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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT3 「夢見る伝説」
59/62

A3-12

 真っ白な空間に、金属同士がぶつかり合う硬質な音が響きわたる。ルークの持つ〈エクスカリバー〉と、俺の持つ〈ファルスクエア〉は、比較的重い部類に入る武器だ。打ち合うたび、腕に重い衝撃が伝わってくる。


 その老人の姿とは裏腹に、ルークは思い切りの良い攻めを続けていた。攻撃は最大の防御とばかりに様々な方向から斬撃が飛んでくる。


 そして、攻撃する速度と同じぐらいに、口を動かしていた。


「君は、魂の存在を信じていますか?」


「さあな。そういうのはあまり考えたことがない」


「ふむ、なるほど」


 俺の適当な返事を、ルークはさして気にするそぶりも見せずに話し続ける。


「生物がその進化の過程で得た最も得難い物は、情報です。周囲にあるもの、体に取り込んだものを何であるか判断し、利用する。周囲にあるものを、無関係な物質ではなく、価値を持ったものとして利用する、というのは、そもそもの生命の始まりと言えましょう」


 話す間にも、攻撃は止まない。ここがVR空間とは言え、一体どうすれば呼吸を安定させたままこんな激しい動きができるのだろうか?


「へえ、そうかよ。で? そんなことより、S.W.って何なのかが俺は知りたいんだがな」


 俺がルークの刃を明後日の方向に弾き、攻撃の隙間を作って聞くと、ルークは静かに告げた。


「そうですか、では先に答えを。S.W.は、人間の魂のようなものの集合体なのです」


 なるほど、流れが見えてきた。つまりルークは、その「魂のようなもの」の説明をするつもりだったのだ。


「人間の意志というのは、極めて端的に言えば電気信号や化学物質のやりとりによる現象です。その現象を完全に再現することができれば、人間の頭脳を人工的に作ることができる。そんな極めて稚拙な論理を元にした研究から、S.W.は偶然発見されたのです」


 攻撃を止めたルークは、しかし依然構えを崩さぬまま自嘲気味な笑みを浮かべた。


「実験は非人道的でした。秘密裏に行われたものの中には、検体となった人物の死亡が前提となっていたものもありました……。本人から聞いているかも知れませんが、あなた方が出会ったルトは既に死亡しています。我々は、幻想界に残った彼女の『魂のようなもの』を元に、彼女の人格を再現したのです」


 そこまではリタから聞いて知った話だ。ルークは相変わらず構えを解かぬまま、話を続ける。


「人が死ぬとき、当人の脳の中から『生きている』という情報が失われるのです。我々は実験の中で、その情報を捕えることに偶然成功しました。そしてその当人の脳の構造を再現し、その『生きている』という情報……当人にしかない信号のパターンを入れることで初めて、それが人格として活動を始めるのです」


「それを、あんたらは『魂のようなもの』と呼んでいるわけか」


 俺が確認すると、ルークは鷹揚に頷いた。


「ですが、それの発見は同時に人工的に人間の脳を作ることが不可能であることを証明してしまいました。人によって、『生きている』という情報のパターンには違いがある。よって、人工的に作られた疑似ネットワークにも、専用の情報が必要になるのです。だからこそ、私たちはそれを『魂のようなもの』だと認識したわけですが」


 なかなかに飛躍した話だ。人工知能の開発の為の研究をしていたら、人の魂のようなものを発見してしまうとは。


「研究のアプローチはそれを利用することに変わっていきました。ネットワークを人間の脳のように動かすことが不可能ならば、『魂のようなもの』を元にしてネットワークを作ることにしたのです」


 話が見えてきた。ルークはさっき、S.W.は人間の魂のようなものの集合体だと言った。


「それが……S.W.だっていうのか?」


「その通りです。人間が死亡したときに脳から失われる『生きている』という情報を集め、それを核にしてネットワークを形成したもの、それが今のS.W.の始まりでした」


「……一体、あれを作るのに何人の人間が犠牲になったんだ?」


 既存の電子技術を遙かに凌駕する演算能力と、未知の通信経路。イージス艦や航空機が近づくことすら困難な防衛能力を発揮しているS.W.が、少ない犠牲で成り立っているはずがない。


「初めは百二十一人……。ですが、日本国民を電脳空間に閉じこめたときの事故で一万二千三百人が死亡しました。その分の『生きている』という情報が集積され、S.W.は想像を越える性能を身につけるに至りました」


 日本が電子の海に沈んだ瞬間。その時に死亡した人間には、俺の母親や、弟が含まれている。


「しかし、私たちはS.W.を完全に制御することができなかった。このゲームが生まれる前の、数百人程度のソウル・ライクによるS.W.ですら、です。ナイトやクイーンはS.W.を制御する器として調整された実験体でしたが、ナイトは遂に制御能力を得ることはなく、クイーンは自らの『生きている』という情報の一部を切り離し、S.W.と会話できるAIを作ることしかできなかったのです」


