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私が男で彼が女で

執事喫茶に行こう!(従業員として)

作者: Lika

 突然ですが、私は男装女子。


男装が趣味だが別に性同一障害や、インターセクシュアルなどの体質ではない。

ただ単に男として生きる事に憧れているだけの大学生だ。


んで、私には……ある意味私と正反対の友人がいる。

正反対なのだから男、そして女装が趣味。

私と同じく異性として生きる事に憧れている一人の高校生。


「ぁ、晶さん、四番テーブルお願いしますっ」


「ン? あ、うん」


慌ただしく御盆の上にコップやらお皿やらを乗せて、早歩きで立ち去る一人の男性。

何を隠そう彼こそ私の友人なのだが……。


さてさて、そんな私と彼は今……


「お待たせしました、お嬢様。本日は何をお召し上がりますか?」


「ひぃぁ! わ、私……っ、執事のお勧めフルコース……っ!」


「ぁ、わ、私も……お、おなじやつ、いやっ、やっぱり本日のサービス付きで!」



そんな私と彼は今……執事喫茶で働いていた。


どうしてこうなった?!



☆約三時間前☆



本日、日曜。私、真田 晶は朝飯の前に歯を磨く習慣を付けている。なんか前にテレビでそっちのほうがいいよ! とやっていただけなのだが。


「ひょふはふぉうふぃようふぁな……」『訳:今日はどうしようかな……』


歯を磨きながら呟く。朝ごはん何にしようかな……。折角の日曜だし……贅沢に喫茶店でも行ってモーニングコーヒーと洒落込もうかしら……と思っていた矢先、携帯が鳴る。


急いで口を濯いでタオルで顔を拭きつつ、携帯に出る。相手は例の女装男子、柊 拓也。


「はいはーい、拓也君ー? どうしたー?」


『ぁ、晶さんっ……えっと……男装……したいですか? したいですよね?!』


なんだいきなり……そんな事言われなくても普段から兄貴の服かっぱらってしてるぞよ。


「どうしたの、コスプレデート? ぁ、じゃあさ……私朝飯まだだから一緒に……」


『ぁ! それなら僕のバイト先でどうですか? サービスしますよ!』


マジか、っていうか拓也のバイト先ってどこだっけ。飲食店なのは確かだが……朝からって事は喫茶店の類いか。


と、そこまで想像するとなんとなく分かってしまう。女装が趣味の男子のバイト先……それは勿論……。


『執事喫茶なんですけど……』


「え?! なんでメイド喫茶じゃないの?!」


思わずツッコミを入れる私。だって普通はそう思うじゃん! 女装してメイドしてるって漫画いっぱいあるし!


『なんでって言われても……僕男ですし……』


「ぁ、そ、そうっすね……」


なんだろう、この落胆は。いや、当たり前じゃないか。拓也は男の子なんだから執事喫茶で働くの普通じゃん! どうでもいいが、普通という単語を出すと私達の間では微妙な空気になるので控えている。


『じゃあ岐阜駅まで迎えに行きますね。ぁ、ちょっと男装しててもらっても構いませんか?』


いや、あの……それってもしかして……


『理由は……その、会ってからで……』


「いや、分かるよ! どうせ急な用事で来れなくなったバイトの補充だよね!? どうせ日曜だし急な用事っていってもデートだろうけど!」


『あ、はぃ、その通りです……ごめんなさぃ』


いや、別に拓也が悪いワケじゃ……あぁ、もう、そんな子犬みたいな声で頼まれたら……っ


断れるわけないじゃないっ!


内心ワクワクしてる自分が居るし!


「わかったから、私は男として通せばいいんだよね?」


『は、はぃ……その、埋め合わせはまた今度……』


むふふ。埋め合わせかぁ。じゃあ今度は女装させてメイド喫茶行くか……。



☆んで、現在★



「畏まりました、少々お待ちを……」


四番テーブル、二名のお嬢様からの注文を伝票に打ち込む。こう見えて私は昔ファミレスのバイトをしていたのだ。伝票を打つなど朝飯前だ。実は本当にまだ朝飯食ってないけど。


