試験と私見4
「美穂ちゃんもうこの街に戻ってたんだね」
「…おじいちゃんがこれから忙しくなっていくだろうから一人暮らしはどうだって」
「一人暮らししてんの?!スターは大変だね〜」
武田美穂は神社の方を向いたまま見理の方を見ようとしない。
いわゆる修羅場ってやつだろうか?一方的に押されてる気がするが…
「で、その立場になってけいちゃんを見下しに来たと?」
「おい!見理!どういう…」
「違う‼︎」
武田美穂が初めて見理の方を向いた。
俺の言葉を遮って武田美穂は必死に言葉を続ける。
「見下すとかそんなんじゃない!…ゼッタイに違う」
「じゃあ…」
「見理。そのへんにしとけよ」
俺の言葉を無視して見理は続ける。
「なんでわざわざけいちゃん父さんのプロダクション選んだの?」
え?
てっきり俺は父さんが昔馴染みとしてスカウトして引き抜いたとか、昔の知り合いらしいから武田美穂の家の人とプロダクションが話をつけたとかそんなんだと思っていた。
こいつが自らこのプロダクションを選ぶなんて頭に浮かんでいなかった。
「お前が自分で選んだの?」
武田美穂はこちらを見て言った。
「そうよ。昔から知り合いだったし、安心だと思って…」
当の俺は忘れてるみたいなんだかな。
「ふーん。まあいいや。わたしとけいちゃんの仲に入ってこないでね〜」
「おい。俺はお前と親密な関係になった覚えはねえよ。こいつが入ってくる仲なんてそもそも存在しない。」
「またまた〜照れちゃって」
「わたし帰るね」
武田美穂は、突然走り出していった。
「おい!話の続きが気になるやろ!」
武田美穂は俺の言葉なんて聞こえてないみたいに猛烈なスピードで走っていった。
「ふふん。あんな子けいちゃんに近づかせないんだから。」
「なんの話なんだよ?結局」
「昔の因縁よ。けいちゃん忘れてるみたいだけど…それよりけいちゃん。二人きりだし、デートしよ!」
「しねえよ。バイト残ってんだよ」
「まーたバイト?つまんない」
「バイトなくてもしねえけど」
「むぅ…けいちゃん」
見理の声色が変わったので、見理の方を見る。
「美穂ちゃんには気をつけてね」
「なんでそんなに警戒してんのかわかんねえよ」
「けいちゃんは忘れてるみたいだけど、わたしは許してないから…」
見理のいつになく真剣な表情に背筋が凍る気がした。
「なんかあったらわたしを呼んでね〜あの子の秘密あれやこれやバラしちゃうから」
テヘッなんてやってるけど言ってることこええよ。俺も下手な動きしたら痛い目に会いそうだ。
「じゃな」
一刻も早く退散するのが得策だ。
「また逃げる〜けいちゃんの秘密バラしちゃうゾ」
「可愛く言ってもダメだ。それにお前は人の秘密はその人のいる場面でしかバラさないだろ?陰口が嫌いなのかどうかは知らないけど」
見理はゼッタイに陰口のように秘密をバラさない。そこだけは評価に値する人間だと思っている。
「それは、陰口なんて叩くより、本人の反応がある方が説得力増大するからだよーん」
前言撤回。評価するところはこいつには特にない。