「そいつが、あんたらが『英雄』とやらを、リタとルトを必要とした理由か?」


「その通りです。ルトは非常に強い『生きているという実感』を持つ人間でした。その実感は、ナイトが幻想界で行った『処置』でさらに強まり、今やS.W.の中心となる強さを持っています」


 リタの話によると、ナイトの『処置』とやらは拷問のようなものだったはずだ。まったく、悪趣味極まりない。


 そろそろ、話は核心に近づきつつある。だが、俺はあれてルークの話を止めるように〈ファルスクエア〉を構えて突進した。


「なるほどなあ。ところであんた、人に物を伝えるのが下手って言われたことはねえか?」


 突然の攻撃にも関わらず、ルークは眉一つ動かさずに受け止める。


「面と向かって言われたことはありませんが……。まあ、研究職の会話などそんなものでしょう。専門的な話は、一般の方には伝わらない」


「そうかよ。ッたく、あんたの話、詰め込みすぎて俺じゃなきゃすぐには理解できそうにもねえよ。衝撃の事実をポンポン話しやがって」


 俺は宙に浮かせた〈クラウ・ソラス〉を操って攻撃する。同時に両手で持った〈ファルスクエア〉も振るうが、ルークは惚れ惚れするような性格な動きで防御する。


「俺らを放置してたこととか、色々理由はありそうだが、まあそんなことはどうでもいい。単刀直入に聞こう、あんたの目的はなんだ? 二行以内で話せよ」


 かなり横暴な俺の質問に、ルークは微笑を浮かべながら答えた。


「日本国の再建ですよ。英雄殿」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中のS.W.の領域が大量の着想を開始し、その情報量の多さに俺は一瞬自失状態になる。


 その隙を逃すルークではない。〈エクスカリバー〉が閃光のごとく振るわれ、俺の首筋を捉える。一瞬遅れて反応した俺は、〈クラウ・ソラス〉を自律移動させて防御にあてた。当然防ぎきれるはずもなく、衝撃で〈クラウ・ソラス〉ごと吹き飛ばされるが、なんとか直撃は避けられた。


「やりやがったな……。くそっ、何が日本の再建だ。これまで、何人死んだと思ってやがる……!」


 日本の再建。その言葉を聞いたのは、何度目だろうか。日本が電子の海に沈む以前、日本は未曾有の大不況で、理想を掲げた政治家たちがこぞって口にした台詞だったが、誰一人としてそれを成し遂げられた人物はいなかった。


 その台詞を、まさか、こいつから聞くことになるとは。


「君の言う通り、私たちはどんなに人が犠牲になろうと厭わない方法を選びました。ですが君も知っているでしょう、あの希望のない時代を。国の借金は膨れ上がり、経済は破綻するばかり。そして、若者の瞳には希望が無かった。それこそが、最も問題だったのです」


 ルークはなおもその言葉を続ける。


「破壊からの再生。それこそが私たちの求めたものです。S.W.を中核とした仮想世界の存在は、この世界を一変させるでしょう。そして日本はVR技術において世界の先頭に立つ」


 その台詞で、これまで疑問だった要因が一気に像を結び、形となる。


 日本本国から救出された人たちは、皆VR技術に関して適正を持つ。しかもリタが言うには、適正の高い人ほど早期に解放されていたらしい。それが元から意図したものだったのか副次的効果だったのかはわからないが、やつらはそうやって、日本人をVR技術のエキスパートにしたかったのだ。現に俺が、VRを利用したプログラミング技術でバイトをしているように。


「先頭に立つものにはシンボルが必要です。私たちはこのゲームの中で、S.W.を制御できる資質を持つ人物を探すことにしました。その人物はS.W.の力を吸収し、その全能性をもって電脳世界から日本国民を救い、その後の世界を導く『英雄』となる。まあ、計画通りにはいきませんでしたが、自我を手に入れたS.W.は、今や神に等しい存在です。誰にも、その力を越えることはできない!」


 話は終わりとばかりにルークが突進してくる。俺は〈ファルスクエア〉で迎撃しながら、口を開く。


「ハッ! そうかよ、そういうことかよ! 日本がやべーから、一部の国民を犠牲にして新たな力を得るってか。あの女王様が言ってたD.L.計画ってのは、そういう意味かよ。馬鹿げてるぜ!」


 必要な話は大体聞けた。後は、俺が答えを出すだけだ。


 俺は〈クラウ・ソラス〉をもう一本起動し、ルークの背後に回り込ませて〈ショックウェーブ〉を発動する。同時に〈ファルスクエア〉を振り降ろし、もう一本の〈クラウ・ソラス〉を横合いから突きを繰り出す。


 だがルークはいきなり足場が消えたかのような速度で身を伏せて〈ショックウェーブ〉の効果範囲から逃れ、鋭い足払いを放ってくる。俺は片足を足払いに引っかけさせ、転ばせようとする勢いのまま側転、ルトがやるような体重を乗せた縦回転切りを叩き込む。


 回転切りの予備動作を見切っていたのか、ルークはしゃがんだ体勢から膝のバネを利用した斬り上げを放つ。〈ファルスクエア〉と〈エクスカリバー〉がぶつかり、重い金属音が響く。


