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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT3 「夢見る伝説」
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A3-7

 それから、俺は幻想界で活動することになる。


 これまで散々省略してきてなんだけど、やはり、この話も省略すべき事柄だ。俺にはルトのような才能があったわけじゃないから、訓練にもかなりの時間がかかったし、君が知っている俺の戦い方ができたのにも紆余曲折がある。もちろん、一人称が変わった経緯もだ。けれど、それは俺が語ることの本質じゃないし、君にはあまり関係のない話だろう。


 幻想界でどう戦うべきなのかは、仮想訓練プログラムのほうに組み込んでおいたから、そっちを見て欲しい。君に知って欲しいのは、俺たちが何を体験し、その結果何が起きたのかということだ。


 というのも、あの時何が起こったのか、俺自身あまり分かっていないからだ。そもそも、人間の人格がプログラムによって再現が可能なのか、そこのところもわからない。もっと言ってしまえば、自分が何者なのか、よく分かっていないというわけだ。


 その上で君にこの出来事を追体験してもらっているのは、どうやらS.W.が、「そういうもの」の集合体であるらしいからだ。「姫」は、だからこそS.W.の中核には人間の人格が必要なのだと、ルトに説明していた。


 二年。


 それが、俺が再びルトを見つけるまでにかかった時間だ。君と出会ったのが、そのだいたい半年後だから、まだあれから一年も経っていないというわけだ。


 その頃には俺は幻想界で活動しているプレイヤーの中でもかなりの古参になっていたし、ルトにも勝るとも劣らない実力をつけていた。


 幻想界で手に入れたVR技術に関する情報を、それを欲する企業に売るためのシステムを最初に作り上げたのは俺だ。俺にはルトのような戦闘の才能はないから、他のことにかまっている暇はなかった。だから、これを食い扶持にすることにしたんだ。ある程度お金が貯まったら俺は学校を辞め、そこから離れた場所に引っ越した。


 そうだ、言い忘れていたけれど、日本本国から救出される人間の順番には、明確な基準がある。それは、VR技術に対して、適性があるかどうかだ。人間には個人差があるのは当然のこととして、現実世界でもそうであるように、VR空間でも俺たちは思った通りの動きができるとは限らないというわけだ。


 君はルトが幻想界で活動を始める前に救出されている。ジル先輩はその少し前で、今から三年以上も前だ。君も、ジル先輩も、ルトほどではないけれど、並以上の適性があることは間違いない。


 前置きが長くなってしまったが、これだけは、俺が直接語らなければならないことだ。いたずらに偽りの感情を脳に書き込むのはあまりよくないし、なにより、俺がそうしたいのだ。







 ルトを発見したときの次に、俺が人生で一番驚いたのは、幻想界のポータルの一つにおかしな名前のものが混じっているのを見つけたときだ。


 ダンジョンの名は「吉祥寺」。これまで見つけたダンジョンの名前は、戦国時代みたいなものまではあったものの、現代の日本の地名を冠したものは一つもなかった。ダンジョンのレベルは200で、いつもならばスルーする難易度だったが、俺は迷わずにその中に入った。


 実を言うと、この時の俺は自分がどうして幻想界で戦い続けているのか、よくわかっていなかった。ルトのように誰かを助けるという使命感もなかったし、アクセス権限を売って得られるお金は、既に一生喰うに困らない額まで貯まっていた。


 果たして、その「吉祥寺」は日本の町並みとまるで遜色のない、都会的な風景が広がる場所だった。俺は呆気にとられて、その入り口で立ちつくした。


 ふと、まだ救出されて日がないときのことを思い出す。そうだ、そういえば、真琴は吉祥寺の町で父親と二人暮らしだったのだ。なぜ、地価の高いであろう東京の繁華街に親一人子一人で留まろうと思ったのかはわからないが、きっとその父親にも何か拘りがあったのだろう。


 ここには、何かがある。俺はそう確信し、戦闘準備を整えて足を踏み出した。


 レベル200のダンジョンなだけあって、「吉祥寺」を進むのは容易なことではなかった。その上、出現して日が浅いダンジョンであるがゆえに、「住民」の一人もいないのだ。すべて自分でなんとかするしかない。


 出現する敵モブは巨大でHPが膨大というわけではなく、すべて漆黒の鎧を纏った戦士だった。それらはまるでプレイヤーのようにスフィアーツを使い、積極的に戦いを挑んでくる。一体ずつではなく、二、三体同時が基本だ。俺は得意の〈アポカリプス〉を使った戦術をフルに活用して戦わなければいけなかった。


