらないわ!」


 部屋の空気が数度下がった気がした。志摩刹那のカリンの溺愛ぶりは、部外者の俺だって知っているくらいだ。志摩家の間では、羞恥の事実。

 それ以上に、辰巳叔父さんとジェシカ叔母さん、完全に目が据わっている。

 このまま、此奴に好き放題、話させておくのは百害あって一利なし。それにこの後、俺は、『一三事件』を真の意味で終わらせなければならない。とっとと、引導を渡してしまおう。


「なら、これでならどうだ?」


 俺が、(まむし)に目で合図をすると、テーブルに楕円形の物体を載せる。

 これは、探索者協議会に事前認証を経た一切の偽造が不可能な音声記録機器。現代では、魔術的・スキル的偽造が多発したために、裁判所への証拠能力を高めるための一つの方法として開発された魔道具の一つ。


『東洋人め! こんな(どぶ)のようなワインを、この私に出すとはどういうつもりだ!』


 真っ白の魔道具から、馬鹿王子の吐き気のするような罵声が聞こえていた。


               ◆

               ◆

               ◆


 誰も何も話さない。部屋中に充満するのは、内臓から震えるほどの激しい怒りのみ。

 その全てが、ビルフェズと志摩菊治へ注がれていた。

 音声の内容は、昨晩の帝都ホテルでのビルフェズ王子と《(さそり)》がした、志摩花梨の襲撃計画の全貌。さらに、馬鹿王子が志摩菊治に命じたカリン暗殺の際の志摩家の攪乱と警察組織への圧力の指示。止めは、本国貴族との国際チャンネルでのカリンの死後の貴族派の取りまとめの指示。


「そ、そんなもの、偽造だっ!」

「その記録機器には、探索者協議会の事前承認の印があります。偽造、変造等は不可能です、ビルフェズ殿下」


 ビルフェズに向けるその志摩時宗の瞳には、人間どころか、羽虫ほどの尊厳の色も含まれてはいなかった。


「時宗、信じてくれ、私は――」

「菊治兄さん。貴方はもう終わりました。見苦しい言い訳はおやめなさい」


 菊治は助けを求めるべく、周囲を見渡すが、その氷の様に凍てついた視線に晒され、フラフラと歩きまわり、頭を押さえて床に蹲ってしまう。

 志摩刹那が、顔に憤激の色を漲らせながら、席から腰を上げるが、辰巳叔父さんに右手で制される。


「辰巳……」


 志摩刹那が奥歯を噛みしめ、椅子に座り、辰巳叔父さんは、菊治に近づいていく。


「辰巳……兄さん……?」

「菊治、なぜ、家族を売った?」


喉の奥から絞り出す辰巳おじさんの問に、ビクッと身体を硬直させるも、菊治は諦めにも似た笑みを浮かべる。


「カリンは、私達の家族じゃない。アシュパル家の者だ。私は、奴等が醜い権力闘争で、争うのをただ、少し後押ししたに過ぎない」

「菊治、それ、本気で言っているのか?」

「ああ、本気だよ! 私にとって、そんな他国の姫君なんかより、志摩家の安寧の方が遥かに大事だ。自社二万人の社員の生活の方が遥かに大切なんだ!」


 そう告げる菊治の瞳には、馬鹿王子とは異質の強烈な光がある。それは、何かを死ぬ物狂いで守ろうともがく者の視線。


「何があった?」

「簡単だよぉー、志摩電子は、二か月前の投資の失敗で、火の車。倒産寸前ってわけ。そこのボンクラ王子、子飼いの貴族に命じて国の資産を横領した金を資金源として、あるファンドを経営している。そのファンドに命じて、志摩電子の莫大な不良債権を買い取らせた。そのせいで、頭が上がらないのさ。まあ、志摩電子の投資の失敗は、そもそも、ボンクラ王子が裏で動いていたからなんだけどさ」


 志摩菊治が蹲り声を上げて子供のように泣き出す。

 それをバックミュージックに、ロキが悪質な笑みを張り付かせながらも、手元の封筒から分厚い資料を取り出し、机に投げ出す。

 辰巳叔父さんがテーブルの上の資料に目を通すと、今度こそ、火のような怒りの色を顔に漲らせ、テーブルの上のペンを掴むと、馬鹿王子まで一直線に歩いていく。

 俺はテーブルを飛び越え、叔父さんの前に立ちはだかる。


「どいてくれ、悠真君!」


目は血走り、口調もいつもの温和な叔父さんとは思えぬ様相を呈している。

気持ちはわかるさ。俺も腸が煮えくり返っているからな。

でも、叔父さんは、表の人間だ。『一三事件』に始まり、『覇王同士のデスゲーム』、俺は世界の裏側を見過ぎた。もう、二度と今まで通りの生活は送れない。失ったからからこそわかることもある。