 重さを乗せた分、俺の方が有利だった。だが、ルークはそこも計算していたようで、〈ファルスクエア〉は斜めに構えられた〈エクスカリバー〉で勢いを逸らされてルークに届かない。


 幻想界で戦うようになってからの俺の戦術は、「相手にその実力を発揮させない」というものだった。あらぬ方向からの〈ショックウェーブ〉や〈クラウ・ソラス〉による攻撃で相手の体勢を崩し、攻撃や防御に穴を開ける。その上で攻撃を行うことで、一回の戦闘にかかる負荷を小さくするという狙いがある。


 だが、ルークには通用しない。攻撃のさなかにスキルを混ぜるようにもしたが、ことごとく対処される。まるで、手の内がすべて読まれているかのような状況に、俺は徐々に焦燥感を貯めていく。


 それだけではなかった。俺自身の「答え」。それが、今になって曖昧になり始めていた。ゲームの管理者を倒し、S.W.を破壊して日本国民を解放する。それが当初の目的だった。


 だが、疑問に思った。本当にそれだけでいいのだろうか、と。


 その迷いが剣筋に表れているとは思いたくないが、ルークと剣を交えるうち、ふと、違和感が俺を襲った。


 そのすぐには形容しがたい感覚をS.W.の領域で分析する。出てきた結果は「既視感」だった。


 俺はこの感覚を知っている。この剣術を、視たことがある。


 ぱっと、着想が広がった。


「あんた……もしかしてアーサー王か?」


 質問の意図がわからなかったのか、ルークは不可解な表情をする。


「円卓の騎士のダンジョンのボスだ。あのアーサー王の剣術は、あんたのがオリジナルだな?」


 ルークは合点がいったように頷く。


「よくわかりましたね。今となっては、私の術も、あれもずいぶんとアレンジを加えられてしまったものですが」


 まったく、こんな奴のがオリジナルだとは、ギルガメッシュ・オンラインの中のアーサー王が強いわけだ。


「一つ、聞こう」


 俺は魔法やスキルを使わず、剣術だけでルークの相手をしながら口を動かす。


「あんたらの計画には、それぞれの役割をこなす幹部がいたはずだ。だが、その半分は自殺している。そ

うだな?」


「その通りです」


「詳しく話せ」


「いいでしょう」


 そう言われて、本当に詳しく話してしまうのだから始末が悪い。


 やつらの計画。D.L.計画には、七人の中核メンバーがいた。即ち、クイーン、ナイト、ルーク、ビショップ、ポーン、そして、王たるS.W.。


 ナイトとクイーンはS.W.を制御する主体となることを試みた。


 ビショップは新型インフルエンザのワクチンにS.W.がパスを持つナノマシンを混ぜ、日本国民を電脳に閉じこめるためのネットワークを作成、そして自害した。


 ポーンは組織の軍事力を動かし、電脳に閉じこめられなかった者たちを制圧。その役目を終え、自害した。


 そしてS.W.の生みの親であったルークは、すべてを観測する役目を背負っていた。


「ハッ! ッたく、よーくわかったぜ。おまえ、とんだエゴイストってやつだな」


 激しく剣戟を交えながら、俺は笑うしかなかった。やつらの、ルークの思惑に気づいてしまったからだ。それはあまりにも安っぽく、しかしだからこそ相手に気取られない、なんとも不確定な思惑だった。


 簡単な話だ。何故、この男はこんな洗いざらい喋っている? 何故、みすみす俺のハッキングを見逃して命がけのデュエルに持ち込んだ?


「わりぃが……」


 俺は努めて軽々しく笑いながら、言った。


「あんたの思惑通りにするつもりはねえ、よッ!」


 〈ファルスクエア〉を大きく振りかぶって突進する。続いてスキルを発動、防御を捨てた攻撃を開始する。


 立て続けにスキルを発動し、〈エクスカリバー〉に刃を叩きつけ続ける。その意図を悟り、ルークは回避に集中しだすが、俺は執拗なまでにその得物を狙い、攻撃を当てていく。


 やがて、〈エクスカリバー〉の耐久値が減っていき、それがゼロになる直前、ルークは解放必殺技を発動する。


 相手の立場になってみれば、発動してしまった、というのが正しいか。


 俺は、その刃がどのような剣筋を辿るのかを知っていた。どのように加速し、どのように減速するのか、それを見たことがあった。


 これはリタの記憶だ。あいつらは何度も、何度もアーサー王で訓練し続けていた。他は違っても、この必殺技だけは同じだった。


 ルークは、これほどの技を身につけるまで、どれほどの鍛錬を重ねたのだろうか。体力的な心配がないとはいえ、老人にあの動きができるとはとても思えない。一体何を思って、ルークはアーサー王のモーションのオリジナルとなったのか。


 その疑問を振り払い、俺は解放必殺技のモーションが終了したルークの首を掴んだ


「なあ、あんた」


 俺はほとんど握り潰さんまでにルークを固定し、〈ファルスクエア〉を解放する。


「芸術は爆発って言葉、知ってるか?」


 直後、俺とルークを〈リフレクション〉の防護壁が包み込んだ。


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