第6回 技
だけど青波くんは受け取らず、その下に居たPFの累くんが来た。僕はそんなことなんか知らなかったので、ビックリしてしまった。累くんといつそんな会話をしたのだろう。
累くんは受け取るとふぅっと息を吐いた。目の前にいる吉田 一樹先輩が少し引いた。まあそんな目付きで見られたら誰しも怖がって引くだろう、と思った。
だが累くんはもう一度僕にボールを戻した。目で累くんが“行け”と僕に合図した。
僕は深呼吸をしてドリブルをゆっくり突く。目の前にいる燐さんがボールに気をとられている間、バックチェンジ。左手に移ったドリブルを低く二回ほど早く突くと、そのまま姿勢を低くして抜こうとするが、あっさり止められてしまったので、ターンをして回避。そしてレイアップを使用と思うがダブルチーム。
「碧波っち!」
「奏多!」
そう叫んで声のする方に直感で後ろ向きのパス。その表紙に僕は前に倒れてしまった。手を付いて立ちあがり、直ぐ様奏多の方を見ると、シュートモーションに入っていた。そのラインはスリーポイントライン。目はすごく真剣な表情をしていて、ボールを下げずにそのまま縦にジャンプ。そのフォームはとても綺麗で目を奪われてしまった。
放たれたそれは綺麗な弧を描きバックボードに当たらず直接ゴール。奏多の様子は、いつもみたいに元気そうではなく、冷静だった。恰も入るのが普通だと言うかのように。
「ナイシュ!奏多」
「うん、新ちゃんが場所取りしてくれたおかげだよ」
「ありがと。でも今回のフォームはちょっとずれてて微妙だったかな」
「そっかぁ」
「まあ次もあるよ」
「んだね!」
何だか、この二人だけ次元が違う気がしてならなかった。それに比べて僕にはまだ相棒が居なくて、なにもできない。
新一と奏多のコンビは、今後使えるかもしれないと言う確信が持てた。
僕はこの二人に得点を任せるという攻めかたを思い付いたが、もしも奏多のシュートが一〇〇%じゃ無かったらと考えると、累くんと青波くんも使うしか無いと思った。
だけど今はそんなことを考えている暇なんて無い。今は守る側なのだから。
僕はボールマンを見つつ後ろの人たちの配置も見たCの新一くんには、三年生のサウスポーエースの鈴木 拓斗さん。PFの累くんには、一樹さん。
一樹さんは三年生のスタメンの中でも一番パワーがあり、一人では押さえられないと言った。
「一樹!」
燐さんの声で我に帰ると、ロングパスで一樹さんい繋いでいた。累くんも険しい表情をしながら守っている。
青波くんは必死に面取りをしている。
「負けません、一樹さん」
「おうよ!その行きだぜ、一年生坊主」
累くんの中では、一樹さんはライバルになっているみたい。
一樹さんの強いドリブル。それに負けじと押さえる累くんの姿は、イケメンそのものだった。だけどやっぱり一樹さんの方が強くて、押されてしまう。そしてターン。フリーになった一樹さんは、シュートを打とうとした。
「待て、一樹!」
部長の凌平さんの声。それは遅く、もう一樹さんは打っていた。だが、一樹さんは誰かにぶつかった。そう、僕だ。
まず、燐さんは一樹さんに目を奪われているところで、僕は姿勢を低くして一樹さんに接近。誰もそんなことに気づかなかったので、累くんにだけ姿を現した。すると累くんはあっさり抜かれてくれた。それを伺い、僕は一樹さんの目の前にいる出現し、ファウルをもらったと言うわけだ。
「やってくれるな、一年」
「正直言って、スッゴク痛かったです。流石三年生のスタメンPFですね」
「ほう」
一樹さんが何を察したのかは分からないけど、これは僕が小学の時に教えてもらった技。背が低いのを生かした、ファウルをもらうだけのために作られた技らしい。
「ナイスファウル、高瀬」
「うん。ありがと」
手を差し伸べてくれた青波くんの手をギュット掴み、立ち上がった。そのときの青波くんの表情が、どこか笑っているような気がした。