第4回 走り込み
走っている最中、ふと何かを思い出した。最近、走っていてもそんなに疲れたりしないなぁと。初めの頃はスッゴい疲れて、筋トレなんかやったら吐くかも知れなかったのに、今となっては普通にこなしている。そんな自分が怖くなった。
一番前にいる累くんは、足が早くて追い付けないくらい。逆に一番遅いのは奏多だ。自分でも、走るのが苦手だと言っていたけど、こんなに遅いとは思っても見なかった。
「ねえ。碧波は、好きなことか居ないの?」
突然新一がそんなことを聞いてきて、驚いた。
「居るわけ、ないじゃん」
「そっか」
「僕、ここに知り合いなんて沙椰ちゃんくらいだし」
一年生のマネージャー、星野 沙椰は、僕の幼馴染みで、よく二人で遊んでいたのだ。気が合う二人は、よくバスケをしては喧嘩しての繰り返しだった記憶もある。
僕は沙椰ちゃんを恋愛対象として見たことがないし、見る気もない。なぜかと言えば長くなるのだが、幼馴染を恋愛対象として見る人なんて存在するのだろうかと僕は思っている。
「沙椰ちゃん?」
「マネージャーに居たじゃん。髪の毛が無駄に長くて、三編みしてる」
「あー。で、どんな関係?」
「ただの幼馴染だよ」
それだけを言うと、スピードを上げて新一から離れた。抜く途中、青波くんとスレ違った。青波くんは僕を見ると声を掛けてきた。
「君、三日月小学校のキャプテンでしょ?」
僕はあなたを見たことがありませんが。
「うん」
「そっか。高瀬は視野も広いんだろ?それに体力もあって、先読みも出来るって言う」
「そうなのかな」
「噂になってた。一回、試合してみたいな。俺とお前のチームで」
「うーん、監督が良いって言うならね」
「じゃあ後で話してみっか」
「うん!」
僕は顔を見たことがなくて、今日話した相手とすぐに仲良くなってしまった。これも僕の能力の一つなのかな。
走っていると、沙椰ちゃんが声を出して僕たちに伝えた。それは監督からの命令だったらしく、僕たちは走るのをやめて体育館に集合した。
「今日、お前たち五人と三年生で試合をしてもらう」
その言葉に僕と青波くんは嬉しくて声をあげてしまった。僕は優秀なFにパスを出せることが嬉しくて仕方がなかった。多分、青波くんはそれの逆だろう。
僕はチームメイトの得意な場所などを分析してパスを出し、使っているのが楽しくて止められないんだと思った。
「ポジションは、奇跡的に揃っているから良いだろう?」
「勿論です!」
僕は大声でそう言った。
青波くんと顔を見合わせては満面の笑みで笑った。多分この人は、僕が上手く使ってあげればとってもいい選手になれると思うと確信してしまった。