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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
Tutorial1 「人はそれをロマン武器と呼ぶ」
9/62

T1-9

 ボスは倒したが、まだ俺には少しだけやることが残っていた。とはいえ、それは面倒でもなんでもなく、ささやかな演出を履行するだけだ。


 床に突き刺さったまま残されている青い両手剣に近づき、ゆっくりと引き抜く。すると両手剣は俺の手の中で消え、代わりにアイテム入手を知らせるポップアップウィンドウが空中に出現する。


――〈ファルスクエア〉。


 それが、あの青い剣精の持っていたスフィアーツだった。レベルはボスと同じ120。今のアビリティ構成では俺の最大MPは100なのですぐには使えないが、帰ったらすぐにでも試し斬りしたいところだ。


 剣を引き抜いたことで、部屋の入り口が開く。そこから見える景色は何度も通った扉の前の部屋なのだが、ここから見るとなんだか新鮮だ。


 扉をくぐると、エリが満面の笑みをもって迎えてくれた。


「やりましたね! 最後の必殺技でボスのHP残ってたらどうしようかってドキドキしちゃいましたよ!」


 こうやって他人の成功を自分のことのように喜んでくれるのはエリの美点だと思う。しかしエリの言うとおり、最後のあれは賭け以外の何者でもなかった。もしあのラッシュで倒しきれなかったら、俺はすべての攻撃手段を手放すことになっていたのだから。それ以前に、〈ダインフレス〉を起動して状態異常を一つ貰った時点で大博打だ。


「ああ、だが、なんとか間に合ったな。まだ期限までは一時間以上あるけど、さっさと帰ろう」


 〈ファルスクエア〉をギルドホームに届ければ依頼のほとんどは達成。あとは検証班と協力して、もっと簡単にボスを倒す方法と、〈ファルスクエア〉活用法を考えればいい。最後はそれ専門のメンバーが動画にしてどこかにアップロードするはずだ。


 と、俺はそこで拍手が響いていることに気がつき、帰路へと向けていた足を止める。


「誰だ!」


 俺が言うと同時に、「英雄碑」へと繋がる通路を塞ぐようにして人が現れた。


 胴体や足など、要所を守る金属板。関節などの可動部には動きを阻害しにくいチェインメイル。中世ファンタジー系のゲームではよくあるコスチュームだが、そいつの鎧は不気味という一言に尽きた。


 鎧の形は、特に変わったところはない。だが黒を基調とした頑丈そうなそれに、血管のように赤い線が無数に刻まれていれば話は別だ。トゲトゲした装飾がないぶん、その不気味さをいっそう際だたせている。


 そして、顔を覆うのはなんとも名状しがたい表情をした仮面。そこだけ白く光を反射しており、暗いところで見ると顔だけが浮いているように見えるだろう。


「レベル120のオリジナルスフィアーツ持ちを倒すとは、いやはや、すばらしい。英雄相談所所属、『呪剣使い』のガルド殿?」


「誰だよ……」


 そう言いつつ、俺はこの男が何者なのか九割方察していた。というか、動画コミュニティサイトでは結構な有名人である。


「失礼、立ち会いを望むならば、こちらから名乗るのが筋だな。私の名はゼノルド、見ての通り、〈ラグナロク〉を愛する者」

 

そう言いつつ、ゼノルドは右手に握る剣を掲げる。その黒を基調とした刀身には、男の鎧と同じように、血管のような赤い線が無数に刻まれていた。レベル120の片手剣系スフィアーツの一つ、〈ラグナロク〉だ。


 その雰囲気に、俺とエリは一歩後ずさる。


――というか、引いていた。


 この男は、ギルガメッシュ・オンラインの中でも特に「変態的な」ロールプレイングを行うことで有名なプレイヤーだ。通り名は、『ラグナー』。HPが減少するほど飛躍的に攻撃力が上昇し、HP四分の一以下で限界突破さえする代わり、起動中は一切HPが回復できない上に回復魔法でダメージを受けるという極端な性能を持つ〈ラグナロク〉を好んで使うことからついた通り名だ。


 そしてなにより、まるで中二病をこじらせたかのような好戦的なロールプレイと、その気色悪い鎧で有名である。だがそのプレイヤースキルは本物で、プレイヤー主催のPvP大会でも上位に食い込んでくるほどの実力がある。


