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第127話 幼馴染のカミングアウト

 それで、このケモミミ幼女は何なんだ?

 寝ぼけた頭を左右に振り、俺にしがみ付き、微かな寝息を立てている物体に視線を向ける。

 ゆったり目の白色のワンピースから覗く雪のように白い肌に、サラサラの黄金の髪から、チョコンと、小麦色のケモミミが突き出ている。

 顔を押し付けて寝ている姿に、この臀部から伸びる九本のモフモフには、既視感があるんだが、まさかな……

 頬をつついたり、引っ張ったりしていると、ようやく瞼を開けるが、くわーと大口を開けて欠伸をするっと、再度、俺の胸に顔を押し付けて眠りに入る。

 間違いない、キュウだ。まさか、子狐からケモミミ娘にクラスチェンジするとは思ってもいなかったが……

 一番の問題は、これでまた、俺の不名誉な虫唾が走る疑惑に拍車(はくしゃ)がかかるというとこだ。

 抱き上げると、近くの椅子に座らせ話を聞く。


「お前、キュウだな?」

「……」


 まだ眠そうにコクンと頷くと、亡霊のように立ち上がり、再度俺にしがみ付いて寝息を立て始めた。

 獣に甘やかしは厳禁だ。

 もう一度、椅子に座らせ、しゃがみ込み、目線を合わせる。


「キュウ、お前、話せるか?」

「あい」

「自分の名前を言ってみろ?」

「¨キュウ¨デシ」


 よし、話ができるなら手っ取り早い。


「お前、元の姿に戻れるな?」

「これが元の姿デシ」


 考えられるのは、第二試練の攻略により、キュウが進化して、子狐の姿から、幼女の姿へと変わった。こんなところか。

 だとすると面倒だな。此奴、俺の後を付いて回るんだろうし、この状況で、幼女を連れて歩くなど、どんな羞恥プレーだ。


「元の子狐の姿に戻れるか?」

「あい」


 右手を上げると、ポンッと煙がでて、子狐の姿が現れる。

 便利な奴。これなら、問題ないな。俺としては、獣版のキュウの方がモフれるし、断然ポイントが高いんだが。


「当面、このままでいな」

「キュウ!」


 チョコンとお座りをしつつ、右手を挙げると、俺の頭の上に乗り、器用にも寝始めた。

 寝坊助な奴。


 ともあれ、猛烈に腹が減った。確か、三階が食堂だったはずだ。その前に、これは流石にまずいな。

 本日は、衣服がビリビリに破けて腰ミノ同然になっているといったお決まりのハプニングはないが、その代わり、血と埃が濃厚に纏わりついてしまっている。

風呂に入りたい。確か、一階に大浴場があったはず。


「キュウ、俺は風呂に入ってくる。それまで一人で寝ていろ?」

「……」

 

 そっと、ベッドの上にキュウを載せると、尻尾をパタパタ叩く。『了解』ということだろう。


 

大浴場で湯船につかり、外へ出たとき、今最も会うのに抵抗ある奴とばったり出くわした。


「ユウちゃん!」


 俺を視界に入れた途端、弾かれたように、俺を抱き付いてくる。

 身体を小刻みに震わせる姿から察するに、泣いているんだろうか?


「クリス姉……」


 背中をトントンと叩いて落ち着けようとするが――。


「ユウちゃんの――」


 クリス姉は、俺から一歩、後退すると――。


「バカッ!! 」


俺の頬をひっぱたく。


「クリス姉?」


 懐かしい感覚に目をひん剥いて頬を摩っていると、クリス姉は俺の顔を見上げるようにのぞき込んでくる。


「この二年間、私がどんな気持ちだったかわかってる? あんな手紙だけ残して、会うなって言われて……私がどんなに――」


目じりに大粒の涙を溜めながら、細い腰に両手を当てて、俺を睨むその赤鬼のような姿は、俺に強烈なノスタルジックな気持ちを呼び起こした。

大方、面と向かって二人で会った事により、今までの溜まるに溜まった不満や、不安やらが爆発した。そんなところか。

随分無理をさせてしまった。俺は、クリス姉をそっと抱きしめた。


「すまん」


 堰を切ったように泣き出すクリス姉を俺は、ただ、抱きしめ続けた。

 


 クリス姉に、朝食を一緒に食べる約束を無理やりさせられ、部屋に戻ると、起きたキュウが俺の肩にピョンと乗って来る。

 俺の言いつけ通り、子狐バージョンのままだ。素直で助かる。モフモフの獣毛と尻尾に癒されつつも、俺は、食堂へ行く。


 食堂には、クリス姉、フィオーレ・メスト、明美、セシル、アイラの女性陣がいた。

 セシルとアイラの疲れ切った顔からも、また、クリス姉の悪い癖が出たのだろう。

 クリス姉は、俺を見ると、満面に喜色を湛えて両手を振る。

 セシルとアイラも、俺の存在にほっとしたように胸をなでおろしていた。

 

