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第124話 真実解明


 はしゃぐカリンを連れて、志摩邸まで送り届ける。

 ウラノスの存在から、半蔵さんも俺達の切羽詰まった現状を理解してくれたらしく、月曜日までは、志摩家当主の命令であっても、優先してカリンを警護してくれると約束してくれた。

 今は、タクシーで朝比奈先輩と《夢妙庵》へと向かっているところだ。

 タクシーの中から見る街並みは、いつもの見慣れた景色のはずなのに、混じりあってしまった二種類のパズルを同時に組み立てているような強烈な違和感がある。

 それは、朝比奈先輩も同じらしく、いつも陽気な先輩らしからぬほど緊張していた。


「心配すんな。先輩、明日にはすべてが終わる」


 安心させるべく、先輩の頭を撫でながら、そう宣言してやる。


「うん!」


 笑顔で、いつものように快活に答える先輩。

 月曜日になれば、全てが終わる――俺のその言葉には、偽りはない。良くも悪くも、カリンを巡る俺のこの数日間の冒険は終了する。

 問題は、新たに覇王同士のバトルロワイヤルという訳のわからぬゲームが新たに開幕されてしまうということ。そして、俺自身、その戦いに身を置く理由ができてしまった。

 今後も含めて、一度、秀忠達と話し会うべきだろう。秀忠達は、あくまで日本政府の重鎮だ。近い未来に俺を取り巻く戦争は、間違いなく、血で血を洗うものとなる。クリーンな組織を目指す秀忠達とは、歩む方向が明確に異なる。奴らに後戻りのための最後の道を与えるべきかもしれない。


                ◆

               ◆

               ◆


 《夢妙庵》に到着し、以前と同様な応接間らしき部屋へ通された。

 以前のように四方面から敵意をぶつけられるようなことはなかったが、どうにも、動物園の客寄せパンダのような扱いを受けてしまっている。

 ちなみに、朝比奈先輩は、悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)のアジトを突き止めるべく、分室Aで調査中だ。


「来たか」

「お疲れ様です。店長、血色の悪い顔してますけど大丈夫ですか?」

「誰のせいだと思ってる?」


 店長は血走った眼で俺をギロリと睨む。

はい、はい。俺のせいですよね――すみませんした!

 

「それで、俺に話しとは?」


 出だしをしくじったし、このままでは、いつ店長の雷が落ちるかもわからない。さっさと話しの中身に入ることにする。


志摩花梨(しまかりん)が、志摩家から狙われる理由がわかった」


 そうか、ようやく下種の尻尾を掴んだのか。志摩家内の賊には散々煮え湯を飲まされたんだ。奴らも打たれる覚悟くらいできてるだろう。

 だから――。


「その、理由とは?」


 烈火のごとく噴出する憤怒を無理やりねじ伏せ、店長に尋ねる。

 店長は、呆れたようにそんな俺に大きく息を吐き出す。


「相良、お前、今自分がどんな顔してるか知ってるのか?」

「俺の顔?」


 手で振れると、口角は吊り上がり、その顔は狂喜に歪んでいた。

 ウラノスのときとは異なり、俺は殺気など一切だいちゃいない。なのに、《夢妙庵》の幹部達の顔には俺に対する激烈な恐怖があった。

 よほど、俺は兇悪な顔をしているらしいな。まっ、構いやしないわけだが。


「今のお前にだけには、委細、知らせたくはないのが本心なんだが、約束は約束だ」


 店長は、白色の封筒に入った資料をテーブルにぶちまける。

 俺はその資料を手に取り、目を通す。


                ◆

               ◆

               ◆


「これって、真実ですか?」


 あまりにもぶっ飛んだ内容に、俺はテーブルに資料を放り投げる。

資料は次のような内容だった。

カリンの本名は、カリン・アシュパル。アドルファス・アシュパルとその妻、ミミル・アシュパルの遺児。

そもそも、アドルファスには仲の良い兄王がいた。兄王は、アシュパル家、始まって以来の才気を持つ王であり、将来を有望視されていた。

だが、兄王は重い病にかかってしまい。失意の中で死亡する。兄王の実子の第一王子はまだ幼く即位するには早すぎた。そこで、弟のアドルファスが即位することになる。そして、アドルファスは、兄王の実子達を次期国王候補とするため、第一位継承権者――ビルフェズ・アシュパル、第二継承権者――アナスタシア・アシュパルを養子とし、王位継承権を変更なく引き継がせた。