そうさ。何気ないが愛しい安穏な生活を送るためには、決して踏み超えてはいけない一線があるんだ。


「おざなりな言葉だけどさ。こんな奴に叔父さんが手を汚す必要はないよ。それに、此奴はとうに破滅している」

「小僧がっ! 私は、まだ終わっては――」


 ビルフェズの胸倉を左手で掴むと持ち上げる。


「いいかよく聞け」

「げ、下郎がっ! 離せ!!」


『下郎』の言葉に青筋を立てて、席を立ちあがるベリトを右手で制し、ジタバタ喚く(ビルフェズ)を見上げながらも、俺は静かに語りかける。


「これから、お前の祖国とこの国の警察にお前が今までして来たことを包み隠さず、全て自白しろ」

「ふ、ふざけるなっ!! 何を血迷った――ひっ!!?」


 俺を見下ろすビルフェズの顔が激烈な恐怖に歪み、口から小さな悲鳴が漏れる。


「勘違いするなよ。これは要求ではなく、命令だ」


 俺は右手の掌を部屋の片隅に向けて意識を集中する。

権能――【万物創造】は、いわば想像力の権能。俺のイメージが正確で強固なほど、その効果は跳ね上がる。

イメージするのは――扉。それは、悪夢と破滅への片道列車。運賃は俺の魔力と対象者の魂。

ゴソッと身体中の魔力が削られるのがわかる。

 同時に部屋の隅には、黒光りする禍々しい扉が出現していた。その天井に届かんばかりの大きな扉は、人骨で形成され、絶えず赤黒色のオーラをまるで炎天下のアスファルトに漂う陽炎のように纏っていた。


「ヘ、ヘルズゲイト……」


 言葉を絞りだすベリトの全身からは滝のような汗が流れだし、その瞳の中には、普段飄々としている奴らしからぬ感情が色濃く灯っていた。


「ゲート、コネクト、ビルフェズ・アシュパル。

 誓約内容――ビルフェズ・アシュパルが、この三年の己の罪を全て公の場で独白すること。期限は三日」


 俺の言葉に応じるかのように、ビルフェズの身体に黒赤色のオーラが纏わりつくと消えてなくなる。


「こ、小僧、何を……した?」


 血の気の引いた顔で、ビルフェズは俺に尋ねて来る。

 突如、おどろおどろしい扉が出現したと思うと、自身の身体を赤黒色に染めたのだ。奴の立場からすれば、さぞ恐ろしいことだろう。


「誓約」


 これ以上、答える義理はない。これは脅しではなく、単なる結果の告示に過ぎないから。ビルフェズに人としての最後の道を残しただけだ。

 だが、ここで、意外な人物から助け舟が入る。


「ヘルズゲイト――神格を獲得した超常者すらも恐怖する拷問所への片道切符。

 誓約破りし愚か者を破滅へ誘う最悪の扉。宗教的には、『地獄門』とでも言えばいいかな」


 『地獄門』ね。確かに扉を創るとき、似たような効果をイメージしたわけだが。

 ちなみに、あの秀忠さえも悲鳴を上げる。そんな場所をイメージしてみた。


「た、たわけたことを……」


 生物的な本能って奴だろう。その否定の言葉と反比例するかのように、ビルフェズの歯は、小刻みにカチカチと打ち鳴らされる。


「嘘だと思うなら好きにすればいいさ。その扉は大きさや姿を変え、三日間、君をストーキングする。

期限は三日しかない。君が誓約を果たさなければその扉は、君をコキュートスへ招待するだけだから」


「う、嘘だよな? 私を罠に嵌めようとしているんだろ!?」

「言ったろ。それを判断するのは君さ。僕の意思を確認する必要はない。でも、老婆心ながら、一応忠告だけはしておこう。

コキュートスは、苦痛、恐怖、絶望、あらゆる悪夢が詰まったパンドラの箱。君のような人間が耐えられるとは到底思えない。

この三日間、必死で今まで犯した罪を探したほうがいい。じゃないと、君は、死さえ許されぬ永劫の苦しみを味わうことになる」


ロキの奴どういうつもりだろう。短い付き合いだが、ロキは救いようのない人間に同情するほど清廉潔白な奴では断じてない。むしろ、ハーメルンの笛吹男のごとく、笑顔で悪夢の旅路に扇動するような奴だ。


「らしくなく、優しいじゃないか、ロキ」

「まあね、僕は陛下と違って、癒し系だからね」

「お前、癒し系の言葉の意味、知ってんのか?」

 

 ロキは癒し系というより、『濁り系』だと思うんだが。


「もちろん♫」


 ロキは、爽やかな笑顔で、親指を突き出してくる。意味不明だ。


「ほ、本当……なのか?」


 真っ青を通り越して、土気色の顔で、ビルフェズは立ち上がる。

 

「だから、さっきからそう言ってるだろ?」

「う……うああぁぁぁぁっ!!!」


 泣き叫びながらも、転がるように、部屋を飛び出していくビルフェズと煙のように消失する漆黒の扉。


「ビ、ビルフェズ様!」


 御付きの女秘書もビルフェズの後を追い、部屋を出ていく。


「……」


 騒々しい部屋は途端に静寂に包まれる。アナスタシア派や志摩家はもちろん、真八や八神達さえも、顔中に不安が汚点のようにくっついていた。

 どうでもいいが、少々、やりすぎたか。

流石の俺も、あんな素人の雑魚相手にあんな兇悪扉を何の制限もなしに創るはずもない。一応、完全回復の状態で、一日程度で帰還できるようにセットしていた。まあ、再度、三日間内に罪を暴露しなければ、一日、扉の中への旅行を余儀なくされるわけなんだけど。それを数回繰り返せば、奴がどんなに頑固でも心が折れると思っていたが、あの様子だと、杞憂だったみたいだ。