 そしてそんな廃人プレイヤーのことを、ネットの住民はこう呼ぶのだ。


――医者が黙って首を横に振るシリーズ、と。


 いや、しかし、だからこそ、俺たちの今置かれている状況は悪い。やつは確かに、「立ち会い」と言ったのだ。


「あの……ゼノルドさん。今わたしたちは、ボスを倒したばっかりで疲れているんです。ちょっと帰らせてもらえませんか?」


 普通、ボスの貴重なドロップ品を手に入れた相手に対してプレイヤーキルを行うのは、いらぬ恨みを買う行為だ。ダンジョン内でプレイヤーを倒すと、そのプレイヤーが持っているアイテムを奪うことができるのだから当然だ。だが、この男は首を振って見せた。


「英雄相談所のプレイヤーとまじめに戦うことのできる機会は少ないのでな。だが、今君たちは私と戦わなければならない。理由は説明するまでもないだろう」


 俺は思わず舌打ちする。この男は、俺が手に入れたボスドロップ品が欲しいのではなく、俺と戦えと言っているのだ。しかも、おそらく今日ずっとここで隠れていたのだろう。隠蔽系スキルとアビリティ〈看破阻害〉を併用すればできない芸当ではない。


 はた迷惑な。


「だったら、このまま戦えとか言わないよな? 俺は今ボス用のアビリティ構成だし、スフィアーツだって一個も起動していないぞ?」


「ちょっと、ガルドさん!」


 見かねたエリが声を上げる。こんな風に交渉し始めること自体が、戦うことを容認している意志表示。エリは戦わない方に話を持っていこうと思っていたのだろうが、おそらくそれは無理だ。もしできたとしても、それをエリが行うということが問題だ。きっとステルス罵詈雑言の嵐で、印象が悪くなってしまうに違いない。仮にも、こいつはギルドの顔役みたいなものなのだから。


「無論、お互いの力を存分に出し合おう。だが私も調整はさせてもらおう。これでも、隠密用のアビリティ構成なのだからな。ついでに、そこのお嬢さんも強化魔法で支援してもいい」


 俺は再度舌打ちをする。こいつ、完全に俺をなめてやがる。


 だが、好都合だ。今のエリは大量のバフを使えるし、予備のアビリティも大量に持っている。カスタマイズは問題なく行えるし、もしここで負けたとしても、落とすのはボスのドロップ品と〈ファルスクエア〉だけだ。まあ、それが問題なのだが。


「いいんですか?」


 エリが不安げに耳打ちしてくる。俺はうなずくと、


「大丈夫だ。策はある」


 安心させるように言い、にやりと笑ってみせる。その様子に、エリはため息を吐いた。


「ガルドさんも同類だったなんて……」


「おい、変な勘違いすんな」


 それから俺はアビリティ構成を変更し、対人戦のためのものにする。エリが俺に状態異常魔法を八つかけ、〈ダインフレス〉と〈クラウ・ソラス〉を起動、さらに強化魔法をめいっぱいかけたら完了だ。ついでに、エリ自身にはこっそり〈レジスト・エレメンタル〉をかけさせておく。


 その様子を見届け、ゼノルドは〈ラグナロク〉を構える。


「では、参ろうか。君からやるがいい」


 そう言われれば、先手を打たない理由はない。俺はぐっと姿勢を落とし、次の瞬間には飛ぶような速度で駆けていた。右手に持った〈ダインフレス〉を突き出し、相手を刺し貫かんとする。刃には緑色のライトエフェクトを纏わせるおまけつきだ。


 ゼノルドも俺を迎え打つべく、体に力が入るのが動作として伝わってくる。


 が、俺がゼノルドと接触する前に、後ろでエリが杖を振る。発動した魔法は炎属性上級魔法〈エクスプローション〉。しかも〈スペルブースト〉を三つ装備し、消費MPが60も増加しているものだ。


 見たところ、ゼノルドのHPは半分を切った程度。まだ〈ラグナロク〉の攻撃力は限界突破していないが、侮れない威力まで上昇したところだ。だがここまで強化した〈エクスプローション〉なら一発で吹き飛ばせる。


――誰が廃人などと正面から剣を交えるか!


