第128話 誓い
再度、子狐の姿になったキュウと、自室へ戻る。能力の確認をしておきたかったんだ。
俺のレベルは50。第二試練の効果により、レベル3だけ上昇した。試練によるレベルの上昇には、《次のレベルに至る条件》は必要ないのか、それとも、試練のボスであったあのロリっ子が覇王であり、条件を満たしたのか。いずれにせよ、素でもレベル50の壁を超えたのは大きい。
それでは、具体的に見ていこう。
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『遊戯の真理』
〇権能:
■小進化(Lⅴ8)
■ロード(Lⅴ3)
■神眼鑑定(Lⅴ10)
■アイテムボックス(Lⅴ10)
■休息(Lⅴ10)
■万物創造(Lⅴ6)
■魔物改良(Lⅴ7)
■覇王編成(Lⅴ7)
■転移(――)
■魔術・スキルの理(Lⅴ4)
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まず、ロードはレベル3のままで変化はなかった。レベル50まで上昇したのに、ロードがまだレベル3なのは、今までにはなかったこと。レベル4に至る条件のようなものがあるんだろう。そう考えるのが吉だ。
小進化がレベル6から8になったが、やはり、文言に変わりはなかったが、これは、いつものことなので、一応レベルの上昇率は上がっているのだと思われる。
覇王編成が、レベル5から7へと上昇した。結果、第一眷属が四段階称号上昇、第二眷属が三段階称号上昇へと変化した。
さらに、【念話】の機能が追加されていた。
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『念話』
〇説明:覇王と眷属間、眷属と眷属間で、自在に話し会うことが可能となる。
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要するに、他者に盗み聞きされる危険性のない電話のような機能だろうか。
次が、進化した、《万物創造》だ。
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『万物創造(Lⅴ6)』
〇説明:万物を創造することができる。
■超越創造:万物を超越級までに限り、創造することができる。
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なんとも、いかれた権能だ。こればっかりは、俺じゃないと使えないようだ。落ち着いたら、この権能の精査が必要となろう。
ともあれ、第一眷属は、引き続き、《改良》を使用できるようだし、業務に支障はきたさない。
次が、魔術・スキルの理だ。レベルが1から4へと上昇している。
次の項目が増えていた。
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『魔術・スキルの理(Lⅴ4)』
〇魔術・スキルの合成:複数の魔術・スキルを合成し、新たなスキル・魔術を創ることができる。ただし、第八階梯までによる。
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第八階梯までの好きな魔術やスキルを作り出せるようになった。第八階梯は禁術・禁技。とんでもない能力だ。
まあ、神話級の武具で、第八階梯の能力を自在に使えたりする効果があったりして、若干、今更な感じもしないでもない。
ここまでが権能について。
最後が【エア】だ。
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■常時機能:
〇特殊弾複数制御:特殊弾に最大二種類の能力を籠めることが可能。
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地味に使える能力だ。
つまり、例えば、今後殲滅弾と時限弾の機能を籠めることができるようになった。魔力の消費率が半端じゃないだろうが、あの無敵モードなら、事実上、魔力の枯渇を考える必要ない。ボス戦では、必須となろう。
確認は、こんなところか。
最後は、試みたい事だ。第二試練へ転移し、《終末の木》、《グリムラドン》、《メガクラーケン》を解放する。
この三体が合わさった魔物なら、殊の外、刺激性溢れるものとなるはずだ。
