エピローグ
結論から言うと、この日、日本という国は電脳による拘束から自由になった。いち早く情報を掴んでいた合衆国はその大艦隊を日本に向かわせ、意識を取り戻した日本人たちへの手厚い支援を行った。穿った見方をすれば「高く恩を売りつけた」わけだが、それによって命を救われた人たちが多くいたのも事実だ。
それでも、事変による死者は一千万人を超えていた。目覚めたすぐ横に腐敗した家族を見た人間も、少なくなかったようだ。日本が電脳により乗っ取られていた五年間は、それだけの爪痕を残していた。
ほどなくして、合衆国を中心とする国連軍が本格的な人道支援と調査を開始すると、その副産物としてVR関連の技術が大量に「出土」し始めた。その一部は各国に持ち帰られ、結果、それを元にしてVR産業が飛躍的に発展し始めることになる。
しかし、ハードウェアを再現したからといって、商業レベルで使えるVRをプログラムできるとは限らない。ギルガメッシュ・オンラインが消滅し、参照できるソフトウェアが無くなった今、あのレベルのVR空間を作るためには、機械から人間へと伝わる感覚から「直接」プログラムを書き換えることのできる人間が必要だ。
そして、一年以上電脳から送られてくる情報のみで意識を繋いでいた人種は、現時点で日本人しかいない。丸五年の電脳空間への幽閉は、否応なく、彼らのVR空間における適正を引き上げた。
ギルガメッシュ・オンラインで使われたヘッドギア型のインターフェースを介して、カーナビのソフトウェアを流すと、エラーを「苦味」で感じられる人がいるらしい。
またある人は、現在の株取引のデータを流すことによって、特定の株が暴落する予兆を「痒み」で感じることができるらしい。
そういった現象は科学的な解説がまだなされておらず、ほとんど超能力のようなものだった。そして、電脳から解放された日本人の約半数が、そのような症状を訴えていた。
あとは、お察しの通りだ。そのような能力を持つ人間がごまんといる日本に、大量の資本が流れ込み、この国はVR産業を柱として戦後もかくやという発展を遂げることになる。
一部の国にとって誤算だったのは、かつて日本の領海に近づくだけで電子機器を停止させるような強力なハッキング能力を持つ「何か」が見つからなかったことだ。それはもちろん彼が分解したS.W.のことだが、核となっていたリタとルトは未だどこかで眠っているはずだ。各国はそれを探しているし、当然、僕らも諦めてはいない。
とまあ、話の顛末はこんなところかな。何? その日本を解放した男は今どうしてるかって?
そんなの、僕が知るわけないだろう。CIAが持つまがい物と違って、彼は「本物」を持ってるんだ。今じゃ彼を捕まえられる人間はいないよ。
まあ、色々と暗躍しているのは確かだね。君も、VR関連で非人道的な研究でもするつもりなら、知っておいた方がいいんじゃないかな。
そうさ、その男こそ、僕の友人であり、日本を解放した電脳の英雄。VR技術が悪用されようものならば、どこからともなく嗅ぎつけて跡形もなく木端微塵にする英雄気取り。
その名は、ガルドさ。