 が、その時、ゼノルドは〈ラグナロク〉を虚空に向けて軽く振った。


 直後、俺の目の前で激しい爆発が巻き起こり、吹き飛ばされる。天地がひっくり返るような衝撃のなかで、俺はなにが起きたのか、何とか見ていた。


「あれを跳ね返すのかよッ!」


 俺の目の前で爆発が起きたのは、〈魔法反射〉を装備したスフィアーツの効果によるものだ。〈エクスプローション〉はターゲットの中心に向けて放ち、爆発を起こさせるものだが、ゼノルドはそれを、剣で打ち返したのだ。ターゲットを中心とした魔法は総じて反射するのが難しいのだが、あいつはやすやすとやってのけた。


「剣士同士の戦いに魔法使いが入るのはよくないな。次に介入したら、私はすぐにそのお嬢さんを始末しよう」


 ゼノルドは表情の読めない仮面の中から不快そうに声を出す。


 自分のHPを見ると、1300あったのが400まで減ってしまっている。よく見ると、炎属性完全無効化魔法〈レジスト・フレイム〉のアイコンが消えているのがわかった。続けてゼノルドに視線を移すと、紅いスフィアーツの光と、もう一つ紅い光が浮かんでいるのが見て取れた。


 レベル120魔珠系スフィアーツ〈ランドヴァリナウト〉だ。魔珠系のスフィアーツは手に持っているわけではないので、上手く使えば魔法の発動を気取られないのだ。おそらく、さっきまで紅いスフィアーツの陰に隠していたのだろう。そして、俺に強化魔法解除の効果を持つ〈ディスペル〉を使ったのだ。


 俺は〈クラウ・ソラス〉にセットされている回復魔法でHPを回復し、エリのほうに振り返った。


「エリ、おまえはもう手を出さなくてもいい」


 いくらこちらが二人いて有利だとしても、後衛が狙われると守りきれる自信がない。突進系スキルを止めるのだって至難の技だ。そして俺が考えている作戦だと、今エリが倒されると困る。


「ガルドさんっ!」


「安心しろ。ただで負けるつもりはない。俺が最も平和的な解決方法を見せてやるよ」


 エリはまだ不安げな顔をしていたが、俺は親指を立て、振り返ってゼノルドと対峙する。


「というわけだ。だまし討ちして悪かったな」


「ふん、いいだろう。では今度こそ」


 ゼノルドが言い、〈ラグナロク〉の剣先をこちらに向ける。ゲームのなかであることには変わりないが、まるで西洋ファンタジーに登場する騎士(暗黒)のような気迫に、思わず唾を飲み込む。


 俺はゆっくりと〈ダインフレス〉を後ろに引き、体勢を下げる。そのままバネを引き絞るようにして力を溜め……。


 背中側で浮遊している〈クラウ・ソラス〉を左手でつかみ、全力でぶん投げた。


 直後、〈ダインフレス〉で〈チャージ&ダブルスラッシュ〉を発動。俺自身も飛ぶような速度で肉薄する。


 剣を投擲するという予想外の攻撃にゼノルドの反応が一瞬遅れ、投擲した〈クラウ・ソラス〉こそ避けたものの、〈ダインフレス〉による突進攻撃を避けきれず、剣先を腕に食らう。


 だが、その程度だ。浅い斬撃だったために〈ダインフレス〉の追加効果である状態異常にはならず、防御力パラメーターに阻まれHPもわずかに減少しただけ。次の瞬間、ゼノルドは〈ラグナロク〉を振りかぶっていた。


 速い! 片手剣本来の軽さとプレイヤーキャラの超人的な筋力パラメーターもあるが、スキルを使わない斬撃のスピードは俺よりもゼノルドのほうが明らかに速かった。俺は斬撃を逸らそうと〈ダインフレス〉をかざし、なんとか防御はしたがその垂直斬りの剣先を胴体に食らう。しかしそれだけで、俺のHPの二割が削られる。


「なッ! おい待て!」


 思わず叫びながら全力で後退する。ゼノルドは深追いするつもりはないらしく、ゆうゆうと〈ラグナロク〉を構えていた。


 このゲームの攻撃は、攻撃の当たり方によってダメージ量がかなり違う。直撃すれば数値以上のダメージが出て、逆にかすっただけならばその威力は四分の一以下にまで下がる。防御力を上げていれば、たとえ限界値の攻撃力でもかすっただけではほとんどダメージを受けないのだ。


