表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT3 「夢見る伝説」
50/62

A3-3

 ダンジョンにおけるボス攻略は、ゲームの花形だ。全体的に高いステータス、一筋縄にはいかない行動パターン、迫力の巨体。そしてそれを仲間たちと攻略する楽しみ。


 だが、幻想界で戦うプレイヤーたちにとって、ボスとは憎むべき敵であり、恐怖の対象でしかない。


 ボス部屋特有の巨大な扉の前に立って、俺は準備を整える。基本的に幻想界で活動するプレイヤーは、そのダンジョンの「住人」とコミュニケーションを取ることで情報を集める。だが、ボスだけはその限りではない。


 そもそも「住人」はボス部屋に入ることはできないし、入れたとしても何もできないだろう。だから何度も撤退戦を繰り返して、行動パターンを観察しなければならない。


 そのようにしてジル先輩は……。


 俺は首を振って、扉から現れたポップアップに触る。すると扉は大げさな音を立てて開き、俺を招き入れた。


 ボス部屋は、これまで窓から星の見える開放的なダンジョンだったのから一転して、電源施設を彷彿とさせる暗くて閉塞感のあるエリアだった。


 と、薄暗かった部屋に明かりが灯る。エネルギーラインであろう光の筋がいくつも部屋をかけめぐり、やがて中央へと収束していく。


「『アーク・オブ・ロジック』、か」


 表示されたボスの名前と能力値の概要を確認し、俺は獲物を構える。


 一言で表すのが難しい姿だった。名前の通りそれは同心円上に広がる光の環で構成されているのだが、部屋の各所にある機械的な柱と繋がっていたり、空中に浮かぶ砲台のようなユニットが惑星のように周回していたりする。


 どれが本体なのだろうか? 円弧の周りには複数のHPゲージが表示されており、〈看破〉してもHP残量がわからない。あれもボスのパーツなのだろうか。まずはそこから調べなければならない。


 俺は武器を構え、ボスの攻撃に備えた。


 ボスの最初の行動。それは意外なことに攻撃ではなく、環で構成された構造すべてを覆う黄緑色のバリアを出現させることだった。何事かと〈看破〉でステータスを見ると、みるみるうちにバフが追加されていく。バリアに向かって〈ショックウェーブ〉を放ってみたが、あえなく反射された。


 いかにも面倒そうなパターンだ。しばらくしてバリアが消滅すると同時に、〈ファルスクエア〉で〈メギドフレイム〉を放ってみる。狙いは中央の光の玉。


 これも、一瞬現れた緑色のバリアに阻まれる。


「なるほどな」


 と、円弧に沿って周回していたいくつかの浮遊砲台がこちらを向き、大砲のようなエネルギーの弾丸を発射してくる。


 だが、遅い。俺は強化された身体能力で飛び退き、さっきまでいた場所に〈リフレクター〉の壁を二枚出現させる。一枚は貫通されたが、二枚目は反射した。


「反射レベルは90か……」


 威力も大きそうだ。上級魔法より少し上ぐらいだろうか。


 次に俺はその砲台を狙った。〈ファルスクエア〉で〈エクスプローション〉を唱える。先ほどの反射攻撃でHPが減っていたのか、ばらばらと崩れさった。


 ボスの次の攻撃は、天井からのレーザー攻撃だった。だがこれも、事前に察知し回避する。前までの俺だったらまともに食らっていただろう。ジル先輩も危ないかもしれない。もっとも、そのためにジル先輩は耐久力を強化していたのだが。


 これはS.W.――リタとルトの――の力の一端だ。俺の脳内に根を張ったS.W,の欠片は、俺の記憶能力、思考能力、そして電脳への適応力を飛躍的に増大させた。


 全く馬鹿げた話だ。このゲームではどのような攻撃にも、必ず前兆が存在するのだ。エネルギーらしきエフェクトが収束したり、動きが少し変わったり、気をつけなければ分からないほど微々たるものもあるが、今の俺なら見逃しはしない。


 さて、次の確認事項だ。俺は中央の光の玉に向けて〈クラウ・ソラス〉を投擲し、直後、〈ファルスクエア〉で〈メギドフレイム〉を唱える。


 〈メギドフレイム〉の標的は、円弧に繋がっている機械的な柱だ。問題なく命中し、表示されているHPゲージが大きく減少する。一方、〈クラウ・ソラス〉のほうは魔法と同じく緑色のバリアに弾かれた。