 それにしても、繁華街の風景に現れる漆黒の騎士とは、なかなかにシュールな光景だった。相手は東洋風の武者ではなく、いかにも西洋風の、盾と獲物を持ったものなのだ。彼らが曲がり角からぬっと現れる場違い感には、最初の緊張が和らいできた頃には失笑を催すおかしさがあった。


 それと共に、これまで気にならなかった違和感が、俺の意識に浮かび上がってくる。敵は、全てプレイヤーが装備できるスフィアーツを使っているのだ。〈看破〉で表示される敵の「スキルタイプ」は、解放必殺技を使ってこなくても、敵のスキルがどのような軌道を描くか予測するためのものだ。だが、スキル()()()とあるように、その獲物が元のスフィアーツそのものであることは少ない。プレイヤーと同じものを使ってくるのは、そのスフィアーツをドロップするボスか、シリウスのような強力なレアモンスターがほとんどだ。


 それが、一度に三体以上。こんな敵配置のダンジョンは、見たことがない。


 それに、出現する敵が全て近接攻撃しかしてこないというのも妙な話だ。これはまるで、騎士の国か何かに迷い込んでしまったようなものだ。相手を正面から相手取る、騎士の精神が全てを支配する場所。


 無論、そんなものに囚われるつもりはない。そもそも、三対一という状況下が既に騎士道とか言えない状況なのだが。


 〈アポカリプス〉で大暴れしては探索するなか、俺はこのダンジョンを見つけたときに感じた「ここには何かがある」という感覚がどんどん大きくなっていくのを実感していた。フィールドと敵モブの不調和、ステータスよりも技巧に秀でた敵モブ。日本本国で囚われている人たちが想像したが故に、本来ダンジョンは雰囲気に統一性があるはずなのだ。しかしこれでは、何か、訓練のために作られたフィールドのような気がしてならない。


 そして、俺はこのダンジョンの最奥で、決定的なものを目撃することになる。


 もし、このダンジョンにボス部屋があったとするならば、ショッピングモールの大きな吹き抜けか、地下駐車場の形をとっていたのかもしれない。しかし、俺がそれを目撃することはなかった。


 最初に聞こえたのは、何か、途方もなく重たい金属が別の金属塊を叩き潰す音だった。聞いたことはないが、リサイクル工場で鉄くずが圧縮されるような、そんな連想を一瞬した。


 何かと思って近づくと、そこには五体の黒騎士と、膨大な量の風のエフェクトを纏いながら飛翔する何かがいた。強めのモブだろうかと思ったが、どうやらその飛翔している何かは、何か巨大な刃のようなものを延ばして黒騎士を襲っているようだ。 見たことのないタイプのモンスターだ。吹き荒れる風のエフェクトのせいで、本体の姿がわからない。もともと統一感のないダンジョンだったからどんな敵モブが出現してもおかしくはないのだが、これではどう対処していいかわからない。


 幻想界で生きていく為に必要なものは、とっさの判断力と、適応力だ。相手の攻撃から最小限の被害で逃げきり、すぐに対策を考える。その原則にのっとり、俺はその何かが黒騎士を屠るのを観察した。


 見ているうち、俺はそれが人の形をしていることに気がつく。エフェクトの合間からちらりと見える刃は、もう何度刃を交えたかわからない、〈ヨトゥンヘイム〉のもののように見えた。


 飛び回る、巨大な刃。それが着想させる存在が意識に現れだしたとき、それは周囲の黒騎士を全滅させ、姿を現した。


「ふー、やっぱりずっと魔法使うのは効率が悪いなあ」


 それは、ルトだった。


 俺が幻想界で活動を始めたのは、間違いなくルトが原因だ。俺は、幻想界でずっと彼女の影を追いかけていたようなものだ。同時に、それは彼女に会うことは二度とできないという確信を元にした行動であって、もし、彼女が生きているという希望が少しでもあったとしたら、俺はいつまでも真琴の帰りを待ち続けたことだろう。