 だが、今、俺のHPはやつの剣がかすっただけで二割も持っていかれた。それが意味するのは一つ、やつの武器は攻撃力が限界突破しているということ。


 だが、〈ラグナロク〉の攻撃力が限界突破するのは使用者のHPが四分の一を切ったときだ。しかしゼノルドのHPはまだ半分を切った程度。まだ〈ラグナロク〉の真の力は発揮されていないはずだ。


 何故。その原因へと頭を回し、先ほどラザルスがエリの〈エクスプローション〉を打ち返したことを思いだし、そして一つの結論に行き着く。


「まさか、その〈ラグナロク〉はレベル130か……!」


 アビリティ〈魔法反射〉は武器のレベルと同じ消費MPの魔法まで打ち返すことができるようになる効果を持つ。〈エクスプローション〉の消費MPは70で、エリは〈スペルブースト〉を三つ積んでいたから見かけ上の消費MPは60増加しており、消費MPは130。アビリティによって実際に使うMPは軽減されているが、跳ね返す側はそれと同じかそれ以上のレベルを持つスフィアーツを使わねばならない。


 そして、同じ名称のスフィアーツには、いわゆる「亜種」が存在するのだ。おそらく、ゼノルドが使っているあの剣の名称は〈ラグナロク+〉。消費MPが10増える代わり、素の攻撃力が一段階高いタイプのものだ。故に、二段階目、HPが半分の状態で攻撃力が限界突破するのだ。


「ご名答。最近、露天で売られていてね。『幻想界』で見つかったものらしいが、二十万円もしたよ。まあ、私以外にふさわしい者もいないだろうがね。


「に、二十万……!」


――バカじゃねえの!


 と言いたくなる額である。だが、確かにその効果はあまりにも強い。特殊能力が追加されていたり、能力上昇値が普通よりも高かったりする「亜種」だが、武器自体の攻撃力が元よりも高いものは滅多に出回らない。それが最もアドバンテージのある〈ラグナロク〉ならば頷けない額ではないが、それにしてももっとほかに金の使い道はないのかと言いたくなる。


 だが、所詮〈ラグナロク〉は自分のHPを回復できなくなるデメリット系武器。遠距離から攻撃する魔法でそのようなハンデを負うならともかく、ダメージなど日常茶飯事の接近戦でそのデメリットを負うなど愚の骨頂。そういうのを……、


――人はそれをロマン武器と呼ぶッ!


 俺は悦に浸っているように〈ラグナロク〉を掲げるゼノルドに対して、ダッシュで水を差しに行く。有名プレイヤーだけあって即座に反応し、構えをとるその反応力は流石だ。


 俺はスキルを発動し、次々と斬撃や刺突を繰り出すが、そのすべてを弾かれ、いなされ、防がれる。反対に俺のHPバーは〈ラグナロク〉がかする度にがくん、がくんと減っていく。


 かするだけでも十分なダメージを与えられる〈ラグナロク〉ならば、剣を直撃させるような深い斬撃を行う必要はない。それを狙っているのだと気がついたのは、俺のHPが残りわずかになったころだった。


「ふむ、最初の剣を投げるなどのフェイントは実によかった。だが、君はもっと解放必殺技を使うべきだったな。技量でかなわぬ相手には、一時的にでも能力で勝れば勝機はあった。MPは残っているのだろう?」


 ゼノルドの話が過去形であるように、もはや勝利は絶望的である。ここで俺が死ねば、その場にボスを倒して入手した素材アイテムと、手に入れたばかりの〈ファルスクエア〉を埋めた墓のできあがりだ。ラグナーのこいつのことだ。HPが減るほど魔力の増す〈ファルスクエア〉はきっとお気に召すに違いない。そうしたら俺たちはまたあの剣精と戦わなくてはならない。だが、そんな時間の余裕はもうないのだ。


 最初から、こうなることはわかっていた。こっちは動画での番組のためのネタやアイテムを集める、ただの高校生。だが相手はネットでも有名な腕利きのプレイヤー。その力の差は歴然だ。