「あ、ぁの……執事さんは……おいくつですか?!」


「あのあの! お住まいは何処に!?」


二名のお嬢様は目をキラキラさせながら私を見つめてくる。

やべぇ、これで実は女なんですとか言ったら食い殺されそう……。


「申し訳ありません、お嬢様方……プライベートなご質問にはお答え兼ねます、ですがその分……当店で、ごゆっくりお過ごしください」


ペコリとお辞儀して立ち去る。後ろでキャーキャーッ、と黄色い声がする……。やばぃ、ぶっちゃけ私……滅茶苦茶楽しんでます。


 この執事喫茶は何気に路面店。しかも外観も普通の喫茶店と変わらないから女子は入りやすい。たまに何も知らない男子が入ってくる程だ。店内も全体的に木目調で落ち着くデザイン。マジで普通の喫茶店じゃないか、と思ったが……ここの店長のモットーは寛げる空間で、なおかつ執事が接待してくれるという非日常を味わってもらいたい、との事だ。


たしかに寛げそうだなぁ、私も今度お客としてくるのも悪くないかも……。


そんな事を思いつつ厨房へ。


「オーダー入りますー。執事のお勧めフルコース二つ、一つはサービス付きでお願いしますー」


「うーす」


執事喫茶とは思えない、かったるそうな声で返事をするコック。現在厨房には二人のコックがいる。ゴツイ体に何故かサングラスを掛けて料理をしている人。そしてもう一人は茶髪ロングでジャ○ーズのメンバーじゃないかってくらいのイケメン。何故お前が厨房に居るんだとツッコミたくなるが、私はなんとか堪えている。


まあ、何かと個性的なメンバー多いな、この執事喫茶……。


私を含めて店内には三名の執事が居る。一人は私の友人、女装男子の柊拓也。ここにいる女子達の間では可愛い執事が居ると評判らしい。そして二人目は……


「晶さん。先程の接待は見事でした。私も見習わなければ……。いっそこのままバイト続けませんか? 急にデートを理由に休んだゴミ野郎など切り捨てますので……」


「え? ぁ、はぃ、考えときます……」


「よろしくお願いします。あぁ、何か困った事があれば私に言ってくださいね。こう見えて執事長なので」


そのまま立ち去る執事長。クール眼鏡と評判らしい。確かにカッコイイが……なんか結構毒舌……。


拓也は普段こんなメンバーに囲まれてバイトしてるのか……。


「すみませーん」


むむ、お嬢様からお呼び出しが……と、速足で向かう私、執事。


「あのぉ、さっきコーヒー頼んだんですけどぉ……まだですかぁ?」


ん? マジか、私は受けてないけど……おのれ、ベテラン二人が注文漏らすとは弛んどる!


「申し訳ありません、お嬢様。ただいまお持ちしますので……」


「あ、持ってくるならアノ子がいいんだけどぉ……?」


なんか一々イラっとする喋り方だなっ……このアマ……ん? あの子って拓也の事か。


「わかったー?」


「ぁ、は、はぃ、畏まりました」


一礼しつつドリンクバーに行きコーヒーを注ぐ。その時、拓也が通りかかったので文句を言っておく。


「拓也、コーヒーの注文受けてた? なんかまだ届いてないって……」


「え? 僕受けてませんけど……。央昌(かねまさ)さんじゃないですか?」


央昌ってあのクール眼鏡か、おのれ……執事長の癖に……。


「いえ、私も受けてませんね」


いきなり背後から話しかけてくるクール眼鏡。びびった……気配だせよ、どこの悪魔だよ。


「じゃ、じゃあ……誰が……」


謎の四人目の執事が居る……! ヤヴァイ、ホラーか?!


「恐らく嫌がらせの類いでしょう。たまにあるんです。文句をいいつつ執事にイタズラしようとする方が……。しかし下手に事を荒立てたくありません。そのお客様は誰か指名されましたか?」


「え、えっと……拓也に……」


え、僕?! とあからさまに嫌そうな顔をする拓也くん。そうだよ、君なのだよ。イタズラされてこい。


「い、いってきます……」


微かに震えながらコーヒーを運ぶ拓也。私とクール眼鏡は何か気になるので、ホールの隅っこの柱から覗き見る。


「お、おまたせしました、お嬢様……。もうしわけありません……」


「ぁ、ほんと待ったぁー、ウフフ、でも許しちゃう。可愛いから」


と、お尻を撫でる見た目二十代後半女。マジか、セクハラだぞ。電車の中なら一発退場だぞ!?


