転校生と過去2
「知っての通り彼女は芸能人だ。だが普通の高校生だからみんなも普通に接してあげてほしい」
柳田はいつもより声を張り上げたが、クラス中が、彼女に目線を固定しながら会話していて、少しも聞こえていないようだった。
「千賀、千賀」
後ろの牧原が声をかけてきた。
「なんだよ」
「やべーな。俺、生きてて良かったかもしんねえ」
「そうかよ。そりゃあようごさんしたなあ」
「なんだよ。お前、なんか冷めてんな」
「有名人やから俺一人がキャーキャー言わなくてもみんなにもてはやされんだろ」
「可愛い子好きなくせに。照れ隠しか?」
「あいにく俺の好みじゃない」
「お前の好みって…美穂ちゃん以上とかこの世にいるのかよ?」
「おーいみんな少し黙れ」
柳田はざわめきを抑えるようさらに声を張り上げた。
落ち着きを取り戻したクラスは静かになった。
「さて、いきなりビックリしただろうが明日はテストもある。そこだけは忘れずにしっかり対策しろ。以上。今から体育館移動だ」
クラスは騒がしかった。
そりゃそうだ。
武田美穂なんてのが入ってきたのだから。
雨の登校、始業式の校長の退屈な話、何かと意味不明な校歌斉唱に耐え抜いたクラスのみんなはいっせいに武田美穂に群がった。
まるで餌を前にした鳩のよう。
「なんでこんな勉強以外取り柄のない学校なんかきたの?」「なんの事情?」「お仕事大丈夫なの?」「何でも聞いてね」
武田美穂は苦笑いしながら丁寧に一つ一つ受け答えていく。
ーなんで聞き分けられるんだか。福沢諭吉かよーなんて馬鹿げた一人ツッコミしながら会話を一応盗み聞きしていた。
わかったことは
1.仕事はそもそも土日中心で支障なし。場合により早退あり。
2.引っ越しは家の都合。
3.この高校の理事長と叔父さんが知り合いらしい。
という事だ。
彼女武田美穂は華やかな笑顔を振りまいて、雨のせいで電気を付けても暗く思われる教室内を明るく照らしていた。
ボーッとしていると祐樹がきた。
「啓」
「なんや」
「彼女お前んとこの人?」
「違う。うちみたいな中小プロ所属なわけないだろう」
「でもこの辺に引っ越してきたらしいぞ。この辺で芸能関係っていったらお前んとこくらいだろ」
「…移籍ならあり得るかも。ってありえねえか」
「ん?」
「なんだよ」
「いや。スマホ画面ついてるぞ」
スマホを見るとメールが届いていた。
父親からだ。
「親父からだ…どうせまた手伝いとかやろうな…面倒くさ」
「僕からすれば芸能人に囲まれてバイトなんて羨ましい以外の何者でもないけど」
中身を確認する。…?
「…」
「どうした?」
「よーし席つけ帰りのHRだ」
柳田がやってきて皆席に散らばった。祐樹は訝しげな表情を変えずに自分の席へ戻って行った。
「とりあえずもう打ち解けたみたいだが…一応自己紹介をしてください」
武田美穂が立ち上がる。
「武田美穂です。一応芸能人やってます。家の都合で引っ越したので転入しました。これからよろしくお願いします」
なんという事もない自己紹介だったが拍手が響いた。
「牧原。隣の席だからいろいろ教えてやれよ」
「任せとけ」
「マッキー変な事するなよー」「あいつじゃ心配じゃん」「気をつけてね美穂ちゃん」
一斉に牧原批判が始まった。
俺の後ろ牧原一成は騒ぐだけのお調子者でいつもウザい。
授業中、HR中、場合によってはトイレ中でさえもその無駄に大きい声で話しかけてくる。
まあどこのクラスにも一人はいるよなこういうやつ。
ひょうきん、ユニーク、調子こき、コミカルetc…
「よろしくねー美穂ちゃん」
「牧原さん…ですか。よろしくお願いします」
「やべーなめちゃ可愛い」
「…えへへ。めちゃ嬉しい」
「何でも言ってね。あれからこれからなんでもかんでもお世話するよー」
牧原よ、気づけ。すっげーやな顔されてんぞ。
そして牧原の隣というのを訳すとつまりは俺の斜め後ろと言うわけである。
「俺は紳士だからいかがわしいことはなにもなのですよ」
牧原が自己弁護を続けている時、視線を感じた。
その方向を振り返ると武田美穂がこっちを見ていた。
俺は柳田にばれぬようこっそりと再びスマホ画面を確認する。
ー17時までに美穂を連れてお前も来てくれ。バイトだ。ー
父親からのメールだった。