 それを見て取って、俺は柱へと攻撃を集中させる。柱は全部で三本。相手の攻撃を回避しながら、全て破壊した。


 間髪入れず中央に向けて〈メギドフレイム〉を放つ。今度は弾かれることもなく、そのHPゲージが少し減少した。もう疑いない、あれが本体だ。


 そうと分かれば、あとは畳みかけるだけだ。俺は二本の〈クラウ・ソラス〉を飛ばし、コアらしき光の玉を挟む。そして例によって〈ショックウェーブ〉と〈リフレクター〉を使い、効率よくダメージを与えていく。相手の攻撃は確実に回避し、しかし攻撃の手は緩めない。ボスのHPはあっという間に半分を切った。


 と、ボスが唐突に全体を覆うバリアを出現させた。さらに部屋の四方八方の隔壁が開き、十数体の機械系モンスターが入ってくる。


 本体のほうは高みの見物を決め込むつもりか、悠長にバフを掛けなおしている。さらにHPを回復していた。


 なるほど、本体の攻撃があまり激しくなかったのはこのためか。おそらくあれは制御システムのようなものであって、戦闘能力には特化していない「設定」なのだろう。だから、このような護衛が必要となる。


「面倒だな……」


 掃討に時間がかかれば余分にHPを回復されてしまうかもしれない。ここは一網打尽にしてしまおう。手始めに、〈フレイム・レジスト〉を唱えておく。


 機械系モンスターの頭上を飛び越えながら注意を引き、なるべく多くを正面に捉えられる位置に移動する。それから〈クラウ・ソラス〉を投げつけ、それに向けてファルスクエアの〈エクスプローション〉を唱える。間髪入れず、投げた〈クラウ・ソラス〉で〈リフレクション〉を発動する。


 もし、外側からの光を透過し、中からの光を完全に反射できる球体があったとしたら。それはあまりに多くの熱量をため込みすぎて、やがて爆発してしまうという。〈エクスプローション〉の熱量は〈リフレクション〉の球体の中で際限なく反射され、〈リフレクション〉の効果時間が消えると同時に外へと放出される。


「消し飛べ」


 俺は腕輪の〈ゼピュロス〉で〈リフレクター〉を唱えながら呟く。


 巨大な轟音。視界は爆風で埋め尽くされる。そしてその部屋に残っていたのは、俺とボス本体だけだった。自爆でもないのにこの威力とは、野暮なことこの上ない。


 俺はさらにボスのHPを削るべく、攻撃を開始した。




――擬似記憶の再生を再開。




 ギルガメッシュ・オンラインを始めてから四ヶ月が経った。最初は危なっかしい場面の多かった戦闘にも慣れ、とりあえずは冒険にも不自由しない実力が身に付いてきている……と思う。


 ルトだって、今では〈カラドボルグ〉を遠慮なく振り回せるぐらいにはなった。強化魔法の数で刀身が延びるあの剣に僕はどうにも慣れなかったのだけれど、彼女はこれが気に入ったようだ。


 僕はと言えば、俗に言う魔法剣士タイプ。距離を選ばず戦えるのが、ストレスフリーでいい感じだ。


 現実世界のほうも、少しずつ変わってきていた。日に日に、日本から「水揚げ」されて来る日本人は増えてきて、各国もその対応に本腰をあげなくてはならなくなった。


 水揚げされた日本人が疎まれているかと言えば、そうとも言い切れない。第一陣ではそうでもなかったのだけれど、「水揚げ」される日本人の多くが、まだ若い人ばかりだったのだ。


 学校の授業で習ったのだけれど、先進国の多くでは少子高齢化が進んでいて、若者が必要なのだという。そこで、他の国の移民を受け入れることで働き手を確保しようという動きがあるわけだ。しかし、移民を受け入れるのには文化の違いとかでいささか抵抗がある。


 そこで、今回の日本電脳事変だ。


 発展途上国ならともかく、日本のような先進国から大量に移民が出ることなど普通はあり得ない。すでにちゃんとした教育を受けているし、今のところそこまで数が多いわけじゃない僕たちを、新しい労働力として迎え入れたくなるのは当然の流れだった。