「ねえ、貴方さぁ……もし良かったらこのあと付き合ってくれない? イイコト教えてあげるぅ」


うっわ、マジか。キャバクラじゃないんだから……。


「あのっ、プライベートなご要望にはお答え兼ねます……っ」


おお、しっかり断った。それでこそ私が見込んだ男だ!


「あら、そぅ? じゃぁ……」


すぅ、といきなり女が深呼吸し……


「きゃぁー! な、なに?! いきなり何すんの?!」


なんか叫び出した。

拓也はオロオロしだし、クール眼鏡も舌打ちしながらメガネを直している。


「え、なんですか、アレ……」


「見て分からないんですか……。拓也が痴漢したと言いだす気ですよ。恐らくそれを脅しに無理やり連れだす気でしょう」


え?! 脅すって……もうすでに実行してるやん! このままじゃ拓也痴漢にされちゃうの?!


「ちょっとぉー! 何すんのよぉ! いきなり胸触るとかマジ最低ーっ!」


「え、え? ぼ、僕は何も……」


いかん、拓也が泣きそうだ……、私が守ってやらねばっ……と飛び出すがクール眼鏡に手を掴まれる。


「落ち着いてください。今出て行っても場が混乱するだけです。心配ないですよ、拓也は人気ありますから……周りのお嬢様方が守ってくれます」


むむ、そうか。普段から可愛い可愛いって言われてるんだ。あんなアホな女……他のお嬢様方にフルボッコにされて終了……


と、思いきや……周りは思いっきり引いていた。拓也がオロオロするのを見て、ホントに胸を触ったのかと疑うお嬢様まで居る……。


「ぁ、ぁの……僕ホントに何も……」


いかん、ホントに拓也が……このままでは……


「ちょっとぉ、警察呼ぶわよ? ほらぁ、どうしてくれるのー? もちろん……」


むむ、ゴニョゴニョと女が何か耳元で喋ってる。恐らくは付き合わないとマジで警察呼ぶぞって脅してるのか……。こんな時こそ……執事長! クール眼鏡出動だぁって居ねえ!


何処行った?! 


「あいつなら便所入ったぜ。こういうの弱いんだわ」


厨房のイケメンが言い放ってくる。ちょっと待て、そんなんで執事長なんて大役やんなよ!

そしてまだ女の嫌がらせは続く。


「ほらぁー、どう……落とし前つけてくれるのー?」


く、こうなったら……これだけは……したくなかったが……。


拓也に絡む女の元に向かう私。

そのまま拓也の肩を掴んで後ろに隠しながら


「お客様、私の妹が何か?」


言っちゃった……。

数秒、時が止まる。周りのお嬢様も含めて。


「は……? 妹? な、なに言ってんの……アンタ……」


「ですから。私の妹が何かしましたか?」


女は震えながら、後ろに隠れた拓也を見ようとする。だが元バスケ部のディフェンスを舐めんなよ! お前に拓也はもう見せぬ!


「ちょ、ふざけないでよ! そんなワケないでしょ?! 証拠見せなさいよ!」


証拠……ごめん、拓也……。


「どうぞ」


スマホを出して拓也と私の男女入れ替わりコスプレしてる写メを見せる。


拓也が女子高の制服を。私が男子校の制服を着てる。


「えぁ?! な、な、な……」


「分かりましたか? それで? うちの妹が何かしましたか?」


堂々と良い放つ。女は口をパクパクさせながら


「ふぁっ……な、なにも……なにもないわよ! お、女のくせにこんな所で働いてんじゃないわよ!」


捨てセリフを吐きながら、ちゃんとレジでお会計を済ませて出ていく女。

さて……ここからどうしようか。

周りのお嬢様方は勿論だけど、バイト仲間にも拓也が女って事に……


「ぁのー……」


と、その時一人のお嬢様が手を上げて発言を求めてきた。


「なんでしょう、お嬢様」


「そういう貴方は女の子ですよね……えっと、さっきあの人に見せた写真……私にも見せて貰えませんか……?」


げ、バレてた?


