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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT3 「夢見る伝説」
60/62

A3-13

 最初の幻想界の攻略者、ナイト。


 ゲームの中ではもはや伝説級の彼であるが、改めて戦って、エリたちはその強さを実感していた。


 こちらはエリ、ラザさん、ルトの三人。対して相手は王女とナイトの二人。数で勝っているのにも関わらず、戦況は膠着していた。


 ルトが空中で舞いながら〈ヨトゥンヘイム〉を振るい、ナイトがそれを受け流す。その攻撃の合間に〈アクアバレット〉を唱え、エリに攻撃してくる。


 ラザさんが割り込んで〈イージスの盾〉で受け止める。その隙を逃さず、王女が〈勝利の剣〉をラザさんの死角から突き出す。


 ただでさえ、王女は強かった。ラザさんが攻撃を受け止め、エリが魔法でHPを削っていけば勝てるのだろうが、ナイトがここぞというところで邪魔をしてくるのだ。ルトもその場に釘付けにしようとしているのだが、ナイトは動じない。


「ふむ、この程度か。……いや、他人数戦闘では力を十全に発揮できないようだな」


 ナイトの言う通り、ルトは〈アポカリプス〉や〈サイクロン〉を使った戦術を使えないでいる。使ったらラザさんやエリを巻き込むのは必至だからだ。リタならば付いてくるだろうが、彼は例外中の例外だ。


 だが、このままでは埒があかない。


 不意に、ルトが声を上げる。


「ラザさん! 五秒だけ耐えて!」


「なかなか厳しいことを言う」


 直後、ルトは大きく跳んでエリの元へ着地。一言耳打ちをする。


 その少しの間に、ラザさんは王女とナイトによる集中攻撃を受ける。だが、ラザさんもこのゲームの古参で、こういったときの対処法をよく弁えていた。


 右手に持った〈器無き王の剣〉を解放してMPを回収し〈アゾット剣〉を起動、そしてすぐに解放する。解放必殺技の効果で、ノーモーションで回復魔法を多重発動させ、強引にHPを保たせた。


「ありがと!」


「ふー、まったく貯金を切り崩す感覚をこんなところで味わうとはね」


 ラザさんの泣き言を置いて、ルトが戦線に復帰する。走る勢いのままナイトに〈ヨトゥンヘイム〉を叩きつけ、自身は浮かび上がる。


 ナイトは当然のように回避したが、続けて、ルトが〈アルヴヘイム〉で〈アイスピラー〉を唱える。現れた氷柱を空中で蹴り、もう一撃。


 と、そこにエリがナイトに向けて〈アイスピラー〉を唱える。これも滑るようなバックステップで回避されるが、ルトはその氷柱をさらに足場にして斬りかかる。


 そこからは、ルトはナイトだけではなく、王女にも積極的に遊撃を行うようになった。これが功を奏し、エリたちは少しずつ王女にダメージを蓄積していく。ナイトに全力で打ちかかるのではなく、王女を攻撃することでフォローに手を回させたのだ。ナイトによる邪魔はルトの攻撃が入ったことで、徐々に間に合わなくなってくる。


 やはり、ルトの実力は三次元の空間を余すところ無く使うことによって発揮される。縦横無尽に駆け回るルトを、ナイトも止めることはできない。その足場を壊そうと氷柱に刃を振るうが、作っているのは二人だ、イタチごっこにもならない。


「ふむ」


 ナイトは困ったように一つ声を上げる。


「足並みを揃えた、ということか。なかなか見所がある。では我々も、少しいいところを見せるとしよう。王女よ、一点突破を開始する」


「いいわ。あなたに合わせましょう」


 王女が頷き、ナイトはその場に赤い剣を突き立て、新たな剣を鞘から出現させる。そしてその剣を、ルトに向けて投擲した。


「させない!」


 ラザさんがエリを庇い、ルトが空中から強襲する。だが直後、ナイトが投擲した赤い剣が光を放って消えた。


 ナイトの持つ〈ロゼッタブレード〉の能力は、鞘から出現させた剣を消滅させる代わりに、魔法を瞬間発動させるものだった。発動する魔法は剣を出現させたときに消費したMPに準ずる。


