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第103話 お披露目 柩荷稲


 内閣府庁舎別館――第一会議室。

 内閣府に置かれた庁舎の一室。

 内閣特殊魔技研究室――《トライデント》設立のためだけに作られた庁舎であり、表向きは魔術・スキルの政府主導の研究機関とされている。

 もっとも、このドーナツ型の各席に座る錚々(そうそう)たる面子を目にすれば、単なる研究機関ではないことなど一目瞭然だ。


 部屋全面の巨大スクリーンに、(ターゲット)たるラヴァーズの消滅と、相良悠真(さがらゆうま)が仰向けに床に静かに伏す姿が映し出された。


「す、素晴らしいっ!!」


 高速で傷ついた全身が修復していく相良悠真の姿に、正面に座る恰幅のよい男が恍惚に顔を染めながらも、立ち上がり、賞賛の言葉を口にする。

 それを契機に他の幹部達も一斉に立ち上がり、拍手が会議室へと巻き起こる。


(あのようなバケモノを、よく見つけてきたものだ……)


 内閣情報調査室室長――柩荷稲(ひつぎかいな)は、今も鳴りやまない拍手と称賛の嵐の中、口端を上げている萎びたサラリーマン風の男を隠れ見る。

 東条秀忠(とうじょうひでただ)――警察庁長官官房長であり、事実上、警察庁の実権を握る男。この薄気味悪い男が、この会議場の風景を作り上げた。そう断言しても過言はない。

 内閣特殊魔技研究室――《トライデント》の設立自体は、肥大化する『超常現象対策庁』の権勢を抑止する機関として早い段階で計画としては成立した。

 しかし、そもそも《トライデント》は、警察庁と防衛省の二組織の妥協の産物として計画されたもの。仮に、『超常現象対策庁』に存在する二人のシーカーに対抗できる人材がいるなら、端からこんな組織など必要とはされない。そんな矛盾に満ちた計画だったのだ。

 だから、正直、柩はこの計画はいずれ頓挫すると踏んでいた。それを、東条秀忠はあのふざけた存在を連れて来ることにより、あっという間に、実施段階までこぎつけてしまう。

 調査室のエージェントから上がって来た情報は到底、信じがたい事項ばかりだった。

 ――たった一晩でレベル2の者をレベル8まで上昇させるほどの超成長促進能力の付与。

 ――最上位のオーパーツ生成能力。

 ――超回復力。

 ――迷宮(ダンジョン)支配。

 どれも、公表されれば、世界中の各国政府、組織が飛びつく最高位の奇跡ばかり。

 しかも――しかもだ。あの戦闘能力の異常さは、サーチャーの有資格者なら否応でもわかってしまう。

あの最後に黒髪に黒のドレスを着た賊の女が変身した獣は、まさに災害級の怪物。仮に、東京の街中に放たれれば、《八戒(トラセンダー)》の碇正成(いかりまさなり)が日本にいない以上、複数の都市が壊滅した可能性すらあった。

 少なくとも、政府による『超常現象対策庁』への協力要請が必須であり、奴らの権威をさらに増大させていたのは間違いない。

 そんな災害級のバケモノをあの相良悠真はたった一人で倒しきったんだ。

 先刻の映像は、内閣特殊魔技研究室――《トライデント》に加入する予定者は全員が視聴できることになっている。組織の実行部隊の長に迎えるのを反対するものなど存在すまい。

 そして、内閣特殊魔技研究室――《トライデント》の設立がなされた以上、【一三事件】の解決は、組織の初仕事として処理されることになる。

 本作戦を実行に移すに際して、警視庁のトップはすべからく篭絡されることになるだろう。いや、東条のことだ。既に篭絡済か。捜査本部にスパイがいるらしいし、表向きは今まで通りではあろうけども。

もっとも、既にトライデントが敵に名乗りを上げた以上、スパイごときにどこまで秘匿する意義があるのか疑問ではあるわけなんだが。

 兎も角、内閣特殊魔技研究室――《トライデント》設立委員会としても、この【一三事件】を通じて、新組織の力を、『超常現象対策庁』を始めとする他組織に見せつけるという重要な意義もある。

特に、現在の探索者が世界の実権を握る社会では、日本の『超常現象対策庁』以外の組織は無能で役立たずという不名誉なレッテルをはられてしまっている。

 確執のあった警察庁と防衛省が手を組んだのも、その恥辱的な扱いを打破することが主要因だろうし。


 ともあれ、間違いなくこれから、忙しくなる。

 この映像を見た内閣情報調査室内部からも、多数のエージェントが組織への加入を希望するはずだ。調査室としても、警察庁と防衛省のみが利権を得る状況は思わしくない。十中八九、《トライデント》の諜報部の設立の話が内調内部から持ち上がる。

 そして、恐らくこれは、もう一人の東条(かいぶつ)の描いたシナリオの一つ。


(まったくもって、恐ろしい奴だ)


 警察庁と防衛省はいずれも諜報を専門とする組織ではないし、そのノウハウも有してはいない。新しい組織には、諜報に特化した組織も必要だが、一から作るのは手間と費用がかかる。そこで、内調も巻き込むことで、その条件をあっさり、クリアしてしまった。

 それに――。


(誤魔化せやしないか……)


 柩も、致命的なほどこの会議室内に溢れる熱に当てられてしまっている。

 近い将来に訪れる激動の時代を、柩は強く予感せざるをえなかった。



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