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第119話 決着


 黒色の紐を引き千切ってから、器たる肉体は強靭に造り替えられ、その中身たる精神もその肉体に相応しいように変貌していく。より正確に言えば、劇的に変化した精神に適応するように、器たる肉体を無理やり創造した。そんなところだろう。

 俺の眼前には、呆然と俺を眺める、義弟がいる。

 相変わらず(・・・・・)、変則的事態に弱いやつだ。完全に、脳がフリーズしてやがる。

 

「ユウマ殿、君は――」


 躊躇いがちに尋ねてくる阿呆に、


『ベヒモス、拳で語れ』


 俺はいつものように、そう端的に命じる。

 ベヒモスの両眼から、疑問の色が消え、変わりに、強烈な意思が宿る。

 メソメソしているのはいつも通りか。まあ、ここで号泣していないだけ、多少此奴も成長したんだろう。

 さて、そろそろ大喧嘩の時間だ。俺は中途半端が嫌いだ。やるからには徹底的にぶちのめす。

俺は右手に【エア】を、左手に【ムラマサ】を顕現させ、大地を蹴り上げた。


                ◆

               ◆

               ◆


 数千にも及ぶベヒモスの拳打の衝撃波が空を疾駆し、俺へと殺到するも、【エア】の殲滅弾で全て相殺、撃ち落とす。

 空を駆け、奴のふざけた威力の拳の衝撃波をさけつつも、ベヒモスに向けて降下し、その脳天に左手に握る【ムラマサ】を振り下ろすが、奴の長く伸びた紅の爪により防がれる。

 俺の【ムラマサ】とベヒモスの【紅爪】が衝突し、バチバチッと黒と赤の火花が生じ、大地を深く抉る。

 奴の【紅爪】を【ムラマサ】で弾きながらも、【エア】の時限弾を奴の立つ地面に打ち込み、バックステップしながら、起爆させる。

 

 ベヒモスの真下の地面が大爆発し、上空へと持ち上がる。即座に、口を開けて、ベヒモス目掛けて、【劫火】をぶちかましつつも、【エア】に十分な魔力を籠めて連射し続ける。

 骨まで焼き尽くさんとする灼熱の劫火と、たった一発で半径数十メートルを粉微塵にする威力の無数の銃弾が、ベヒモスへと殺到する。

 この絶妙なタイミングだ。ベヒモスとはいえ、全ては避けられまい。当たれば、かなりのダメージを与えられる。そこを畳みかける!

 奴に向けて全力で跳躍しようとしたとき、背筋に氷柱を押し付けられたかのような強烈な悪寒が生じ、咄嗟に右脚を蹴り上げ、横っ飛びに疾走する。


『グオオオオオオォォォォッ!!!』


 直後、耳を弄するような咆哮が轟く。ベヒモスから放たれた衝撃の波は、大気を振動させつつも、射線上の大地を抉り、消し飛ばす。土煙が風で飛ばされ、半径数百メートルにも及ぶ巨大なクレーターが顕出する。

 あの強度の咆哮が、直撃すれば、即ジエンドだろうが、あの威力を出すためには、一定のタメの時間が必要であり、戦闘中に、そう何回も放てるもんじゃない。

 それに直撃すれば、致命傷を負うのは、奴も同じだ。特に、【エア】の銃弾は、威力が所持者の魔力に比例するところ、今の俺の魔力を全力で溜めれば、奴の非常識に固い肉体も十分に貫ける。

 もっとも、ベヒモスもそれは十分に熟知しており、スキルにより硬化された両手により、銃弾はことごとく弾かれてしまっている。


 接近し、【ムラマサ】を横一文字に振るうが、奴の右手の爪により弾かれ、同時に左の爪が俺の首を切断せんと振り下ろされる。【エア】の銃弾で爪を逸らし、口を開け、【劫火】をベヒモスの顔面にぶちかますが、奴のタメなしの咆哮であっさり相殺してしまう。

 間髪入れずに、左拳を奴の脇腹に放つと、奴の左のローキックが俺にクリーンヒットとし、お互い吹き飛ばされる。

 

 さっきから、まるで自身の鏡と戦っているかのように、一進一退を繰り返している。

 ――体術には体術。

 ――【ムラマサ】には【紅爪】。

 ――【エア】などの飛び道具には、奴のスキルによる拳打の衝撃波。

 ――【劫火】には、タメなしの咆哮。

 やはり、小手先の攻撃では、勝負はいつまでたってもつきはしない。

 攻撃をやめて、大地に降り、ベヒモスに向けて近づいていく。ベヒモスも俺の意図を理解したのか、攻撃の手を止めてこちらに悠然と歩いてきた。

 ベヒモスと目と鼻の先まで近づき、俺は奴に問いかける。


「わかってんな?」

「ああ」


 俺は【アイテムボックス】から金貨を一枚取り出し、空へと弾く。

 ベヒモスは口端を引き、右肩をグルグルと回し、右肘を引く。俺も右拳を固く握り、右肘を弓のように引いた。

 ゆっくりと舞い落ちる金貨。

 これからやるのは、ただの我慢比べ。戦闘と言うにはあまりに子供じみた、意地の張り合い。それが、互いに退けない時にする俺達の喧嘩の方法だ。

 遂に、金貨が地面に落ち、俺達は互いに、右拳を渾身の力で打ち抜いた。


 ベヒモスの左拳が俺の腹部にめり込み、俺の左拳が奴の右頬にヒットする。俺の右ストレートがベヒモスの眉間にあたると、奴の右フックが俺の蟀谷へと衝突する。

 一発一発に、己の魔力と魂を込め、相手を殴る。そんなシンプルなどつき合い。

 骨が砕け、肉が抉れ、鮮血が周囲に飛散る。

 それでも、俺達は互いを殴り続ける。



 どれほど時間がたっただろう。既に、痛みどころか、殴っている拳の感覚すらもありはしない。

 楽しい、楽しい祭りにも終わりはつきものだ。

 ベヒモスの右拳が俺の鳩尾にもろに入り、吐しゃ物を吐き出す。よろめきつつも、俺も渾身の右拳を奴の胸部目掛けて撃ち抜いた。

 一瞬、動きが止まるベヒモスの顔面に渾身の左拳を放つ。俺の左拳がベヒモス顔を捕える刹那、ベヒモスはブリッチをしてそれを避けた。

 身体をばねのようにしならせつつも、右肘を限界まで引いたベヒモスは俺に右拳を突き上げて来る。

爆風を纏って迫る右拳。その巨大な拳を鼻先スレスレで避けると、俺はありったけの魔力を溜めておいた右拳を奴の顔面目掛けて振り下ろした。


                ◆

               ◆

               ◆


「また、敗けちまったな」


 地面には、妙に清々しい顔で、大の字に仰向けに伏すベヒモス。


「そうだな」


 俺は右拳を強く握り、天へと突き出だす。


「俺の勝ちだ」


 そう宣言し、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。





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