 ナイトの手から放たれたのは、闇属性致命級魔法〈メギドフレイム〉。それはエリに向けて放たれ、しかしルト持つ〈ヨトゥンヘイム〉の厚い剣身によって阻まれた。


 ルトの空中からの攻撃を、ナイトが居合い抜きをするようにして剣を出現させて防ぐ。ほとんど同時にエリが〈アイスピラー〉を唱え、それを察知したルトが自分でも氷柱を作りだし、それを足場にしてもう一度切りかかる。ほとんど死角に近い方向から攻撃されたナイトは辛うじて攻撃を防ぐが、その赤い剣を弾きとばされる。だがナイトはすぐに新たな剣を鞘から作りだし、冷静に追撃を防御する。


「今だ」


 ナイトの言葉で、王女の操る三本の剣がルトを襲う。三方向からの攻撃は普通防ぎきれるものではないが、ルトは得意の立体起動ですべて避けて見せた。


 だが、避けた後の場所にはナイトがいた。ナイトの振るう剣をルトは巨大な剣で受け止める。が、それはナイトの狙い通りだった。


 ナイトが最初に地面に突き立てていた剣が光を放って消滅し、それを対価として魔法が発動される。


 六発の闇属性初級魔法〈ダークスレイヴ〉が発動され、闇属性の爪が〈ヨトゥンヘイム〉の横合いから叩き込まれる。止めとばかりにナイトが薙ぎ払いを放ち、〈ヨトゥンヘイム〉は粉々に砕け散った。


「ルト!」


 エリが焦燥に駆られて悲鳴を上げるが、すでにルトは届かない位置にいる。


「機動力が高すぎるというのも考え物だな。敵中に孤立するは危険だ」


 ルトの喉元に剣を突きつけながら、ナイトが真顔で言う。


「えへへ、確かに」


 エリを集中攻撃すると見せかけて、突出してきたルトの戦闘能力を一気に奪う。それがナイトの言う一点突破の作戦だった。術中にはまってしまったルトは、しかし緊張感もなく笑う。


