試験と私見3
校門のところで武田美穂が待っていた。
…周りに野次馬を連れて。
「今度の曲はね〜…あ!来た来た!遅いよ〜…ってなんかげっそりしてるね」
武田美穂が話しかけると周りの野次馬が一斉に俺を睨みつける。
こいつは何者だ?美穂ちゃんの知り合い?ってかなんか近寄りがたい雰囲気。みたいな声がブツブツと俺に向けられる。
「待ち合わせしてねえやろ…」
「待ち合わせしても多分あんた無視するでしょう?」
「かもな」
無視?こいつは美穂ちゃん相手に何様?てか目付き悪!ブツブツブツブツ
「なんか用あんのか?」
「チョットだけ付き合ってくんない?仕事のことでさチョットだけ」
仕事?こいつは芸能関係者か?こんな奴が美穂ちゃんのマネ?あっでもよく見れば顔立ちはかっこいいかも。ブツブツブツブツ
はぁ。ただでさえ機嫌悪いのにこのブツブツ攻撃は余計に俺を煽ってくる。ウゼエ。
「どっか行くんなら早くしてくれ。この野次馬達が気持ち悪い」
ザワザワ
こいつ今来たくせにいきなり俺らのことウゼエ呼ばわりしたぞ!ちょっと美穂ちゃんと知り合いだからっていい気になってんのかこいつ。顔はいいのに…残念ブツブツブツブツ
「はいはい。じゃあねみんな」
「「「また明日」」」
頭痛い朝からの体の痛さのうち頭だけずっと痛かったのにさっきのといいこの野次馬の声といい頭痛促進剤みたいに作用してやがる。
俺と武田美穂はなんとなく歩き出した。
「どこ行くの?俺頭痛ぇんだけど」
「神社」
「は?」
「チョット相談があるのよ。さっきもいったじゃん」
武田美穂はニコッとして俺の先を歩く。
風が武田美穂の髪を舞い上げる。「キャッ」とか言って頭を左手で、スカートを右手で抑える。
ーけいちゃんなんて嫌いだ!いつもいつも私の先を行ってるのに…そんなんじゃお仕事なんてやめちゃえ!ママたちは仲良いけど私はあんたとなんか仲良くしないん…キャッー
そういえばこんなことを言われた時、彼女も同じような仕草をしていたっけ?記憶の奥底すぎてよく思い出せない。彼女は今どうしてるのだろう?
「あのね千賀くん」
いつの間にか神社に着いていたらしい。
「なに?」
「今日さっき社長からこんなメールが来たんだけど」
そう言ってスマホを見せてきた。
ー我が事務所での美穂ちゃん移籍デビュー曲は啓が作ってますので意見があれば彼へー
…は?
「あれ?たしかあの曲は…お前のじゃなかった気がすんやけど」
「そもそも私が驚いたのは千賀くんが曲作ってるってとこだよ」
「ああ。プロ雇うより安いけん」
「女の子の歌だよ?大丈夫なの?」
「それは俺なんかに女子が歌う曲なんか作れないと言いたいのか?」
「千賀くんがキュンキュンする曲なんか作れないと思ってるけど」
「それはおまえの偏見、私見やろ?まあでもキュンキュンは無理やな。バラード系ならなんとか」
「とにかく!いい曲にして欲しいってことを言いたかったのと、あとさ…」
「あと?」
「冬に出すだろうからクリスマスソングがいいな」
「それはそのつもりだったよ」
「ならありがと」
武田美穂は本当に嬉しそうにハニカミ笑顔を見せた。
いつもこのくらい素直なら…仕事の話だから少し芸能人武田美穂がでてきてんのかな?
「さあさあ、お参りしましょ〜」
賽銭を入れて鈴を鳴らして二礼二拍手。
「何でそんなにクリスマスソングが歌いたいの?」
「今まで歌ったことがなかったからっていうのと…」
「と?」
武田美穂は一礼をしてうつむくいたまましばらくして決心したように顔を上げると。
「thousand daysの約束…」
「あれあれー?」
武田美穂が話し出した瞬間後ろから声がした。
振り返ると見理がいた。
「げっ」
「げっとは失礼な。せっかく気を落ち着かせてあげようと部活休んで来たのに…」
武田美穂は固まったまま動かなかった。
「武田?どうした?」
「久しぶりだねー美穂ちゃん」
見理が武田美穂に話しかけた。
久しぶり?知り合いなのか?
おそるおそるといった感じに武田美穂が振り向く。
「みぃちゃん…この学校だったの?…」
みぃちゃん?
もうなにがどうなってるのだろうか?
ただ、俺の本能ではここにいてはマズイ、修羅場に巻き込まれるぞ、逃げろという司令を出しているのを聞いた。