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灰被りの勇者と封印されし聖女~疫病神の英雄譚~ 作者:柏もち太郎

一章:かくして疫病神は灰を被る

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021 久方ぶりの幼馴染


 驚いた。
 八雲がレスティアに来て約半年以上が経ったのだが、昨夜、騎士団からの通達がきていたらしい。それによると、今日の昼ごろに勇者の一行が来るとのことである。
 意外な訪問だとは思ったが、それ以上に王城の重鎮たちが許可を出したことに八雲は驚いていた。

 なにせこれから来るのは勇者だ。おそらく来るのは少数だろうが、それにしたって連れてきていいものなのか。
 しかし考えても仕方のないことなので八雲は早速それを放棄した。

 というか、

「もうそろそろ来るのか……!」

 通達が来たと知ったのはついさっき、八雲が起きると同時にリリカが教えてくれたのだ。
 昨夜はテグスとの鍛錬に励んでいたせいで疲れ切っていたから、八雲はすぐさまベッドに入った。
 その結果、泥のように眠った八雲はついさっきの起床になってしまった。

「やくも! やくもの友だちくるんでしょ!?」
「ああ、うん……そういうことになる」
「元気ないぞ! びょーき?」
「安心してくれ、病気じゃない」

 即答。
 ラルカは最近お医者さんごっこにはまっているらしく、これに付き合わされると大変だ。
 訳の分からない呪文を唱えながら祈祷しだすのである。それも延々と続くのだ、軽く地獄を見る破目になるのは明白だった。

「そっかー……びょーきになったら言ってくれれば俺が治すから!」

 しょんぼり項垂れるラルカをなでると、八雲は微笑を向けた。

「そのときは頼むよ」
「おお! まかしとけ!」

 なんとも男勝りな少女である。だがそれが微笑ましく、八雲もいつも癒されていた。子供と遊ぶと何も考えずにいられるから存外楽しめる。
 また今度遊ぶとしよう。

「さて、用意しなきゃいけないよな」

 いつも着ている麻の服に着替えて、八雲はリビングに向かう。そこにはいつもどおりエプロン姿のリリカがいて、テーブルの上には美味しそうな朝食、もとい昼食が並んでいる。
 スクランブルエッグにソーセージ。採れたての野菜が盛られたサラダは新鮮な光沢を放ち、地産の小麦から作られたパンもこんがりと焼き色がついている。

「おはようございます。体調は?」
「おかげさまで快調だ」
「かいちょー?」
「すごく元気ってことだよ」

 リリカが答えると、ラルカは難しそうに顔を顰めた。どうして元気だと言わずに快調と言うのかがわからない、と言ったところだろうか。

「お昼は食べていきますか?」
「あたりまえじゃん!」
「ラルカが答えたって仕方ないでしょ……」
「もちろん当たり前だよなラルカ。まったく、リリカはわかってないな……」
「わたしが悪いんですかっ!?」

 八雲が同意するとリリカは驚愕に目を見開いた。こうやって弄ると面白いからついつい弄ってしまう。けれどリリカも悪い気はしないようだから八雲もやめられないのだ。

「ていうか、もう作ってくれてるんだ。食べないわけないだろ?」
「えへへ……食べてくれると思ってました」
「姉ちゃん顔まっかだなー? 熱あるなら俺が治してやろっか!」
「だ、だだだ大丈夫だよラルカっ!?」

 声を張り上げるリリカ。たしかにその顔は真っ赤で、耳まで朱に染まっている。
 二人の掛け合いに苦笑しつつ、八雲は椅子に座る。並べられた昼食は鼻腔を刺激して食欲を増進させる。このまま待たされたら腹の虫が鳴ってしまいそうだ。
 八雲の隣に座るラルカも待ちきれなさそうにフォークを握っていた。

 八雲がそわそわしながら見つめると、リリカはきょとんとする。しかしすぐに気づいたようで、真っ赤なままエプロンを外して席に着いた。
 四人掛けのテーブルに三人。二人は寂しくないだろうか、なんて考えてみる。

 ──やっぱり邪推だよな。

 邪魔な思考を捨て、八雲は瞑目した。二人も瞑目して食前の祈りを捧げている。

「いただきます」

 待ってましたと言わんばかりにラルカがパンを頬張る。小さな口に詰め込んだせいで、今のラルカは冬眠前のリスのようだ。
 八雲もソーセージを一口食べてパンを齧る。なぜかは知らないが、こういうシンプルな食事でも、王城で食べた豪勢な料理よりよっぽど美味しいと思える。
 リリカが料理上手だということを加味してもおかしな感じだ。
 この感覚は転移前にも味わったことがあった。調理実習で麗華と愛華の料理を食べたときと同じだ。拓哉と聖也も絶賛していたくらいだから二人は相当の料理上手なのだろう。

 視線を感じて顔を上げるとリリカと目が合った。ニコニコしていたリリカは、目が合った瞬間また顔を赤くする。

 ──どうかしたのか?