「おっと、動かないでくれ。ここで君たちが行動するなら、私は彼女のHPを削りきるぞ。君たちの目的は時間稼ぎだろう?」


 盾による突進でルトを救出しようとしたラザさんを、ナイトは言葉で制止した。


「一つ、質問をさせてくれ。君は今、S.W.本体との直接的な繋がりは持っていないな?」


「うん、その通りだよ。でも、本体はここで起きたことをずっと覚えていると思う」


 ナイトの質問に、ルトは世間話でもするような軽さで答えた。


「なるほど……。もし本体と戦っていたら、厳しかっただろうな」


「どうだろう。お兄さんは強いから、案外勝てたかもしれないよ?」


「いや、それはあるまい。それに、もし一対一で戦っていたら、確実に君が勝っていただろう」


「まあね、当たり前だよ。あれからずっと、お兄さんみたいな強い人と戦う方法を探してきたんだから」


「ああ、そうだろうな」


 剣を突きつけながら、ナイトは嘆息した。


「それなら、尚更のこと。S.W.の力を継承したあの少年は強いのだろう。いくらルークとはいえ厳しい。私たちは救援に行かねば」


 ナイトは剣を振りかぶった。


「さらばだ」


 ナイトはルトの首を切断するように剣筋を描き、ルトのHPは一瞬でゼロになった。


「大丈夫だよ」


 それでも、ルトは笑っていた。


「たぶん、もう十分だ」


 そうは言われても、不利な状況には変わりない。ラザさんは油断なく盾を構えながら対峙する。


「さて、これで最初に戻ったわけだが。君たちの手はこれで全部かな? ならば、早急に終わらせたいのだが」


「どうかな? こっちはもう少し粘るつもりなんだけど」


 ラザさんはいつもの穏やかな笑みを引きつらせながら言い返す。それに対し、ナイトはつまらなそうに言った。


「そうか。ならこちらも、本気で相手をしなければ、な!」


 爆発的な加速を以て、ナイトはラザさんに斬りかかる。


「その必要はない」


 しかし、その瞬間、割り込む者があった。


 黄金に輝く両手剣。それを持つのは長身の老人。


「我々の求めるものは、既に完成していたようだ」


 ナイトの斬撃を止めたのは、彼らのリーダー格、ルークだった。


「ふむ」


 だが、ナイトは剣を止めず、さらに数発の斬撃を繰り出す。ルークはそれをいなし、両者は互いの射程に入ったまま動きを止めた。


「どうやら本物のようだ」


「君の性格は変わらないな」


 大げさな仕草でおどけて見せたルークは、エリたちに向き直って丁寧な一礼をした。


「彼は英雄としての力を見せ、君たちはここを守って見せた。私たちの完敗です」


「ガルドさんはっ!」


 ルークの言葉の内容よりも先に、エリが俺の安否を聞く。


「彼は今、少しだけ忙しい。ですが、すぐに会えるでしょう。彼には、ここでやるべきことが残っている」


「でも、なんであなたがここにいるのかな?」


 エリはほっと胸をなでおろすが、ラザさんはまだ警戒を解かない。その警戒を解くためか、ルークは〈エクスカリバー〉を手から離し、消滅させた。


「それは私も聞きたいくらいですよ。一体どんな理屈でこうなったのか、私にも分からない。だが、彼は私を殺さず、目的を果たそうとしている」


 それからルークはナイトの持つ〈ロゼッタブレード〉の鞘に手を伸ばす。


「君には本当につらい役割を背負わせてしまった。今更、何を言っても足しにはならないが、本当にすまなかった……」


「いえ……。私は、これしか生き方を知りませんので」


「そうか、そうだったな」


 ルークは膝を折った体勢で、しばらく目を瞑る。


「これから、新しい時代が来る」


 ルークは立ち上がって、穏やかな声で言った。


「今までのような暗い停滞の時代ではない。VRによる、新たな競争と発展の時代だ。当初の目的のように、そこにシンボルは存在しないが……。だが、それでよかったのかもしれん……」


 そこまで言って、ルークは言葉を切った。


「いや、これ以上は野暮というものですね。我々は……」


「何でよ!」


 その場の皆がルークの言葉に意識を向ける中、割って入る者があった。


「ルーク! あなたは人間のことなんて信じちゃいなかった! なのに何で、今更そんなこと言うのよ! そもそもD.L.計画を始めたのもッ!」


 ルークは腕を挙げて王女の言葉を制した。


「そうですね。確かに、その通りでした。だからこそ、私は誰かに止めてもらいたかったのかもしれません……」


 それからルークは王女の元へと歩み寄り、頭を垂れた。


「あなたも、完成した人格を持つ一人。望むのならば、その力で、掴みとって見せてください」


 その時、ルークの背後で空間の歪みが発生する。転移特有の現象だが、これはどの場所でも変わらないようだ。


「来る」


 俺がその場に姿を現して最初に聞いたのは、そんなナイトの短い一言だった。


「悪いな、エリ、ラザさん。遅くなっちまった」


「まったくだよ。さっきは生きた心地がしなかった」


「わりいな。で? なんか雰囲気から察するに、そこの王女様に何かご意見があるようだが?」


 俺が視線を向けると、〈勝利の剣〉を構えた王女が答える。


「当たり前だ! D.L.計画には、人間の英雄だと必要ない! 全てはS.W.様が決める! おまえ達人間に任せておくから、日本はいつまで経っても立ち直れなかったんだろう!」


「なるほどな。確かにあれに任せておけば、日本はあんなことにはならなかっただろな。完成さえすれば、もうこんな事件を起こす必要もないだろうよ」


 やたらと声の大きい王女に対して、俺は調子を合わせずに話す。


「だが、そいつはもう無理だ。S.W.はもう俺が分解しちまった。もうじき日本国民は目を覚まし、このゲームも終わる。いや、もうゲームは終わってるのか、ここが取り残されているだけで」


「なんだと!」


 いきりたつ王女に対して、俺は〈ファルスクエア〉を起動して挑発する。


「なら、あんたが取り戻してみせな。慕ってるんだろう? あれのことをよ。さあ、見せてみろよ、あの女王様から受け継いだ剣技とやらを!」


 王女は新たに〈クラウ・ソラス〉を二本起動し、合計五本になった得物をこちらに向けて慟哭した。


「私は認めないぞ! 人間に、未来を切り開く力など存在しない!」


 五本の剣が、まるで生き物のように自律して俺に襲いかかった。


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