やばぃ、分かる人が見れば分かる、拓也が女装してるって事に……。いくら男の娘が流行ってるからって……皆が皆、いい印象を持ってるわけじゃない。むしろ拓也ほど可愛くなれてしまうのは……女にとっては憎たらしい事この上ない。


どうしよう、と……悩んでいたその時


「待たせたな」


クール眼鏡の声がした。


私、拓也、そしてお嬢様方は声の主を見る。


そこに立っていたのは……高身長のゴツい体で明らかにサイズの合わないメイド服を着用している執事長。


その場にいる全員の頭に?マークが浮かぶ。


(何してんの……コイツ)


「お嬢様方、申し訳ないが……この店はこういう店だ! 男だろうが女だろうが、好きな格好をして接客するのがモットー! 文句があるなら出て行ってもらおう! お嬢様方!」


えぇー! そ、そうだったん?! 初めて知った……。いや、私バイト一日目だけど……。


拓也の顔をチラっと見る。あの世の物を見てしまったような目でクールメガネを見つめていた。やっぱりか、クール眼鏡の自作自演か。しかしここは全力で乗っからなければなるまい。


「そうですよ……私も女です! でも私は男装がめっちゃ好き! ついでに言うとお嬢様にキャーキャーいわれて興奮してる! こ、ここでバイトするの楽しくて仕方ないんだから!」


ぁ、引いてるかな? 引いてるよね? ヤヴァイ、もう終わりや……。私の執事喫茶はここで終了なんや……。


「ぼ、僕も……」


ん? た、拓也?! む、無理しなくていいんだよ?!


「僕も……じょ……」


「いやぁー……ぶっちゃけ……バレバレだったよね、そこのお姉さんが執事やってるって……」


ん?! な、なんだ? え、皆頷いている?! ほんとにバレバレだったの?!


「うんうん、どうりで……拓也君も可愛すぎると思ったんだよねー、今度はメイド姿で接待してよーっ」


「ぁ、私も見てみたいーっ、拓也君……? あれ、でもホントの名前はなんて言うのー?」


あ、あれ? なんか話が……おかしな方向に……


いや、私が言ったんだけど……拓也は私の妹だって……

ごめん、拓也……私余計な事しかしてねぇ……。


「ぼ、僕は……男です……」


その時、小さく呟く声を誰も聞き逃さなかった。そしてお嬢様方もなんとなく察していたのか、対して驚く事はなかった。


「僕は……女装が趣味の……変態……です。で、でも……僕……」


拓也……無理すんな……


「あのオバサンの胸なんか触ってません!」




ピシ……と空気が割れる音がした。


あ、そっち? っていうか、そうだよね、高校生の拓也からしてみれば見た目二十代後半なんてオバサンだよね……なんか全国の二十代後半敵に回したみたいで怖いけど……。


その時、店内から笑い声が……決して拓也自身を笑う声じゃない、拓也の言った事に笑っている。


「拓也君可愛い……」


「なんか……面白いね、この店……」


「変な人一杯いるしね、あのメガネの人が特に……」


うぅ、クール眼鏡……お前、確かに執事長の器だよ……! そしていつまでそこで仁王立ちしてるつもりだ……!




 こうして、そのあと大した問題もなく私の執事喫茶、一日バイトは終わった。


んで、後日談だが……クール眼鏡は実は拓也が女装している事を知っていたらしい。っていうかそれがキッカケで今のバイトに引っ張ったんだそうだ。最初は女装癖を直させる為だったらしいが、拓也の気持ちを理解してお店にメイド服を準備していたらしい。

あのサイズの合わないメイド服は拓也用だったのか……。

何かの切っ掛けさえあれば着せるつもりだったらしいが。


そしてあの執事喫茶は客層に多少の変化が生じた。


拓也のメイド姿に魅せられた男女が通い詰めているらしい。


「晶君。君もいつでも執事姿で来てくれたまえ、なんだったらメイド服でもいいぞ」


んで、これも後日談だが……クール眼鏡は店のオーナーだった。


「まあ、気が向いたら……」



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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうとこで飲むコーヒーは高そうですね……笑
[良い点] ヤバいぐらい面白いです! めっちゃ笑ってしまいました。 この喫茶店、どこにあるんですか? 行ってみたい……。 [一言] もう、朝から笑いを堪えるのに必死でした。 ものすごい神設定! 執事姿…
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