「悠真君、君は……」

「辰巳叔父さん、刹那爺ちゃん。奴は事実上破滅した。これで収めてくれ」


 志摩刹那は、暫し目を閉じ、腕を組んで瞑想していたが、自身の両膝を叩く。


「アシュパル家とは今後、一切の関わりを切る。それで、終わりちや。おんしらもいいねゃ?」


 志摩家の重鎮達も、戸惑いながらも大きく頷く。

 辰巳おじさんも、己の両頬を両手の掌でパンッと叩くと志摩菊治に近づき、その両肩を掴む。


「菊治、つらいときに、気付いてやれなくて、済まなかったな」

「兄ざん……」

「私達兄弟はまた一からやり直しだ。罪を償ったら、また一緒に食事でもしよう」


 熱い涙を流す菊治の背中を辰巳おじさんは、静かに撫でていた。時宗が肩をすくめると大きな溜息を吐く。

ビルフェズのみっともない痴態を目にしたせいで、溜飲が下がったせいだろうか。つい先ほどまで、あれほど怒り狂っていた志摩家の重鎮達も毒気を抜かれたように平常に戻っていた。


「遅くても数日以内に、ビルフェズは己の罪を公の場で全て暴露する。そう、必死になってな」


 仮に、奴が現実逃避をして三日後に扉に食われれば、その一日後には、死ぬ気で罪探しに勤しむようになる。


「アシュパルは、混乱するな……」


 苦渋の表情で、アナスタシアはひとりごちる。


「だろうな。その混乱を収めるのは素人のカリンには不可能だ。というか、あんなボンクラ王子ごときを止められなかったあんた等の責任をカリンに押し付けるな」

「私に王位につけと?」

「それが妥当だろうさ」


 アシュパルの幹部らしきご老人達も、一斉に姿勢を正すと、右手を胸に当てる。アナスタシアの即位に賛同の意だろう。

 

「私としては、カリンが王位について、ユウマ殿、君に補佐して貰いたいんだがな」

「はあ?」


 何言っちゃてんだ。こいつ?


「それはいいですな。ユウマ殿なら、我が国の阿呆な貴族共などものともせんでしょうし」

「それに、カリン王女殿下も好いておられるとの報告がありますぞ」

「いや、あの馬鹿王子のせいで、志摩家にはこの度、多大な迷惑をかけてしまった。今更、カリン姫殿下を返してくださいなど言えるものか」


 つうか、勝手に話を進めるな。アナスタシアの奴、余計なことを言いやがって。

 視線を向けると、右手の扇子を口元に当てて、口端を優雅に上げる。どうやら、揶揄われているようだ。

 もっとも、アシュパルの幹部達の表情は全て真剣そのもので、既に冗談で済まされる雰囲気ではないのだが。


「別に、ユウマ殿と婚姻を結ぶのは、アナスタシア王女殿下でもよいのでは?」


 宰相と思しき白髪の老人が、長く伸びた顎鬚に触れつつも、そんな阿呆な事を言い出しやがった。


「んなっ!?」


自ら墓穴を掘ったアナスタシアの驚愕の声。


「確かに、アナスタシア様が、王位につかれれば、王配候補を選ばねばならない。

 高位貴族は、ほとんどがビルフェズ派で信用性に著しくかける。かといって、他国に求めるのもなぁ……」

「うむ。ユウマ殿なら、カリン姫殿下とも関わりがあるし、適任であろう」

「ちょ、お前達っ!」


 アナスタシアは、全身を林檎のように真っ赤に染めながらも、必死で否定しようとするが、無常にも彼女の意思は悉く無視され、大臣達は勝手気ままに話を進めていく。

 遂には、俺とアナスタシアに子供ができたときの帰属先まで話が脱線し、辰巳おじさんまでが、クリス姉との婚約の件で参戦した時点で、俺は奴らの非現実な妄想を頭から完全シャットアウトした。

 アナスタシアはみっともなく狼狽えていたが、自業自得であり、助ける気も起きない。


「兄者、そろそろいいか?」


 話に混ざりもせず、終始両腕を組んでいたウォルトが初めて口を開く。

 ウォルトがこの場にいる理由はやはり、単なる数合わせではなく、『一三事件』の後始末の件だろう。

 未だかつてないほどのこのピリピリ具合。『一三事件』のアジトでウォルトにとって重要な事実を見つけたか。

 ともあれ、ウォルトの言う通り、『一三事件』は終わりにしなければならない。

 だから――俺は立ち上がり、()の前まで歩いていく。


 



お読みいただきありがとうございます。

どんどん悠真の権能が兇悪になってきます。ご期待いただければ幸いです。

それでは!

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