《鳩魔王》の時と同様、『魔物融合』をすると、吸い寄せられ、黒と赤の斑の球体となってしまう。
次第に、球体は、人型を形成してく。
血のように赤い服に、形のよい髭を生やした長身の青年は、俺を視界に入れて、暫し目を大きく見開き硬直していたが、直ぐに、恭しくも跪く。
「偉大なる主よ。我は、『魔王ベリト』、この度、御身の力で、受肉いたしました。我、古の契約に基づき、この血と魂に誓い、永劫の忠誠を誓いまする」
「そ、そうか。あんがとよ」
まさか、魔物を生み出した結果、人型になるとは夢にも思わなかった。というより、受肉とかなんとか宣っていたが、まさかな。
ともあれ、此奴も――
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『魔王ベリト』
〇説明:七十二の魔王種第八席であり、覇種の称号を有する拷問や虐殺を司る八大魔王の一柱。
屈服させた相手を強制的に、自己の眷属にし、進化させる力を持つ。
ベリトの軍に編成されたものは、夜に限り、治癒能力や身体能力が著しく向上する。
〇Lⅴ:50
〇種族:七十二魔王種
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やっぱ魔王か。鳩魔王もそうだったが、『魔王』というだけあって、軍団を形成するらしいな。俺には、人手はいくらあっても足りるものではないし、かなり使える奴だ。
「お前には、この屋敷にいる相良小雪の護衛をしてもらいたい」
「御意。御身のみ心のままに」
ベリトは畏まって一礼すると、その姿を消失する。
ベリトと鳩魔王がいるんだ。かなりの戦力だと思いたい。
さて、そろそろ時間だ。四階の会議室へ向かう。
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会議室には、地球組とアースガルドの幹部が全員集合していた。
セレーネがいないのは、聞かれたくはない事があるからだろう。というか、俺がセレーネに事の委細を伝えるなと言ったことを律儀に守っているだけかもしれんが。
ともあれ、セレーネには今回の事件につき、口を突っ込む意義に欠ける。というか、いられても足手纏いもいいところだ。セレーネは、アースガルドの俺達のギルドの盟主として、十二分に責任を果たしてもらえれば、それでいい。
秀忠の説明が開始されるが、その内容は、次の二点。
一つは、やはり、《炎の獅子》の処遇について。
《炎の獅子》は、この度のギルドゲームにより、跡形もなく解体された。
まず、《炎の獅子》のギルドハウス。このピノアで、学校の校舎二つ分ほどの土地を有していたが、それらが全て俺らの手に入ることになる。
さらに、凡そ、自己の眷属を馬車馬のように働かせた結果、三〇億ルピほどため込んでいた。それらの半分の一五億ルピをギルドメンバーの退職金として支給することになった。
もっとも、《炎の獅子》の三分の二が、俺達のギルドへの参加を望んでおり、退職金の受け取りを拒否しているという事情がある。
ウォルト曰く、希望した全員が、人間性には問題ない者ばかりと言っていたし、俺達も拒む理由はない。秀忠と真八の面接を受け次第、ウォルトの第二眷属として我らがギルドに加わることになった。
既に《炎の獅子》の幹部連のほぼ全員が、第二眷属として、修行に勤しんでいるらしい。
最後が、ネメアの処遇だが、どうやって収集したのか不明だが、ロキと秀忠から冒険者組合と四界の上層部にある資料が提出された。この資料には、ネメアの悪行の数々が証拠物と共に赤裸々に記載されており、奴はここに完璧に破滅した。
超常者の長い寿命が尽きるまで、四界に設置された檻の中でひっそりと生活する運びとなる。
《炎の獅子》と《三日月の夜》のギルドゲームはここに俺達の完全勝利で幕が下りることになったわけだ。
第二が、本日のメインディッシュ、『一三事件』の掃討。
大きく部隊を三班に分ける。
第一班――この新工房――ギルドハウスを防衛するメンバー。秀忠の予測ではそろそろ、この場所は特定される。拠点がそう簡単に落とされては、組織としても問題だし、ここには俺のアキレス腱である小雪がいる。故に、この場所に戦力のほとんどを割くことになる。
第二班――敵のアジト襲撃メンバー。これはウォルトを中心とする《炎の獅子》の面子で行う。ウォルトは、覇王級。相手にすらなるまいが、安全を期してそうなった。