 だから、その時、声が出なかった。


 やや間があって、ルトがこちらに気づく。彼女は嬉しそうにこちらに賭けよる。


 そして、その巨大な剣を俺に振り下した。


「っ!」


 ほとんど条件反射で俺はそれを〈アスカロン〉で受け流す。流石に最高クラスの重量を持つだけあって、こちらの被害は軽微だ。


「おおー、今のを受ける。すごいね。お兄さんが、わたしの新しい相手?」


 間髪入れず、回転斬りが飛んでくる。俺はそれを跳躍して避ける。ルトは〈ヨトゥンヘイム〉を振った勢いを利用して空中に浮かび上がり、ギロチンのような振り下しを放つ。


 その動きは、見慣れたものだ。俺は〈アスカロン〉で〈ヨトゥンヘイム〉の横腹に重い一撃を当て、ルトのバランスを崩させる。できた隙に乗じて、大きく距離を取った。


「待て、ルト。俺……いや僕だ。リタ……冴草海斗だ」


 二年の間にいつの間にか変わってしまった一人称を訂正しながら、俺はルトに語りかける。それを聞いたルトは首を傾げ、質問を返す。


「お兄さんは、わたしのことを知っているの?」


 お兄さん、という単語を聞いて、俺はルトの姿が二年前のものでありながら、明確に違う部分があることに気がつく。スフィアーツの色は初期設定のままだった金色から、血のような赤に。それと同じように、東洋人らしいやや明るい黒の瞳は、赤く染まっていた。俺はその違いに、言いようのない不安を覚える。それに、ルトは俺のことを覚えていないらしい。


「ああ、知っているよ。真琴が死んでから、この二年間、ひとときも忘れなかったさ」


「死んだ……? 二年……?」


 ルトは首を捻り、困ったように空中に語りかけた。


「ねえ、『姫』、わたしは、この人を知っているの?」


 返事は聞こえなかった。だが、ルトは納得顔で頷くと、もう一度〈ヨトゥンヘイム〉を構えた。


「ルト……?」


 俺が訝しんで聞くと、ルトは嬉しそうな顔で言った。


「そっか、お兄さんは、わたしが率先して倒さなきゃいけない目標なんだね。そうならそうと言ってくれればよかったのに」


「何を言って……っ!」


 ルトが攻撃を再開し、俺は攻撃を受け止める。


「おい! ルト、どういうこと! 説明してよ!」


「んー、わたしには難しいことはわからないけれど、お兄さんを倒すことで、わたしは『英雄』に一歩近づくんだって!」


 ますます訳が分からない。攻撃を止める糸口が見つからず、俺はルトの攻撃を防御するしかない。


 ルトは死んだ。それはもう二年前で、死んだ人間が生き返るはずなどない。だが、ルトはこうして俺に剣戟を叩き込んでいる。普通に考えれば偽物か何かだと言えるが、俺はどうしても彼女を攻撃することはできなかった。


 この場所は、HPの全損がプレイヤー本人の死に直結する領域であり、そしてまだ実現不可能と言われていた完全体感型VR空間なのだ。まだ知られていない可能性があってもおかしくはない。


 そして、前に伝え聞いた噂が、今になって想起されていた。幻想界で死んだプレイヤーは、その魂だけが残って幻想界をさまよい、まだ生きているプレイヤーを襲うというものだ。正直怪談レベルの眉唾ものだと思っていたが、この状況はぴったりとそれに当てはまる。もしその話が本当だとしたら、恐らく幻想界で戦っている最中に現実世界で殺害された真琴――ルトの魂は、こちらでさまよえる条件を満たしている。


 もし、あれが本物のルトの魂なのだとしたら。そうでなくとも、ルトの姿をした人物をこの領域で斬ることなど、俺にはできない。その一挙手一投足を見るに、彼女は間違いなくルトであると、俺の記憶は主張していた。


 反撃はできないが、ルトの強烈な攻撃の一発一発を確実に防いでいく。


「もー、お兄さんも本気になってよ! お兄さんがその気なら、わたしにも考えがあるよ!」


 もどかしそうに言うなり、ルトは新たなスフィアーツを起動する。赤いスフィアーツの輝きの隣に、複雑な紋様の浮かんだ深緑の光の珠が現れる。あれはレベル200の魔珠系スフィアーツ〈アルヴヘイム〉だ。


「いくよ!」


 ルトが叫び、高レベル魔法特有の派手なエフェクトをまき散らす。さらにルトは左手に新たな剣を出現させ、それを上に放り投げた。〈ヨトゥンヘイム〉を振り回し、その反動で浮かび上がる。


 直後、強烈な風が周囲に吹き荒れた。風属性地形破壊魔法〈サイクロン〉、俺は特に風魔法の威力を強化する〈アルヴヘイム〉の効果を警戒し、左腕に〈ドラウプニル〉を起動、〈リフレクション〉を発動した。


 が、その直後、〈リフレクション〉のガラスのような障壁が一瞬にして叩き割られる。そのまま降ってきた〈ヨトゥンヘイム〉の斬撃を辛くも避けるが、その時には既に、ルトは新たにスフィアーツを起動し、放り投げていた。


 再度吹き荒れる暴風。俺はまともに食らい、大きく体勢を崩される。そこに叩き込まれる、〈ヨトゥンヘイム〉による必殺の一撃。


 回避は間に合わない。無理な姿勢で防御したため、衝撃を逸らしきれず、剣の腹で攻撃を受けてしまう。結果、〈アスカロン〉の刀身は、粉々に砕け散った。


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