クリスマスソングと約束
あれから3日たった。
祐樹とは口をきいていないというよりお互い遠慮しあっている感じで気まずい。
なんとかしないととは思わない。あの場面で突き放せばこんな風にギクシャクするのはわかっていたんだ。あれもこれも俺の決断。
ただ一つ俺の決断とは無関係に変わってしまった武田美穂との関係は本気でなんとかしないと今後に関わってしまう。
そんなことばかりに頭の容量を持っていかれていて、歌詞作りはまだあまり進んでいない
今日は土曜日。提出は月曜日…レコード会社との関係もあるし遅れられない。ヤバいヤバいヤバい…
「ヤバい‼︎」
「のあ⁈」
俺が大声をあげると妹の萱がおおきくのけぞった。
「兄さんリビングの真ん中で大声を出さないで。うるさいです」
「この歌詞完成させなきゃ来月の学食代に充てられる金が減るのだよ!これが叫ばずにいられるか!」
前述のとおり俺はバイトによって父親に養ってもらうというギブアンドテイクの方式を取られているので期限におくれると父親からの手当が減ってしまう。つまりいちいち朝早起きして弁当を作るか、昼飯をなるべく安いものである程度の期間を凌ぐかという地獄を味わうことになってしまうのだ。
「どんなテーマなの?」
「発売時期考えるとクリスマスソングかなと思ってんやけど…」
「クリスマスソングねぇ」
萱は少し考えるそぶりをしてから
「わたしには分からん世界です」
と突き放した。
「まあお前のアドハイス聞くとヘンテコ歌詞になるからあまり介入せんでくれ」
「ヘンテコとは失礼な!」
ブーブー文句を言ってくるがこいつには前科がある。
「お前はもうイモムシの歌を忘れたのか?」
「うっ…あれはたまたまです!わたしが本気出したら兄さんぐうの音も出ませんよ」
萱は少し前にわたしも手伝ってみたいですと言って春の歌作りを手伝ってくれた…はずだったのだがそのあまりの酷さに結局俺一人で作った経緯がある。
「桜の季節風が吹き〜イモムシと共に花が舞う〜蝶になるのを夢見てイモムシたちはfly again…」
「うわあああ!それは黒歴史…」
今考えるとこの歌詞クソおもろいな。自分で歌いながら吹き出しそうになってる。
「クリスマスソングなら題材が明確じゃないですか?サンタとか雪とか」
「歌詞書くときはむしろ絞られない方が楽なんだよ。自由すぎるとイモムシみたいになるけどな」
「兄さんのイジワル」
萱が上目遣いに睨んでくる。こいつイジルの楽しいな。
「兄さん。それなら母さんのノートに何か書いてないのですか?」
母は死ぬ前にノートに俺と萱への遺言のようなノート、正確には今後の俺たちへの激励を書いたノートを残していた。
そこには俺たちへの詩が書かれていて、とても心に響くものだったのだ。
でも
「母さんの後追いみたいな歌詞を書いてちゃいけねえよ。自分で決めなきゃ」
「自分でですか…この際仕方ないのでは?」
「だめだ」
そう、自分で決める。いままでもそうやって歌詞を書いてきた。
「でしたら座ってても無駄でしょう。どうですか?気分転換がてら買い物に行きましょう!」
「それ、お前がいきたいだけだろ?」
まあ気分転換も悪くないかもしれない。確かにウンウン唸ってても埒があかない。
それにギター弦買わないといけねえしな。
「まあ用事あるし行くか」
「行きましょう!わたし新しい靴ほしいです!」
「自分の小遣いで買えよ」
「…ケチ」
そうして俺たちは街へと出かけた。