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13話 作戦会議

 トルーム砦はフレンシア王国の東方にある砦のひとつだ。

 規模としては決して大きくないが、かつて交通の要衝にあったこともあり、代々重要なポジションの人物が守って来た砦――らしい。


「集めてきた情報では、砦を守るのは『四将軍』の一角、フリッツ将軍よ」


 洞窟内に設置された軍議室で、エリシアが皆に説明する。


 土蜘蛛にとって最大の武器は機動性である。

 古代生物が作り上げた地下洞窟を占有している土蜘蛛にとって、王国内を移動することは容易い。神出鬼没の集団として行動することができるのだ。

 もともと広大な洞窟を作り上げた生物は、磁気を感じる能力を持っていたようで、洞窟のほとんどは磁鉄鉱の眠る土地へ続いている(余談だが、俺の世界で言えば、渡り鳥は磁鉄鉱を追って移動していたらしい)。この地下通路は、途中で自然洞窟に突き当たって複雑化した構造のため、常人ではまず間違いなく迷って出られなくなるのだが、魔法によって磁気を感じられるエリシアだけは、正確に道を辿ることができる――要するに、この地底世界を活用できるのは、エリシアとその部下だけなのだった。


 現在、俺たちがいるのは、もともといた隠れ家から東に二日ほど移動した場所にある第二拠点である。

 トルーム砦に最も近い拠点だ。


「四将軍って?」

「コタロー君は知らないのも無理はないわね。って言っても、名前の通りよ。王国軍において、大将軍の次に偉い四人のこと。と言っても、フリッツ将軍は、はっきり言って親の七光りでその座を継いでいるだけの小物みたいね。王国としても『名家だから雑な扱いはできないが、重要な場所を任せるわけにはいかない』って判断したんだと思うわ。トルーム砦が要所だったのは昔のことだしね」


 昔はちょうどこの砦が国境になっていたらしい。

 その東側の国は現在フレンシア王国に併合されたため、この砦に攻め入る者は今のところいない。


 フリッツ将軍はそんな現状をあまり理解しておらず、重要拠点を任されていると思い込んでいるらしい。


「要するに、最初の標的としては理想的ってわけッスね」


 土蜘蛛は、はっきり言って、今すぐに王都へ攻め込むことも可能だ。地下洞窟は王都の近くにも続いている。

 しかし、反乱の気風を国内に作り、呼応して旗揚げする仲間を得るために、実績を作ってアピールする必要があるのだ。

 無能ながらも地位は高い将軍が守り、歴史的に重要な場所であり国民にも知られているこの砦は、まさにマリオンの言う通り理想的なターゲットと思われた。


「んー。そう簡単な話でもないと思うけどねー」


 安堵する俺やマリオンと違い、モニカは不安げだった。


「だって、現代では最前線じゃないとはいえ、もともと重要な拠点として建築されたわけだよね? フリッツ将軍がどんな人かは知らないけど、その人の采配に関係なく、砦そのものが攻略困難な要素を持ってると考えるのが自然だよー」


 言われてみればその通りなのかもしれなかった。

 モニカは意外と状況をよく見ており、楽観的な俺とマリオンに釘を刺すことが多い。今回の発言も正解だったようで、アルさんとエリシアが大きく頷いた。

 王国軍の事情にもある程度通じているアルさんは、地図を指差しながら低い声で語る。


「砦は左右を断崖に挟まれている。かつて外国だった東側は急峻な坂になっており、砦から一方的に弓矢の雨が降り注ぐような構造になっている……攻めるとすれば、昔からフレンシアの領土だった西側だろう」

「けど、どれだけ無能な人間だろうと、狙われるとすれば西側だというのは予想がつくわ。そちら側の警戒は厳重だと考えた方がいいわね」

「じゃあ、あえて東側から攻めるか?」

「無理よ、坂の上を押さえられるっていうのがどれだけ不利なことか考えてみなさい。ちょっとした魔法で覆せるようなものじゃないわ」


 俺の言葉は一瞬で粉砕された。

 情報によれば、砦の戦力は500人ほどらしい。白兵戦なら、エリシアの魔法で容易く攻略できるだろうが……石の砦に電撃は通じない。

 仮に20%、100人が弓矢を射てきたとすれば、狭い道では十分に驚異的な密度になる。その雨自体は、モニカの魔法で防御できるかもしれないが、結局はジリ貧になるだろう。

 これが平地なら、モニカの弓が活躍できるかもしれないし、無理やり突入することも可能かもしれないが……うーむ。エリシアの電撃が緻密に制御できれば、弓矢を射るための穴を正確に狙うことも可能だとは思うのだが。


「素直に西側から攻めても大丈夫なんじゃないッスか? 砦にさえ辿りつけば、アルさんの毒で扉を溶かすとか、モニカの魔法で足場を作って乗り込むとか、いろいろやり方はあるッスよ。あとは姉御の魔法で瞬殺ッス」

「どうかしら。ボクの魔法は、うかつに使えば仲間も巻き込みかねないから、集団戦ではあまりあてにしないでほしいわ。雑兵の相手は、皆に任せることになるけど、毒にせよ足場にせよ一気に皆が突入できるわけじゃない…………うーん。とはいえ、やっぱり東側の状況が厳しすぎるのよねぇ」


 平地の建物ならともかく、一方向に突入可能部を制限されている状態では、もたついているうちに相手も対応できる。できてしまう。

 単純な戦闘力だけではどうにもならないのだ。


 けど――と俺は思った。


「……難しく考えすぎじゃないか?」

「何よ、案があるの?」

「や、東と西ばっかり気にしてるけどさ。北か南から攻めればいいじゃん」

「はぁ? あんた、話を聞いてなかったの? 南北は険しい崖に囲まれて――」

「だからこそ、だよ。上から侵入できるんだからむしろ壁を乗り越える手間が省けて好都合だと思う。そもそも、崖から攻め入ることができないっていうのは一般論だ」


 普通に考えれば、高い崖から攻め入ろうとすれば、ロープなどを伝って下りる必要がある。飛び降りれば即死だ。

 もたもたと三十人がロープを伝っていては、弓矢の格好の的になる。


 そう……一般論では。


「考えてみろよ。俺たちには、その常識を破る手段がある」


 俺の言葉に、真っ先にハッとしたのはモニカだった。

 俺が彼女に笑いかけると、どうやらエリシアも理解したらしく、獰猛な笑みを浮かべて見せた。

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