 咀嚼していたものを嚥下してから、八雲はようやく口を開く。

「どうかしたか?」
「なんでもないです!」

 怪訝な目を向けると、リリカは視線を逸らす。するとラルカがフォーク片手に、

「姉ちゃんはいつもこうだぞ? 知らなかったのか?」
「へえ? そうなのか」
「うん。えっとな、うれしいんだってさ」

 そっか、と呟いて八雲はまたパンを齧る。また赤みを増したリリカを見つつ、八雲は食べる手を緩めなかった。

「じゃ、行ってくる」

 昼食を摂り終えると、八雲は家を出た。ラルカもついてくると強請(ねだ)ったのだが、邪魔はしないでとリリカが止めてくれた。
 八雲としては別にラルカがいてもよかったのだが、リリカはリリカで気を回してくれたらしい。たしかに幼馴染と会うのは久々だが……それにしたって少しラルカが可哀想だ。

 ──後で会わせてやるか。

 さて、もし会ったとしたらリリカや愛華はどんな顔をするのだろうか。
 道中はそんな想像をしていた八雲だったが、突然悪寒がしてきた。なんとなく、なんとなくだが嫌な予感がするのだ。

「麗華とか愛華は……」

 二人に詰問される未来を想定して八雲はげんなりして肩を落とす。
 あの二人のことだ、質問攻めを食らいそうである。ちゃんと生活してるのだとか、そんな他愛もないことばかり。

「あれ?」

 口許が緩んでいる。知らずのうちに、八雲は微笑んでいた。
 歓喜からきているのか、それとも安心感なのか。ただ、やっと会えるのだと思うと自然に足取りが軽やかになる。

 どうしてかな、なんて不思議がりながら歩いていると、

「八雲くぅ──ん!!」

 喜びに満ち溢れた、可愛らしい声音が届いた。

 ──まったく……。

 誰の声かは明白で、しかし八雲は振り返った瞬間、目を見開いた。
 迫る亜麻色、煌めく蜂蜜の瞳──避けきれない!?

「ぐぼぉっ!?」
「元気だった? ちゃんとご飯食べてる!? 大丈夫!?」
「……く、はっ……」

 腹部に衝撃。八雲はそのまま後ろへ倒れ、突っ込んできた少女はその上に重なる。

「よかった! ちゃんと元気だね!」
「どこを、どう見たらっ……そう映るんだ……」

 後ろでくくられた亜麻色の長髪。純白の肌は美しく、蜂蜜色の瞳は真っ直ぐに八雲を見つめている。
 純真無垢にして天真爛漫、ついでに言えば猪突猛進な幼馴染。

「久しぶり! 八雲くんっ」

 そんな少女──西園愛華は満面の笑みで再会を(よろこ)んだ。眩しいその笑顔は、名前のとおり愛らしく、まるで仔犬のよう。
 というか、仕草や行動がもう仔犬そのものだ。

「はぁっ、はぁ……久しぶり、だな」
「うん!」
「元気過ぎるよお前は……」

 やっと呼吸が楽になって、八雲は蟀谷(こめかみ)に手を当てる。
 元気なのはいいがここまで元気となると驚嘆するばかりだ。八雲より小さく華奢なこの身体のどこにそんなパワーがあるのか。まったくもって不思議だ。
 それにしても、愛華は何が楽しくて八雲の胸に顔を埋めているのだろう。麗華に対してやるスキンシップと同じだが……、何か意味があるのだろうか?