問題は、奴らのアジトがまだ見つかっていないことだが、秀忠が午後には、特定できると言い切っていた。あの断言の仕方からいって、何か根拠があるだろう。
第三班――都市の警備及び、敵の確保。八神や堂島達、《トライデント》に任せるべきだろう。三班には、レベル40以上がいない。そこで、イレギュラーの対応のため、この班には、キュウが同行することになった。
第四班――敵主戦力及びアシュパルからの刺客を撃破する班。奴らは、フィオーレとカリンを狙っていた。だから、本日は、カリンと俺のバイトを午前中で早く切り上げて、フィオーレ、クリス姉、明美を入れて、遊びに行くことになった。
俺が敵なら、第四班に、最も強力な戦力を投入する。故に、ギルド最高戦力の俺が敵の撃破にあたることにする。どうやら、これに関しては秀忠が策を張り巡らせているようだし、俺も他人に任せるつもりはなかった。
唯一異論があるとすれば――。
「ギルドハウスには、小雪がいる。小雪が捕縛されれば、俺は手が出せなくなる。ウォルトが護衛すべきじゃねぇのか?」
確かに、この屋敷には、魔王ベリトと鳩魔王がいる。だが、奴らもウォルトクラスの奴等に襲われれば、多分瞬殺だろう。
無論、覇王クラスの襲撃があった際には、ベリト達以上に八雲や円香は、戦力には数えられない。
魔王ベリトと鳩魔王のことにつき、俺は、殊更皆に伝えていない。つまり、皆の認識では、俺のこの意見は、暗に八雲や円香には、ギルドハウスを守り切る力がないと言っているに等しい。
てっきり、否定的なリアクションをされるかと思ったが、二人はすまなそうな顔をするだけだった。
「ご心配には及びませんよ。未熟者に小雪様の護衛を任せるほど私は、自信過剰ではありません。策はあります」
「いや、そういう意味じゃねぇよ。ただ――」
「マスター、お気遣いありがとうございます。
しかし、この数日で、我らは嫌っというほど己の無力さを痛感しました。今後、練磨していつか、ウォルト殿のような絶対的な力を得て、必ずやマスターの片腕になって見せます!」
「八雲さん、あんたらまで、それ止めろって」
俺の切実な願いはあっさり無視され、場は異様な熱気に包まれる。
「それでは、マスターご挨拶を」
秀忠が、右手を胸に当てながらも、恭しくも一礼する。
挨拶ね。そんな柄ではないが、俺にも伝えたいことくらいある。
「ここにいるのは、立場も、年齢も、人種も、住む世界すら違う奴らばかりだ。
俺は、ここに来るまで、何度も挫折し、絶望しかけた。その度に、立ち上がれたのは、お前らがいたおかげだ」
一週目も、二週目も、残酷な運命の袋小路にはまってしまったようで、ただ俺は不安だった。
三週目は、ウォルトに助けられ、そして、八神や堂島という仲間ができた。俺に力を貸してくれる。その事実にどれほど俺が励まされたか。そのとき、確信したんだ。俺は、どう強がっても、一人じゃ何もできないただの餓鬼だって。
――だから。
「――宣言しよう。
俺は、弱く、一人じゃなにもできないちっぽけな人間だ。だから、こうして、お前らという仲間を求めた」
それこそが俺のこの数日間にわたる死の繰り返しの末に掴み取った真実。
「――約束しよう。
俺は、お前らを裏切らねぇ。この血肉の一滴となるまで、お前らに注いでやる。
だから、頼む。俺に力を貸してくれ」
俺は、頭を深く下げた。
静寂が流れ、誰一人として、一言も口を開かない。
流石に不安になってきたとき、パチパチと手が合わせられる。その拍手は次第に大きくなり、忽ち、部屋中を見たし始める。
打ち鳴らされる手の合唱の中、ゆっくりと顔を上げると、皆、顔中にこぼれるような笑顔を向けてくれた。
「今更、何言ってんだよ」
ウォルトが俺の背中をバンバンと叩いてくる。
「そうだね。僕も、相良君にあって、新たな世界を垣間見れたし、むしろ感謝しているよ」
「私もです」
徳之助の言葉に、堂島がすかさず同意する。
「まあ、常識がなくなるのが玉に瑕だな」
多門のおっさんの言葉に、皆一斉に笑い出す。
「マスター」
秀忠が、目で合図してくる。
わかってるさ。これは、組織の長としての義務。
「《三日月の夜》ギルドマスター、相良悠真の名を持って命じる。
俺達の敵をぶっ潰せ――」
瞬間、ギルドハウス中を咆哮が弾け、俺達の『一三事件撲滅作戦』は、このとき、開始された。
お読みいただきありがとうございます。




