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第107話 怪物計画の結末


 重い瞼を開くと、ラヴァーズは真っ暗な一室の備え付けの椅子に座らせられていた。

 独特の加速感から、ここは車の中。細長い椅子に窓一つない部屋から察するに、探索者専用の護送車ってやつかもしれない。

顎を引き、自身を確認すると、囚人用の拘束具により、雁字搦めに捕縛されていた。引き千切ろうと、力を籠めるが、ビクともしない。拘束具が特殊なのか、それとも、ラヴァーズが普段通りの力が出させないのか。いずれにせよ、お手上げだ。

 記憶が混濁しており、上手く思い出せない。だが、ラヴァーズが五体満足でいることからも、薄汚い罠にでもはまって拘束されたんだろう。しかも、この護送車、人間のもの。まさか、人間に捕縛されたのか? 


(どこのどいつか知らないけど、やってくれるじゃないっ!)

 

耐えようのない憤怒に狂気めいた殺気が溢れだし、奥歯をギリッと噛みしめる。


『初めまして。私は、東条秀忠(とうじょうひでただ)


 頭の中に響く、どことなく陽気な男の声。

 こいつが、ラヴァーズを捕えた奴か。


「この私に――」

『勘違いしないでいただきたい。羽虫と押し問答をするほど、私は酔狂ではない』

「わ、わ、私が、は、羽虫だと――」


 あまりの恥辱に、五臓六腑が煮えくり返り、上手く言葉が紡げない。


『ふむ。その様子、やはり、覚えちゃいませんか。どうも、新たに得た能力は、ジャジャ馬で困りますね』

「貴様ッ!!」


 深いため息を吐く男に、その煮えたぎる怒りのまま、怒号を叩きつけようとするが――。


『何度も同じセリフを吐かないで欲しいものです。私は(むし)と会話をするつもりはありませんのでね』


 奴の声色は、今までと同じで変わりはしない。なのに、その節足動物のような感情の籠っていない声を認識しただけで、脳みそを素手で握り締められているような特上の不快感が全身を駆け巡る。

 こんな感覚は初めてだった。そして、同時に、此奴が人間じゃないことを否応でもラヴァーズに実感させたんだ。だって、声だけで、人間にこんな悍ましい鳥肌が立つような威圧感を出せるはずがないから。

 人間と組んでいるなら、冥界の住人ではあるまい。おそらく――。


「お、お前――」


 カラカラに乾く喉から何とか、言葉を振り絞るが――。


『まずは報告事項。この度、崇敬の我が(マスター)に牙をむいた身の程知らずの君のお仲間は一部の例外を除き、無事、滅び(・・)ました』

「ほろんだ?」


 東条秀忠の言葉のニュアンスに、どこか強烈な違和感を覚える。それが、何なのかは、判然としなかったが、奴の言わんとしていることはわかった。


『ええ、外ならぬ君らの手で無事駆除されたのです』

「……」


 大分、車内の薄暗い環境に目が慣れて来た。前方に気配を感じ、目を細める。

ラヴァーズの指先は、小刻みに震え始める。

 正面の長椅子には、二人の男が座っており、その身体はまるで雑巾のように、捻じりあげられていた。そして、消失している頭部。体格から言って、フールとマジシャン。


『私達の組織は、クリーンを売りにしているんですよ。たとえ(テロリスト)とは言え、捕縛された者の命をそう簡単に奪うことはできませんからねぇ』


 本日の天気の報告でもするかのような軽快な調子で、東条秀忠は得々と説明してくる。


「うぁ……」


 自然に、自身の口から、悲鳴が漏れでていた。ようやく、この声の男の最低で虫唾が走る計画を漠然とだが理解できてしまったから。

『君が生きている情報を先ほど、君のお仲間に流しました』

「んな……」


 ラヴァーズが生きて、敵の超常者(イモータル)に捕縛されていると知れば、ヒエロファントがどんな行動に出るかなど目を瞑っていてもわかる。


(マスター)は君に、極上の絶望をお望みだ。

私は、君に死闘の末の滅びの栄光など与えない。君達の組織の(いしずえ)になる滅びの栄誉など恵まない』

「い、いやだっ!!」


 渾身の力で拘束具を引き千切ろうとするも、ビクともしない。

崇敬のボスのために死ぬのではなく、ただの役立たずの足手纏いとして、仲間に始末される。そんな惨めな最後など真っ平だった。だから、必死で狂ったようにもがき続ける。


『私の与えるのは、君へのとびっきりの絶望のみ』

「いやだぁぁぁ――――――!!!」


 ラヴァーズの絶叫と共に、視界が真っ赤に染まり、全身が嫌な音を上げ始める。

 両腕が潰れ捻じれる。

 体躯が不可視の巨大な手で鷲掴みにされ、搾り上げられる。

全身の骨と肉が拉げ、そして、全身がばらばらに砕けて四方八方に飛び散っていくような激しい痛みが幾度もラヴァーズを蹂躙した。


「ごぼおっ!!」


身体中から噴水のように噴き出す血液と、砕ける骨と肉。


「だ……ず……げ……」


 発狂しかねない激痛と奈落の底に落下するようなとびっきりの絶望の中、


『それでは――最後のひと時をご堪能あれ』


頭に響く東条秀忠の最後の声を最後に、ラヴァーズの意識は泡のように弾け、消えていった。





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