 と、いうのは日本大使館で働くおじさんの言葉だけれど。


 とにかく、そういう波は僕たちにもやってきて、二つしか違わないはずなのにすごく背の高いお兄さんに連れられて、僕と真琴は近くの現地人たちが通う学校を見学したりしていた。それが功を奏してその学校で学ぶことになったのだけれど、それは秋からだ。


 ようやくサンフランシスコでの季節感を覚えて、少しずつ気温の上がってくる春の訪れを感じている頃。


 僕が何気なく「狭間の大樹・下層」をぶらついていた。珍しくルトがゲームに誘ってこなくて、、なんとなく手持ちぶさたになっていた。どうせソロでダンジョン攻略でもしているのだろうと思って、ならば自分も潜ろうと探索するダンジョンを見繕っていたのだ。


 だから、マップの上層部で一人膝を抱えているルトに出会ったときには、きっと攻略が上手くいかなかったんだろうなあと思って、軽い気持ちで声をかけた。


「どうしたの?」


 ルトははっと顔を上げて、僕のことを凝視した。


「リタ……?」


「うん。で、どうしたの、そんなひどい顔して」


 少しだけ違和感を覚えた。あの真琴が、ゲームで何かあったからといって、こんな表情になるだろうか。それは悔し涙とかそんなのじゃなくて、何かに怯えているような、そんな表情だった。


「ねえ、わたしは……死ぬのかな」


「え……?」


 僕が聞き返すと、ルトは首を振ってから、両手でむちゃくちゃに涙をぬぐった。


「ううん。あ、あれだよ……。寿命とか、病気とか……。わたしたちも、いつかは」


 僕は、とっさに言葉を返していた。


「大丈夫だよ」


 ルトはびっくりしたように、もう一度こちらを凝視した。それから、安心したように微笑む。


「うん」


「こんなゲームができるぐらいなんだし、僕らが大人になる頃にはきっと、そういうことも何とかなるんじゃないかな。ほら、映画みたいにさ」


 ルトはくすりと笑った。


「そうだね」


 僕は安心する。ルトは、未来のことをちょっとだけ不安に思っただけなんだ。仕方ない、今の僕たちは、故郷から離れ、ひどく先の見えない暮らしを強要されているのだから。

僕は手をさしのべて、一緒にどこかのダンジョンを攻略しようと誘う。


 もう大丈夫だ。


 でも、この時。僕は何もわかっちゃいなかったんだ。ルトが、どうして「狭間の大樹・下層」の()()()にいたのか。どうして、僕がログインしてもメッセージを寄越してくれなかったのか。


 最初にあったこの異変から、少しずつルトは変わり始めた。普段は、いつもの元気な様子なのだけれど、ふとした時に、暗い、影のようなものが表情に混ざることがあった。


 特に、ギルガメッシュ・オンラインにいるときにはその変化が分かりやすかった。一番印象に残っているのは、ボス攻略をしているときだ。大迫力のボスの姿を見て、僕はよく尻込みしてしまうのだけれど、ルトはぎりりと歯を食いしばるのだ。


 こんな感じで、別に劇的な変化があったわけじゃない。けれど、一つ一つの変化が寄り集まって、僕に一つの示唆を与えていた。


 そんなわけで、ルトには悪いけれど、僕はスパイのまねごとをしなければならなかった。あの時のように、ログインしているのに僕にメッセージを飛ばしてこない日。僕は粛々と情報収集にとりかかる。


 当然、ルトに知られてはならない。といっても、自分のことに関してはひどく杜撰な管理体制の彼女だ。それ自体はそんなに難しくなかった。それよりも、情報を集めるということ自体が、僕にとっては難しかった。


 やっと話せるようになってきた英語でネットの掲示板を読み漁り、ゲーム内の掲示板でそれとなく情報を集めだした。その課程で、情報というものがどういう場所に転がっているのか、僕はよく知った。


 期間にしたら、二ヶ月ぐらいだったか。集めたものと言えば、ささやかなものだ。けれど、それで十分だった。


 教訓。情報というものは、一を手に入れたらそれを使って二を引き出すべし。


 日曜日、僕はルトがログインしたのを見計らって、彼女がまだ「狭間の大樹・下層」にいるうちにコンタクトを取った。いつも通りに接し、今日の予定を決める段階になって、僕は用意していた台詞を言う。


「ねえ、ルト。久しぶりに、デュエルやってみよう?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