「あー、子狐ちゃん!!」


 俺の傍まで来ると、俺の肩のキュウを奪い取ると、その胸に抱きしめる。

 クリス姉にフィオーレ・メストも加わり、黄色い声を上げ始める。


「ウー、キュウ?」


 必死で助けを求めるつぶらな瞳に、思わず、保護欲を刺激されるも、目を逸らす。

セシルとアイラも、気の毒そうにも、視線を落としていることからも、昨晩は、二人に、散々、揉みくちゃにされたんだろう。

 こうなったら、クリス姉は止まらない。別に取って食われるわけじゃないんだし、暫くの間、生贄になってもらう。

 キュウはもがいていたが、ポンッと煙が生じ、ケモミミ娘が現れる。


「離すデシ!」


 キュウとしては、逃れようとしてからの精一杯の抵抗だったのだろうが、逆効果も甚だしい。クリス姉とフィオーレ達に、火に油を注ぐ結果となった。


「か、可愛すぎるっ!!」「きゃー、可愛い!!」

「ご、ご主人様(しゅじんさま)、助けてデシ!」


 強く抱きしめられた上、頬擦りされ、物を言う縫い包みと化したキュウは、俺に涙目で訴えてきた。流石に不憫すぎるな。止めさせよう。

 口を開こうとしたとき、明美の鉄拳がクリス姉とフィオーレの頭頂部に落ちた。


「いい加減しろ!」

「「はーい」」


 涙目で、席に就くクリス姉達二人。

 なんとも、不思議な光景だが、一応、バランスが取れてんだろう。多分……。


「キュウ、お前も子狐に戻ってな」

「あい」


 ポンと子狐形態になると、俺の膝の上に逃げ込むキュウ。


「たっく、そのいかれた現象みても、大して驚かなくなっている自分が怖いよ」

「同感だな」


 とうより、とっくに、俺は感性が麻痺しているわけだが。


「同感って、お前な……」

「それよりもだ。今日はやることが死ぬほどある。食べながら話そう」


 食堂で、豚カツ定食を頼み、席に着く。

 ちなみに、特別に今はキュウも人型で座らせている。料理は、無論、ステーキだ。


「相良、朝っぱらから、そんな重たいものよく食えるな?」

「そうか? 別に普通だと思うぞ」

「ユウちゃん、基本、鉄の胃袋だからね。子供の頃も、キャンプのときに――」

「早く食おう。直ぐに食おう」


 弾むような声色で、過去の俺の黒歴史を赤裸々に暴露し始めたクリス姉の言葉を全力で遮る。

 冗談じゃない。これ以上、恥をさらされてたまるか。



「それでね、そのとき、ユウちゃんが言ったの。『カリンを苛める奴は許さないぞ!』って」


 『おおっ!』と意味不明な歓声を上げる女性陣に、人生でもトップレベルの居心地の悪さを感じていた。というか、壮絶に全身がムズ痒い。


「もういい、頼むから止めてくれ、クリス姉」

「うん? 何が?」


 この女、わざとやってるんだろうか? いや、素だな。きっと……。

 明美が、今まで浮かべていた笑みを消すと、俺にひどく神妙な顔を向けてくる。

 

「で、そろそろ、このギルドの方向性を教えて欲しいんだが」


 このギルドは、俺の所有物ではない。そう秀忠が吹聴しているだけにすぎない。基本方針は皆で話し合って、決めてもらおう。

それに、俺がクリス姉達のこのギルドの所属を認めているのは、彼女達を戦力として期待してのことではない。

この『一三事件』を通して、俺と悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)との戦争にクリス姉達は関わってしまった。悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の背後に、《傲慢》がいるなら、この『一三事件』を攻略しても、彼女達は狙われることになる。彼女達には、是非とも自分の身は自分で守れるくらいの強さを身に着けてもらいたい

だから――。


「個人の能力の強化が第一優先。依頼受けるにしても、弱けりゃ死ぬだけだしな」

「弱いって、私、もうレベル11だぞ?」


 明美は頬をヒクつかせながらも、俺に申告してくる。


「雑魚だな。もっと、気合を入れて鍛錬しな」

「そりゃ、お前にしたら、そうなのかもしれないけど……」

「兎も角だ。お前らの最優先事項は、自己練磨だ。そのための方法なら、このギルドには腐るほどある。息詰まったら、真八にでも聞きな。喜んで、教えてくれるだろうさ」

「い、いや、いや、いい。私は遠慮するぞ!」


 慌てて会話を逸らす明美。あの朱美すらも、真八の超ド級のサド修練は御免被るらしい。

 丁度いい、今度、都合が悪いときは、この話題を出して誤魔化すとしよう。恐るべし、サド真八。

 


粗方食べ終えたとき、秀忠から、第四階の会議室へ集合するよう指示がくる。今日は、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)との戦争の日。そのための作戦だろう。秀忠には、《炎の獅子》とのギルドゲームの後始末について報告を受けねばならなかった。都合がいいといえる。


            



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