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第130話 決戦命令 ヒエロファント

――ヒエロファント――


悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の工房。

ヒエロファントは、映像系の魔道具により、映しだされた複数個所の映像を眺めながらも、改めて、ボスの影響力の凄まじさを実感していた。

この度の戦争のために、我が組織に、新たに加わった勢力は二つ。

一つが、地球でも、レベル10を超えるトップクラスのA級以上の犯罪者(クリミナル)共が、約三〇〇人。

 二つ目が、地球に散らばった同胞達。中には、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の古参の幹部達を優に超える最上級悪魔達も混ざっていた。それらが、二〇(にん)

 この戦力に、我ら悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)を合わせれば、仮に、この国の『超常現象対策庁』までもが出張ってきても十二分に駆逐し得る。

 既に、ハーミットにより、敵の詳細な情報も入ってきている。

内閣特殊魔技研究室――《トライデント》。

警察庁長官官房長――東条秀忠(とうじょうひでただ)長官官房と四童子真八(しどうじしんぱち)統合幕僚長が仕切る組織。

そして、あの黒髪の男――《相良悠真(さがらゆうま)》は、その組織の実働部隊の長のようだ。確かに奴の強さは未知数。

しかし、ハーミットの調査では、ラヴァーズが突如獣化し、レベル20前後まで上昇したらしい。黒髪の男は、その変貌したラヴァーズと互角にすぎなかったのだ。とすれば、ヒエロファント達、古参の幹部が出ていけば、簡単に屠れる。

組織の最高戦力がその程度だ。甘ちゃん国家の《トライデント》など、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の敵ではない。これだけの戦力なら、さほど労力もかからず、殲滅できることだろう。

かといって、この《謝肉祭》は、ボスの名をもって開かれるのだ。手を抜くことだけは許されない。故に、ヒエロファントは部隊を三つに分けた。

第一隊、相良悠真の妹、相良小雪(さがらこゆき)の捕縛部隊。人間は情に脆い。相良小雪を人質にとれば、もう奴は動けまい。

この部隊は、新たに加わった上級悪魔二〇(にん)と、A級以上の犯罪者(クリミナル)二〇〇以上。さらに、万が一に備え、トレンクスを部隊長にあたらせている。駆逐するのに、一刻とかからないだろう。

 第二隊が、陽動部隊。東京都内で暴れまわり、《トライデント》や《超常現象対策庁》の意識を逸らす部隊。

 A級以上の犯罪者(クリミナル)一〇〇人と、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)所属の悪魔四〇(にん)につき、ハーミットが部隊長として指揮を執る。

 第三隊が、フィオーレ・メストと志摩花梨の心臓を奪取する作戦の要。

ここはボスが単独で行うことになった。当初、最も重要で危険な任務は、ヒエロファントが遂行するつもりだったのだが、ボスの命より、ボスがこの任務を単独遂行することになる。ヒエロファントは、工房の防衛と、全体の指揮を任されることになった。

確かに、ボスは悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)最強。犯罪者(クリミナル)共はもちろん、上級悪魔でさえも、足手纏いにすぎない。敵も二人の警護には、組織最強の存在を付けてくるだろうし、ボスが処理するのが最も確実だ。反対の声など出ようはずもなかった。  


「あ~、やってるねぇー」


 気の抜けた声を上げ、目を覆い隠すほど長いボサボサの髪の男が姿を見せる。


「ハングドマン、貴様、なぜここにいる?」


この不審者にしか見えない男は、自らを扇屋小弥太(おおぎやこやた)と名乗る警察官。

悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の幹部の決定法は、ボスに一定の強さを示すこと。通常、シンプルな方法が好まれ、既存のメンバーとの殺し合いが選択される。数年前、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の当時の幹部の一柱(ひとり)を殺し、ボスから、《ハングドマン》の称号を賜ったのが、この男である。


「だって、僕、もう間者だってバレてるしぃ」

「そうか……」


 遅かれ早かれ、見抜かれるのはわかっていた。しかし、いささか想定より早すぎる。少なくともこの度の戦争は乗り切れると踏んでいたのだが。


「まいったよ。今日、出勤したら、僕の席ないんだもん。何でも、新しくできた部署の課長だってさ。¨栄転、おめでとう!¨なんて、祝福の言葉もらちゃったよ」

「バレた、理由は?」


 今後もある。知っておくに越したことはない。


「さあ、でも、《東京ステーション》の事件後には、周りの雰囲気がどこかおかしかったし、バレたんじゃん?」


 考えられるのは、ラヴァーズが口を滑らせたか。あのとき、一時的にラヴァーズ本体との魂とのリンクが切れて、ヒエロファントの捕縛している魂の存在が希薄になり、滅んだと勘違いしてしまったことが悔やまれる。もっと、早く始末していれば……。


(意味はないな……)


まあ、この鉄壁の布陣だ。どの道、この戦争で、この国は終わる。過ぎた時は戻らない。悔やむだけ無駄というものか。


「ハングドマン、お前は、トレンクスの支援に向かえ。場所は――」

「あー、ハーミットに聞いて、知ってるから不要だよ」


 ハングドマンは、扉へ踵を返す。


「じゃあね、バイバイ」


 右手をヒラヒラさせると、部屋を退出してしまう。

 信用は微塵も置けないが、奴の人間への憎悪だけは本物だ。その点で、この計画を邪魔することなどあり得まい。

それに奴の魂の欠片は、ヒエロファントが握っていることは、奴も十分存知している。このタイミングでの裏切りは考慮する必要はないだろう。


「諸君、時間だ。

第一隊、第二隊共に、攻撃を開始、第三隊はボスの指示に従え!

ボスの命だ。私が許す。殺し尽くせ! 壊し尽くせ! 奪いつくせ! 人間共に、恐怖と絶望と救いのない死を! 

開戦だっ!!!」


 伝達系の魔道具により、一斉送信し、戦争の端緒はここに開かれる。



お読みいただきありがとうございます。

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