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第122話 今生の誓い 


 いつものモフモフな感触に、重い瞼を開けると、案の定、小動物が俺にしがみ付きながらも可愛らしい寝息を立てていた。

 大きな欠伸をしながらも、暫し、キュウの頭を撫でていたが、部屋に気配を感じ、顔を向けると、ウォルトが椅子に座って眠っている。

 それにしても、奴のこのだらしない寝相。とても、あのキッチリしていたウォルトとはとても思えん。


(やっぱ、あのやり取りが原因だろうな)


 理由は不明だが、俺はあの時、確かにウォルトをベヒモスと呼んでいた。それだけじゃない。至極当然に、奴をほっとけない、出来の悪い弟のように見なしていたんだ。それは、今の非の打ち所がないウォルトの評価とは真逆のもの。

 全くもって、意味が分からん。俺、極度の妄想癖でもあるんだろうか。まさか、超ド級の厨二病に感染しているとか? ……馬鹿馬鹿しい、それこそ今更だろう。


「おう、兄者、起きたか?」


 顎を指でいじくり、思考の渦に飲み込まれている俺の意識は、そんな突拍子もない言葉により、瞬時に覚醒される。


「あ、兄者?」


 頭を抱えたくなった。今、ウォルトの奴、確かに、俺を『兄者』と言ったよな? 口調すら変わってるし。つまり、この事象は俺の妄想ではなく、まぎれもない現実ってわけか。


「覚えてねぇのか?」

「まあな」


 暫し、眉を顰めて、俺を観察していたが、ニカッと白い歯を見せる。


「まっいいや。俺にとって兄者は、兄者だ」

「だから、その『兄者』ってのが、意味不明なんだがな」

 

 突如、笑顔を消し、神妙な顔で立ち上がり、右拳を突き出してくる。


「仕切り直しだ。俺はこの命の続く限り、兄者を守る。今度こそ、絶対にだ」


 まったくもって、意味不明だが、一点の曇りもない敬虔な表情を目にしたら、とても笑い飛ばすことなどできなかった。

 だから――。


「そうかよ」


 そう端的に答えると、俺の右拳を奴の拳に軽くぶつける。何となくだが、こうすべきだと思ったんだ。

 あれからの委細を聞こうと口を開きかけたとき――。


「あ~、ここにいたニャ!」


 バタンッと扉が開かれ、騒々しい猫娘が部屋へ乱入してきた。


「おう」


 右手を挙げるウォルトに、左手を腰にあてて、右手の人差し指を向ける。


「このギルドでは、ウォルトは新人ニャ! 勝手な行動は慎むニャ!」


 ウォルトが新人か。とすると、ウォルトは俺達のギルドに入ることを希望したんだろう。おそらく、既にセレーネと契約済だと思われる。


「わかった。わかったよ」


 アイラの傍まで歩くと、グリグリと頭を撫でるウォルト。


「にゃ、にゃにゃ」


 アイラは気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らす。


「猫だ」

「猫だな」


 俺達の絶妙にハモリった素朴な感想に、揶揄われたと勝手に勘違いしたアイラは、ウニャウニャと非難の言葉を上げ始める。

 大きな溜息を吐くと、ウォルトは未だに怒り心頭のアイラの後ろ襟首を掴むと、部屋を出て行ってしまう。

 どっと疲れた。色々、不明な事は目白押しであり、じっくり考えたいところではあるが、そろそろ、《バーミリオン》の出勤時間だ。

 ウォルトとの戦闘直後だ。再度、状態を確認してから、《バーミリオン》へ向かうことにする。俺の予想だと、ロードの起源回帰につきに何らかの変化があるはず。


――――――――――――――――――


『ロード(Lⅴ3)』


〇起源回帰:三〇分間、元始の状態に、魂と肉体を回帰させる。

〇使用制限:一日三回

〇使用条件:第一層封印解除。第二層封印

〇残存使用数:2/3

――――――――――――――――――


 やはりな。おそらく、第一層封印ってのが、あの黒色の紐なんだろう。

 残存使用数が、1ではなく2の理由は、昨晩のあの砂の海のエリアの戦闘では、中途半端に最強化し、第一層封印を解くに至らなかったからか。確かに、昨晩の砂の海のエリアでは、記憶無くす直前、黒色の紐なんて引っ張った記憶ないしな。