そして、アドルファスが即位してから、凡そ、二年後、妻のミミル・アシュパルが懐妊した。アドルファスを始め、国中が歓喜に湧き上がった。

もっとも、その奉祝も直ぐに絶望へと変わる。ミミルが、狙撃されて重症を負い、病院で死亡してしまったのだ。アシュパル王家宮内庁の公式の発表では、ミミルは子と共に崩御してしまったとされている。

しかし、実際は、緊急手術により、奇跡的に子は無事だった。その子がカリンだ。

 カリンの存在を隠したのは、この度の事件が、第一王子派の高位貴族により、組織的になされた可能性が浮上したから。

 カリンは、アドルファスと交流があった、日本の志摩家に養子へ出される。

誰もが、兄王の実子が王位を継ぐと考えていたらしいが、崩御後、実子のカリンに王位を継がせるとの遺言が出て来てしまった。

さらに厄介なことに、内密に第二王位継承権者――アナスタシア・アシュパルがカリンの王位継承権を認める旨の発言をしたから、さあ大変。今や、実質的にはビルフェズとアナスタシアとの代理戦争のようになってしまっている。


「真実だ。カリンは、アドルファス・アシュパルの実子。今や、アシュパルの王座に最も近い人物だ」


 眩暈がした。カリンの親父さん。なぜ、こんな頭痛い決断をしたんだ? 第一王子のビルフェズからすれば、王位が二人の何れかの手に入ると思っていたのが、一夜にして横からかっさらわれた格好だ。このままで収まるはずもない。実娘が命を狙われる危険性など、少し考えれば推知し得るだろうに。


「黒幕は時宗じゃなかったのか……」


志摩菊治(しまきくじ)、辰巳おじさんの実弟であり、世界的な電機メーカー――志摩電子の代表取締役。

資料によれば、志摩電子は、第一王子ビルフェズの御用達企業。つい一か月前、ビルフェズが、志摩電子の株の10%を獲得するなど、最近特に密接な関係を構築中のようだ。さらに、奴の末の娘は、第一王子派の高位貴族と婚約関係にある。悪いが、きな臭い匂いしかしない。

志摩菊治(しまきくじ)は、仮にも志摩本家のものであり、政財界に多大な影響力を持つ。政界や行政を通じて、警察組織の内部事情を獲得するなど、大した労力ではあるまい。

 ともあれ、謀略は俺の専門じゃない。餅は餅屋に。陰謀が生きがいの秀忠に任せるのが適材適所だろう。奴なら、鼻歌を歌いながら、志摩菊治(しまきくじ)にとって、最悪の破滅を見繕ってくれるはずだ。

俺がやらねばならぬことは他にある。即ち――。


「第一王子が来日したのは、カリンがらみ。十中八九、暗殺ですか……」

「多分な」


 馬鹿な奴だ。部下に任せていれば、もうほんの少しだけ、我が世の春を謳歌出来たろうに。


「ありがとうございます、店長」


 もういいだろう。この資料を秀忠に渡して、まずは、志摩菊治(しまきくじ)を追い込む。

俺は身の程知らずの馬鹿王子をぶっ潰す。今の俺に、豆粒ほどの情けがあると思うな。お前らの組織ごと、跡形もなく、解体してやる。

 

頭を下げて、部屋を出ようとするが――。


「まて、相良、資料をよく読め。ビルフェズ王子の護衛は――」


知ってるさ。シーカーがいるんだろう。昨日までの俺なら、多少の気後れくらしたのかもしれないな。どうも、今朝、あの無敵モードになって以来、俺の中の何かが決定的に変わってしまった。そんな気がする。


「トップランカーのシーカーでしょ?」

「仮にも序列一〇〇位以内だぞ。勝てると思ってるのか?」


 序列一〇〇位以内? そんなものに俺は負けんよ。これは強がりでも驕りでもなく、単なる真理だ。


「まあね。敗ける要素がありませんから」


俺の言葉に大きく目を見開くと、店長は俺をすごい形相で凝視する。


「さっきから違和感があった。お前、本当に相良か?」

「はあ? 突然なんです?」

「いいから答えろ!」

「俺は相良悠真です。誰が何と言おうとね」


 店長が俯き気味に顎に手を当て考え込んでいたが、直ぐに顔を上げる。

 その店長らしからぬ悲痛に塗れた顔を視界に入れ、思わず息をのみ込んだ。


「相良、頼むから、これ以上、無茶はするな」

「……」


 奇妙な罪悪感がのしかかるのを感じながら、俺は踵を返し、部屋出口へ向かうが――。


「お前に伝えることがある」


扉の前で肩越しで振り返ると、店長は、俺が想定もしていなかったことを口にした。








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