――だから、俺は……。


 ゼノルドの剣閃から逃れるため、俺はバックステップで距離をとろうとする。しかし、ゼノルドはそれを許さず、追従するように距離をつめ、さらに武器を持っていない左手から紅い光を発し始めた。


 栄えある「英雄相談所」の所有するプレイヤープロファイルには、この廃人のプレイスタイルがかくかくしかじかと記載されている。


 ゲーム内有志の大会で上位に食い込むだけあって、その剣術はなかなかのもの。ドイツ剣術じみたその動きは、彼が現実で何らかの剣術を学んでいたことを示唆する。その剣術を駆使し、通常攻撃だけで戦っていくのが普通だが、相手の意表を突く隠し玉も用意している。それが低レベルスフィアーツの即時解放だ。


 ゼノルドの左手から発生した紅い光は、瞬く間に長剣へと形を変える。そして長剣はそのまま地面へと降り下ろされる。


 レベル40の魔法剣系スフィアーツ〈イフリート〉の解放必殺技だ。その炎の剣が地面へと降り下ろされると、地面からいくつもの炎の柱が立ち上る。バックステップをした直後の俺には、もう回避する方法は存在しない。


 だが、俺はこの瞬間を待っていた。スキルに頼らないゼノルドが、必ず決まった動作を行うこの瞬間を。


「かかったッ!」


 叫びながら、俺も左手に光を集めていた。光はたちまち柄が大きな球体でできた剣〈アゾット剣〉となり、解放必殺技の激しい光を放つ。ボスとの戦いでは一つの魔法しか発動しなかったが、今、俺は二つの魔法を瞬間的に唱えた。


 直後、接近した俺とゼノルドをガラスのような障壁が覆うのと、ゼノルドの剣が地面に衝突するのが同時だった。そして次の瞬間、地面から火柱が立ち、さらに障壁の中で激しい爆発が起こった。


 全方位魔法反射魔法〈リフレクション〉。数秒間、消費MP70以下の魔法を反射する障壁で使用者を囲む防御魔法だが、その反射判定には二つの種類がある。


 一つは、魔法の発動判定自体を反射するもの。〈ディスペル〉のようなターゲットを直接狙う類の魔法は基本的に回避不能だが、〈リフレクション〉ならばこれを反射し、相手にそのまま返すことができる。


 もう一つは、攻撃魔法に存在する「運動ベクトル」を反射するものだ。これによって例えば前方に火球を放つ〈ファイアボール〉のベクトルを反転させ、打ち返すことができる。


 そして、本来自分の魔法を跳ね返すことはない〈リフレクション〉だが、俺は自分の魔法でダメージを受けるアビリティ〈フレンドリーファイア〉を装備しており、この防御魔法は自分で唱えた魔法さえも反射する仕様になっている。


 さて、ここで問題だ。四方八方を魔法反射の特性をもった壁に囲まれた状態で、〈エクスプローション〉という全方位に運動ベクトルを持つ魔法を放ったら、何が起きるか。


 答えは直観で言ってくれていい。爆発で生じた攻撃力のベクトルは、障壁の中で際限なく反射し、俺とゼノルドを何度も貫く。


 そして〈リフレクション〉の効果時間が切れ、障壁が消え去ると、中でくすぶっていたエネルギーが全て解放され、激しい爆発を引き起こした。


 全てを包み込むような爆焔が去り、煙が霧散すると、そこに残されていたのは哀愁を漂わせた二つの墓だけだった。

チラシ裏的解説

・〈ラグナロク〉

 北欧神話における最も重要な戦の名前、「神々の黄昏」。神々と巨人族の総力戦であり、この戦で神々と巨人族は力を使い果たし破滅すると予言されていたらしい。その名前と意味のかっこよさから魔剣、魔獣、技名など等、様々なゲームらノベルで使用されている。

 作者はファイナルファンタジーシリーズの影響で「ラグナロク」と聞くと闇っぽい片手剣を連想する性質。


・〈ラグナー〉ゼノルド

 思い返せば旧作「週刊どらゴン通信!」の第一章の対人相手も黒騎士だった。こっちはより変態性が強調されている。ピーキーな武器を扱う人ってなんであんなに強いのだろうか。

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