 多分、昨晩、記憶が完全消失していたのも、浜辺でぶっ倒れていたのも、第一層封印がされている状態で無理に回帰しようとした結果だろう。あの不完全な状態では、力の上昇の幅も大したことがなかったんじゃないかと思う。

 兎も角、第一層封印が解除されている以上、今度は他の権能やスキルの発動と同様の感覚で、あの最強モードになれるはず。いや、一度使用したせいか、最強モードになれることを今の俺は確信している。

 万が一のため、実施試験は必要だろうが、今日は後二回しか使えない。どうせなら今晩の《滅びの都》攻略の際にでも使うべきだろう。

 

――――――――――――――――――


【劫火】


〇説明:極めて広範囲に効果を示す滅びの大火。

・範囲と威力は器用の強度による。

〇クラス:第六階梯

――――――――――――――――――


 俺の得た最初のスキル。口から吐くことが可能な大火だ。威力と範囲は、器用さに比例するから、中々使い易い。【エア】の殲滅弾よりは威力とコントロールは劣るが、溜がなく、魔力の消費が抑えられる分、周囲の被害を気にしない戦闘では役に立つ。

 ネメアの《炎の獅子》のスキルは獲得できなかったようだ。《終末の木》に倒させたせいか、それとも……ウォルトのスキルを獲得できなかったこともそうだが、どうも、ラーニングの条件が不明瞭だ。今後、明らかにしてく必要があるな。

 

 ステータスも確認すると、レベルは、30になっていた。

 いつの間にか、『旧友邂逅』という条件はクリアしてしまったらしい。俺を兄者と呼ぶし、おそらく、『旧友』とは、ウォルトのことなんだろうが、俺は奴にこの異世界で奴に初めて会った。あのウォルトの性格の激変もある。わけがわからん。それが、本音ではあるが、これは、今早急に解き明かさなければならない謎ではない。

 この騒動が一段落したら、秀忠に情報収取を依頼するのが、吉だろうさ。奴のことだ。嬉々として知りたくもない情報まで仕入れそうだし。

 こんなところか。


 店長に今日は、遅れて出勤する旨伝えている。カリンの迎えも今日は半蔵さんが請け負ってくれることになっているし、襲われても容易に撃退し得るだろう。

 【覇者の門】をくぐり、《バーミリオン》の倉庫へ移動する。


                ◆

               ◆

               ◆


 カリンは、いつも通り、天真爛漫に調理に励んでいた。昨日との違いは、今までにないテンションで、終始はしゃいでいるということくらいか。まあ、仕事に支障がないし、厨房のスタッフ達には受けは、抜群にいいので、放っておいている。

 ちなみに、カリンがこうもテンションがマックスになっているのにもわけがある。


「聞いたぞ、相良、親御さんにバイト、認めてもらったんだってな?」


 厨房で鼻歌を歌いながら、野菜を切っているカリンを眺めていると、煩忙の時間帯が過ぎ、厨房の仕事にようやく一息ついた厳さんから声を掛けられる。その弾むような声色から察するに、カリンという弟子ができたのが、よほど嬉しいんだろう。


「みたいですね」

「心配すんな。カリンは、俺が責任もって一流の料理人に鍛え上げてやる」

「ありがとうございます」


 一流の料理人か。カリンも料理には、強烈な執着があるようだし、それもいいかもな。


「相良君!」


 我らがマスコット――朝比奈先輩が、愛嬌したたる笑みを浮かべながらも、俺の元までトテトテとやってくる。改めて見ると、マジで〇学生にしか見えん。


「先輩、どうした?」

「お客様なんだよ」


 客? 誰だ? 秀忠や八神達なら、《文字伝達》で事足りる。立花や、朝霧若菜(あさぎりわかな)などの武帝高校の教師連中なら俺の携帯の番号を知っている。事前に連絡の一つはあってもよいはずだ。


「どんな奴だ?」

「白髪のお爺さん」


 白髪の爺さん? 全く心当たりはない。もしかして悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の構成員か? 