「……愛華?」
「ん?」
「その……何してるんだ?」
「……なんだろうね?」
「自分でもわからないのか!?」

 八雲は驚愕した。
 まさか愛華が自分でも理解していないことをしているとは思っていなかったのだ。

「でもこうしたいからこうしてるんだよっ!」
「そ、そうか……」
「うん!」

 もう何を尋ねても同じ反応しか返ってこない気がする。

「今日は誰と来たんだ?」
「みんないるよ?」
「……聖也たちだけじゃなく?」
「最初は私たちだけだったんだけどね。中田くんが行きたいって言ったの。そしたら団長さんがいっそのこと全員で行ってこいって」

 愛華はその笑顔に一筋の影を落とす。
 中田にいい思い出がないのか、それともあれ以来上手くやれていないのか。理由は定かではないが、愛華は今日ともに来たことを喜んでいないのだろう。

「そっか」

 だから八雲は、それ以上は追及しなかった。八雲も中田にいい思い出はないが、今となってはどうでもいい。
 それよりも、早く聖也たちに会って久しぶりだなと言ってやりたい。

「じゃ、聖也たちのところに行こう。そこまでの案内頼んでいいか?」
「もちろん! こっちだよっ」

 表情を一転させて、愛華は走り出す。
 やはりこの少女には明るい笑顔が良く似合う。きっとこの笑顔がこれまで八雲を支えてくれた要因の一つなのだろう。
 八雲は服装を正すと、無邪気に走る幼馴染の背を追った。


    ×   ×   ×   ×


「久しぶりね」

 風になびく黒の長髪はいやに艶めかしい。その瞳には、漆黒の宝石に光を当てたような、そんな輝きがある。
 南條麗華は、真っ直ぐに八雲を見つめていた。

「ああ、久しぶり。調子は?」
「悪くないわ。最近じゃ聖也にも負けないくらいよ」

 胸を張る麗華。八雲は頬を掻きながら「そうか」と答えた。強がりであろうことはわかっているのだが、真っ向からそれを否定するのも面倒だ。
 なにより、久しぶりだからか照れくさい。

「よっ! 元気してたか?」

 肩を組んできたのは北上拓哉。
 愛想のいい笑顔は大型犬のようで、それがどうにも可笑しい。

「お前こそどうなんだ。好きな人とは上手くやれてるか?」
「なっ!? お、おまえなんで知ってんだ!?」
「あんなの見てればわかる。たぶん、かなりの奴らに知られてると思うぞ?」
「……まじかよ」

 目に見えて落ち込む拓哉が哀れになって、八雲はその背を叩いてやる。
 拓哉には想い人がいる。名を赤峰蘭というのだが、その彼女はこの場にはいないようだ。

「あんまりそのネタを突いちゃダメだよ?」
「わかってるよ。別に馬鹿にしてる訳じゃあない」
「ならよかった。それはさておき、明るくなったかい、八雲?」

 王冠のような髪色の青年──東條聖也は朗らかに笑う。元から精悍な顔だったが、しばらく見ない内に決意が宿った感じだ。柔和な雰囲気ながらもその根っこには確固とした意志があるのだと窺える。

「俺は元から明るいって」

 普段から明るく務めていると自分では思っていたのだが……、案外そうでもなかったのだろうか? もし心配させていたのなら申し訳ない気分だ。
 八雲が笑うと、聖也は遠い目をして、

「でも、昔に戻ったみたいだよ」
「そうか?」
「君は気づいてないかもしれないけどね」

 八雲自身変わった自覚はないのだが、周囲から見ると変わったらしい。聖也の言葉に八雲以外の三人が頷いている。

「まぁいいじゃねえか! 八雲は八雲なんだしな!」
「だね! 麗華ちゃんもそう思うでしょ?」
「当たり前でしょ、愛華……」

 困った。拓哉は馬鹿だし、愛華は暢気だし、麗華はすっかりほだされきっている。
 だが悪い気はしない。自分が多少変わっても、幼馴染らとの付き合いがなんら変わらないのなら別にかまわない。

「そういうことだよ」
「よくもまあ恥ずかしげもなく言えるもんだ」
「恥ずかしいに決まってるだろ?」
「ならお前はポーカーフェイスに()けてるってことだな」
「つまり君はポーカーフェイスが下手くそすぎるってわけだ?」
「うぐっ……」

 何も言い返せない。顔によく出るというのはテグスにも言われたことであり、最近では本当にそうなのだろうと思い始めていた。
 八雲はもう一度幼馴染たちを見まわす。彼らはみな笑顔で、本当に楽しそうだった。


 こうして、八雲は幼馴染らとの再会を果たしたのだった。
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