 いや、違うな。この《バーミリオン》には、半蔵さんが警備についている。もし、不審者なら、半蔵さんから注意の一つもあってよさそうなものだ。それに、真八の部下を多数配置しているとも言っていた。奴らから連絡がまるでないし。

 ともあれ、会わないわけにも行くまい。


「了解した。客とやらは、応接室か?」

「私もそう提案したんだけど、お腹が減っているから、食べながらフロアの13ーCのテーブルで話したいそうだよ」


 疑問もあるが、別にこんな公衆の面前で、ドンパチをやりはしないだろう。もし、相手がその気ながら、とっくの昔に何らかのリアクションはあるはずだから。

まさか、《バーミリオン》の制服のまま客席に座るわけにもいかず、一度着替えてから、最奥に位置する13ーCのテーブルへ向かう。


                ◆

               ◆

               ◆



13ーCのテーブルに近くと、水中へ潜水したかのような独特の不快感がある。

 所謂、結界ってやつだろう。今の俺でも、これほど肌がヒリつくのだ。かなりの強度だが、さして危機感も感じない。少なくとも俺に害があるものではあるまい。防御系か、人払いの結界って奴だろうか。

 テーブルには、朝比奈先輩の言う通り、白色の顎鬚を生やした白髪の老人が座っていた。二メートルを超える巨体に、白色のスーツを着用しており、白色の髪と顎鬚と相まって、まさに白一色の出で立ちだ。

爺さんの背後には、ボディーガードらしき白色スーツの男女が直立不動で周囲に目を配っていた。

無論、こんな目立つ爺さんの知り合いなどいない。だから、率直に尋ねてみた。


「あんた、誰だ?」


 背後に控える金色短髪の男の方が、眉をピクリと動かし、長い赤髪の女が、俺に射殺すような視線を向けてくる。

 

「誰じゃと思う?」


 こいつらの時代錯誤のリアクションには覚えがある。おそらくは――。

 

超常者(イモータル)か?」


 俺は老人の対面の席に座り、そう確認してみた。

 俺の問に、堰を切ったように笑い出す白髪の老人。

 背後の二人も、俺の発言に嘲笑を浮かべていた。

 違うのか? だが、この爺さんから出る圧迫感は、ロキや秀忠が稀に醸し出す雰囲気に酷似している。


「いや、すまん、すまん、超常者(イモータル)、お主の見立ては間違いではないぞ」

「だが、正確じゃねぇんだろう?」

「まあな。寧ろ、今はお主に近い」


 俺に近い? なら、人間ってことか? とても、そうは見えんのだが……。

 まあ、確かに此奴らが人間だろうと、超常者(イモータル)だろうと、大した意味はない。俺が知りたいのは――。


「あんたは、俺の敵か?」


 敵なら潰す。跡形も残さず、粉々に!


「ほう。変わりおったわ」


 滝のような汗を流しながらも、ゴクリッと金髪白スーツの男が喉を鳴らし、女は、真っ青に血の気の引いた顔で、震えながらも白髪の老人の前に出て構えとる。


「やめい! これは我ら王同士の談議である。貴様らごときが、でしゃばるでないわ!」


 王同士ね。これで大体見当が付いた。要するに、この爺さん、覇王なわけだ。

 一礼すると再度、背後に控える赤色髪の女。


「失礼した。臣下の非礼、ここに詫びよう。我はウラノス。《怠惰》の王」


 ご丁寧に頭を下げて来た。別に詫びなど欲しくはない。


「いいさ。俺はユウマ・サガラ。

それで、あんたは敵なのか?」

「敵じゃ」


 そうか。なら殺そう。口角を引き、《元始回帰》を起動させようとする。


「ひっ!」


 悲鳴上げて、腰を抜かす赤色髪の女。金髪の男も、近くの壁へと寄りかかる。

この程度の護衛で、白昼堂々喧嘩を売られるとは、俺も舐められたもんだ。


「よいのか?」


スイッチを切り替える寸前、ウラノスがそう尋ねて来た。


「あ?」

 

 ウラノスは、テーブルに、小さく透明な球体を置く。

 その球体の中心に存在するものを認識し、俺は舌打ちをした。


「やってくれたよなぁ」


 確定だ。此奴は俺が最も嫌悪する人種。

 殺そう。たっぶり、じっくり、地獄を見せた上で。

 

「血の気の多い奴じゃ。心配せんでも、危害を加える気はないわい」


 ウラノスが硝子玉を人差し指で床へと弾く。球体は、床に落下し、破裂すると、中から、一人の老執事が姿を現す。


「半蔵さん。大丈夫ですか?」


 片肘を付いている半蔵さんに右手を差し出す。半蔵さんは、俺とウラノスを相互に見比べていたが、直ぐに立ち上がり、俺へ深く頭を下げた。


「悠真様、面目次第もございません」

「いえ、この爺さんはイレギュラーもいいところです。こちらこそ、巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

「……」


 半蔵さんは、暫し、俺の顔を凝視していたが、直ぐに俺の背後へと控える。


「おぬし、良い配下を持ったな。それと引き換え……」


 ウラノスは、背後で、泡を吹いてのびている二人の従者に視線を向けると大きな溜息を吐く。

 半蔵さんは、配下では断じてないが、後半部分には同意する。まさか、俺の殺気に当てられただけで気絶するとはな。そんな根性でよく、覇王の眷属などやっていられたもんだ。


「御託はいい。何の用だ?」

「ようやく、聞く耳を持つか?」

「是非もなし」


 今ここで、俺が暴れれば、結界内にいる半蔵さんは確実に死亡する。それは絶対に看過できない。


「よいぞ! やはり、お主はこの度のゲームのダークホースじゃ」

「この度のゲーム?」

「何じゃ、知らんのか?」

「初耳だな。まあ、別に知りたくもないが……」

「お主が望もうと望むまいと、本日、お主が目覚めた以上、遅くとも明日の午前零時までには、ゲームは開催される」


 俺が目覚めたね……。生憎と、煙に巻かれるのは好きじゃない。


「お前、脱線し過ぎだぞ。早く要件をいえ」


 流石に、じらされるのにも飽きて来た。これ以上、意味不明な妄想垂れ流すようなら、お引き取り願おう。


「もうじき開かれるのは七柱(しちにん)の覇王によるデスゲーム」


 デスゲームね。要は、覇王による殺し合いってところか。悪魔のダース(デヴィルズ・ダズン)の処理で、一杯一杯だってのに、余計な問題持ってきやがる。


「クリア条件は?」

「他の覇王の滅殺。通常(・・)、最後の一柱ひとりとなるまで、ゲームは続く」


 だと思ったよ。悪趣味すぎて反吐が出るぜ。


「参加を拒否することは?」

「原則として不可能じゃ」


 原則として不可能。ならば、例外はあるってことか。


「俺は、お前らの下らんお遊びなどに興味はない。参加を拒否する例外とやらを教えろよ」

「我の言い方が悪かった。今回に限り、全覇王が拒否は不可能じゃ」


 ちっ、結局、殺し合いに強制参加ってか。まあいい、喧嘩を売って来るなら潰すだけだ。


「それで、お前の目的は?」

「我と同盟を結ばんか?」

「同盟? デスゲームじゃねぇのか?」

「ああ、我とお主が最後に残れば、我はお主に勝ちを譲る」

「はあ? さっき、最後の一柱ひとりとなるまで、ゲームは続くっていったばかりじゃねぇか?」


 それに、そんな便利な方法があれば、こんなデスゲームを開く意味がなくなる。口ぶりからいって、このゲーム、幾度となく繰り返されて来たんだろうし、違和感ありまくりだ。


「だから通常(・・)と言ったじゃろう? 我は、この一万年、この馬鹿げたゲームを終わらせることだけを夢見て、研究してきたのじゃから」


 一万年間……随分と吹かすじゃないか。だが、馬鹿げたゲームか。その一点では俺も同感だ。少し詳しく聞いてみるか。


「全て話せ。同盟云々はそれからだ」

「長くなるぞ? 良いか?」

「構わんよ。それに今更だ」


 ウラノスは頷くと、口を開く。それは、この覇王達のバトルロワイヤルの始まりの物語。


ようやく物語の確信の話に入っていきます。

ここの話は、書いてて結構楽しかったです。楽しんでいただければよいのですが。

また明日の投稿になります。それでは!

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